日本一“熱い街”熊谷の社長日記

組織論の立場から企業の“あるべき”と“やってはいけない”を考える企業アナリスト~大関暁夫の言いっぱなしダイアリー~

二人の“ヒール”と所属団体~「決断」の戦略的価値

2010-02-05 | ニュース雑感
昨日のNEWSは「朝青龍引退」「小沢不起訴」で持ちきりでした。相撲と政治と、全く別の世界のNEWSではありましたが、共に主役は似た境遇で稀代の“ヒール(悪役)”。その身の振り方に伴う組織のイメージへの影響度合いと言う観点で、各所属団体の決断の戦略的価値を比較できる出来事であったと、興味深く見させていただきました。

まず、横綱朝青龍。まぁ当然、現役№1の実力者で、歴史的に見ても優勝回数歴代3位と言う“大横綱”であります。しなしながらその素行の悪さから、これまで何度となく厳重注意を受け「横綱の品格」を問われ続けてきてもおり、一昨年には二場所謹慎処分など引退の危機もありながらそれをなんとか乗り越えてここまでやってきました。しかし今回は、一般人相手の暴力事件。被害者とは示談で済んではいるものの、“横綱としての品格と責任”はいかがなものかと、マスメディア、世論の論調は連日かなり批判的なものが多く見受けられました。

結果は「引退」。相撲協会横綱審議会も「引退勧告」を満場一致で決め、その強制執行がなされる前に“本人申し出”による引退を表明させた(表向きは自発的に引退表明した形にはなっていますが)ことで、最低限の横綱のステイタスと貴乃花親方理事選問題にも揺れた日本相撲協会の面目を保つことができたと思われます。本日のマスコミ各社の報道スタンスは、いつになく朝青龍および協会に対して好意的なものが目立ち、これまで、思慮不足もしくは後手後手による失策ばかりが目立ってきた相撲協会の「戦術」は見事にハマった形となりました。テレビ、新聞報道で見る限りの一般人の評価も上々で、「ケジメがついた」というイメージが強く打ち出され、「ケジメをつけた横綱および相撲協会」に対してこれまでの流れを水に流すぐらいのイメージ転換効果があったと思います。

一方、“政界一のヒール”小沢一郎氏。田中角栄直系の民主党“大幹事長”でありますが、ゼネコン相手をはじめとした“素行の悪さ”も天下一品。“壊し屋”の異名とともに「政治家としての品格」を問われることもたびたびあり、昨年は「西松献金疑惑」で民主党代表を辞任(本人はそれを理由としなかったですが…)という“ひん死の重傷”を負いながらも、民主党の政権奪取とともに幹事長として“実質№1”的地位に返り咲いていました。それが再びここにきて過去の不透明な資金操作から「政治とカネの問題」としてクローズアップされ、現職議員を含む元秘書ら3人が逮捕。自身も地検から被疑者として追及されるに至り、幹事長辞任、議員辞職を求める声が世論的に高まるという状況で、朝青龍同様の再び窮地に陥っていたわけです。

昨日、本人は「証拠不十分で不起訴」となったものの、秘書ら3人は「起訴」。これを受けて小沢氏自身の選んだ結論は、「本人不起訴につき続投」。民主党の結論も鳩山総理の会見によれば、「人事を見直す理由なし」との見解にあいなった訳です。「本人不起訴」ばかりが表に出ている現状ですが、秘書ら3人が小沢氏の不透明な資金管理を理由に「逮捕」→「起訴」という流れに至ったことは、小沢氏自身も大変重大な責任を負うべき状況な訳です。それをさも“無罪放免”であるかの如き対応の小沢氏と民主党な訳ですから、当然、マスメディア、世論の論調は、「これでいいのか小沢?」「これでいいのか民主党?」となっています(相変わらず小沢氏に相対する記者は弱腰ですが…)。

限りなくクロっぽい“実力者ヒール”朝青龍に引導を渡し、“ケジメ”をつけさせることで“潔さ”をイメージさせ、自らの最低限の信頼を守った日本相撲協会。対して、同じく限りなくクロっぽい“実力者ヒール”小沢一郎氏を“無罪放免”とし、“自浄作用”と“ケジメ”のなさを露呈した民主党。あまりにも対照的な結末でありました。今回の戦略的過ちによる民主党のイメージダウンはかなり大きく、このままでは夏の参院選にも影響を及ぼすことは必至でしょう。民主党は時同じくして起きた日本相撲協会の“ケジメある決断”を自身の選択と比較し、戦略的見地からの過ちを認識して、組織戦略におけるの長期的展望の観点から今一度小沢氏の処遇を考え直すべきなのではないかと思います。世論の声に耳を貸さない政党に政権を委ねていいのか、そんな疑問すら湧いてくる民主党の現状です。