日本一“熱い街”熊谷の社長日記

組織論の立場から企業の“あるべき”と“やってはいけない”を考える企業アナリスト~大関暁夫の言いっぱなしダイアリー~

売れ筋ブック・レビュー~「フォーカル・ポイント/Bトレーシー著・本田直之監訳」

2009-10-27 | ブックレビュー
★「フォーカル・ポイント/ブライアン・トレーシー著 本田直之監訳(ディスカヴァー1500円)」

ブームに乗って続々発刊されている“本田本”の1冊です。本田氏が「最も影響を受けた本」だそうで、自身が廃刊になっていた本書の翻訳権を取得し今回の発刊に至ったそうです。著者はアメリカで有名なビジネス・コンサルタントで、現在は著名スピーカーとして講演を中心とした活動を展開しているようです。本書は2002年の発刊です。

一言で言えば、最近はやりの自己啓発本の総ざらい的1冊であると思います。「重要なことに絞り込む」「シンプルにする」「レバレッジをかける」と言った自己啓発のポイント指導はまさしく本田氏のそれでもあり、売れっ子ビジネス書作家である彼のネタ本的重要書籍を直接読むことができる機会であると言う点で、とても興味深い1冊であります。中身は当然、本田氏のレバレッジ・シリーズとダブる部分は多くありますが、レバレッジ部分にばかり話が集中している訳でもありませんので、氏をはじめ神田昌典氏、勝間和代氏など昨今の売れっ子の自己啓発作家たちがつくりあげた時流の原点的自己啓発本としてかなり面白く読める良書であると思います。

ポイントとなる著者の示唆、例えば「ゴールを決める」「ゴールを紙に書く」「ゴールに締切をもうける」「今すぐ行動する」「ノーと言うことを学ぶ」等々は、内外の成功者や自己啓発に関する著名スピーカーらがその著作や講演で口々に言っていることばかりであります。成功者の多くが口々に本書の中身と同じようなことを言っているということは、裏を返せば、成功する人たちの成功の要因における最大公約数的なモノはここに書かれているような内容に集約されるということにもなる訳です。そう考えると、本書は世に流通する成功の秘訣に関するネタ元がここに存在するかのような説得力をもって読む者に迫ってくる感じがします。

ただ少しばかり気になるのは、「プライベート・ライフ」の充実に関する記述と、経済的な充実すなわち「お金」に対する考え方、に関する記述です。前半の「自己啓発」に関する部分も根底にあるものはアメリカン・スタイルの合理主義的モノの考え方ではあるのですが、こと「プライベート・ライフ」や「お金」に関する部分については、日本とアメリカの文化や歴史的背景の違いが大きい部分でもあり、そのまま受け入れるには少し抵抗感があるように感じました。本田氏は、裸一貫でMBAを取得しにアメリカに渡り、アメリカ人として現地に入り込んで死に物狂いで生き抜いてきた経歴があるので、おそらくスムーズに受け止められるのでしょうが、我々一般的日本人には意訳的解釈とでも言うでしょうか、その考え方を受け入れるには少々アレンジが必要ではないかと思いました。

プライベート・ライフを含めた「自己啓発」と「お金」の指南というと、「金持ち父さん」ことロバート・キヨサキ氏が思い浮かびます。同じアメリカの成功者ですから、当然似たような主張や示唆も見受けられもします。キヨサキ氏の場合、あくまでビジネス・パーソンの立場からの指南であるため、過去の具体例にこだわり過ぎるあまりその事がかえって分かりにくさを生んでいるのに対し、トレーシー氏の場合コンサルタントの立場から、よりポイントを明快に整理した形で指し示している点で断然読みやすいと思います。

この手の本は、読む人によって合う合わないがあるとは思います。私個人は先のアメリカン・スタイル云々を除けばけっこう共感できる部分も多いので、10点満点で8点とします。個人的には最近、その日本人離れしたと言えそうなライフスタイルがやや鼻についてきた本田直之氏ですが(この本を全面的に礼賛する姿勢から、氏のアメリカナイズ的思想がますます良く分かります)、彼のような生き方を目指したい人には必読の一冊でしょう。