日本一“熱い街”熊谷の社長日記

組織論の立場から企業の“あるべき”と“やってはいけない”を考える企業アナリスト~大関暁夫の言いっぱなしダイアリー~

フィギュア・スケートはコーチの闘い~「攻め」と「守り」の戦略バランス

2010-02-24 | その他あれこれ
昨日の続き的に…

本日はオリンピック、フィギュア・スケート女子のショート・プログラムが行われ、韓国のキム・ヨナ選手が歴代最高得点で1位を確保し、日本の浅田真央選手は久々に完璧に近い演技を披露しそれに続く2位につけています。フィギュア・スケートは、ややもすると選手の技や表現力などその力量がすべて勝敗を決すると考えがちでありますが、実は選手の力量以上に重要な位置を占めているのがコーチの役割なのです。

例えば先週行われた男子の競技、唯一4回転ジャンプを成功させたロシアのプルシェンコ選手は2位に甘んじ、4回転をプログラムに入れなかったアメリカのライサチェック選手が金メダルに輝くと言う結果になりました(プルシェンコは結果を不服として抗議の意向を示してはいますが…)。これはとりもなおさず大舞台での雌雄を決するポイントとして、選手の力量うんぬんだけではなくコーチによる戦略的な組み立てもかなり大きな部分を占めていることを示しています。すなわち、選手が練習を重ねて誰にもできない技を習得する「突出的強み創造プラン」よりも、自身の「弱み」を強化しかつ既存の「強み」をどう伸ばしていくかを心がけるいわば「リスク管理型バランスプラン」とも言うべき戦略が勝利へと導いた訳です。男子フィギュアの成否は、まさにコーチの「戦略」の立て方にかかっていたと言っていいでしょう。

競合相手の「戦略」を分析した上でよりマーケットに訴えかける力の強い「戦略」を策定し、かつ昨日のネタとしても取り上げた選手の「リスク管理戦略」をしっかりおこなうことこそが、フィギュア・スケートのコーチの役割であり、敵を意識した「攻め」と失策を最小限にとどめる「守り」のバランスのとり方は、企業戦略とも符合する部分であるようにも思われます。例えば、現安藤美姫選手のコーチ、ニコライ・モロゾフ氏は、前回のトリノ大会では荒川静香選手のコーチを務め、超難度の技を封印し彼女の良さである表現力のアピールに重点をおいた「戦略」(よく知られるように、あのイナバウアーは技的には点数の稼げるものではなかった訳です)で、超難度演技に失敗を重ねた他の有力選手を尻目に見事金メダルに導きました。まさしく「戦略」の勝利であり、先週の技の力量以上にコーチの「戦略」がものを言った一戦であったのです。昨日取り上げた織田選手のコーチは、リスク管理と言う「守りの戦略」が甘かった点で、選手の力を十分に出し尽くしてあげられなかった訳です。いかにコーチが重要な存在か、よく分かろうと言うものです。

さて、注目の女子フィギュア・スケート。明後日のフリー演技ではキム・ヨナ、浅田真央両選手の対決に注目が集まりますが、やはりこの二人のコーチも「戦略」面で明らかな違いがあるようです。キム選手のオーサー・コーチは、超難度の3回転半ジャンプを封印し彼女の丁寧な表現力に磨きをかける「戦略」で、彼女を現在の“絶好調”に押し上げてきました。一方の浅田選手、タラソワ・コーチは彼女の演技を超難度の3回転半ジャンプを軸に組み立てたものの、昨年秋にはこれが大スランプの原因にもなってきました。タラソワ・コーチは、それでも方針を変えることなく3回転半ジャンプを軸に据えたまま浅田の立て直しをはかって、オリンピック本番を迎えました。本日のショート・プログラムでは見事3回転半を成功させ、“復活”を印象付けた形ですが果たしてフリーではどうなりますか…。

キム・ヨナ対浅田真央は、オーサー対タラソワのコーチ対決でもある訳で、ショートに引き続きバランスと表現力重視のオーサーか、3回転半を2回で逆転を狙う攻めのタラソワか、そんな戦略対決の観点からも注目したい一戦です。