日本一“熱い街”熊谷の社長日記

組織論の立場から企業の“あるべき”と“やってはいけない”を考える企業アナリスト~大関暁夫の言いっぱなしダイアリー~

大ヒット「5万円パソコン」が教えてくれること

2008-09-19 | マーケティング
5万円前後の低価格で、従来のノートパソコン(PC)より小型・軽量のミニノートPCが飛ぶように売れているといいます。

そもそもこの商品に先鞭をつけたのは、台湾PCメーカーのASUS(アスース)。昨年の10月に300ドルを切る格安PCを発売し、クリスマス商戦で大ヒットするや、競合他社も続々とこの市場に参入したのです。ノートPCで世界シェア第1位のヒューレッド・パッカード(HP)や第2位の台湾エイサーはいち早く追随。米国のDELLも参入を表明、日本のSONY、富士通もようやく重い腰をあげはじめたようで、一大ブームを通り越しもはや新たなマーケット創造とも言えそうな事態に至っています。

小型・軽量のミニノートのコンセプトは、製品を小さくしかつ機能を削ぎ落とすことで価格を引き下げるというものです。そもそも、画面サイズが10インチ以下のミニノートPCは、日本のメーカーが得意の小型・軽量化を製品の「付加価値」として位置づけ、小さくするほど価格を高くする戦略で市場を独占していました。言ってみれば、ASUSの戦略は発想の大転換。というよりも、利用者の立場で「何かおかしくないか?」と考える疑問からニーズを探り出し、メーカーの立場でこれに応えた勝利なのです。

そもそもPC業界には過去にも似た事例がありました。PC販売におけるDELLの数年前に始まった大躍進は、もともとこれとかなり近い発想に根差したものです。国内はじめ大手PCメーカー各社はPCの販売価格の低下を嫌って、TVチューナー内蔵、録画機能、動画編集機能等の「家電機能」を満載させることで、価格の維持をはかってきました。DELLはその間隙を縫って、商品的な贅肉をそぎ落としかつオンライン販売で徹底したコストダウンをして成功したビジネスモデルでした。

当初法人向けとして考えられていた低価格PCは、今や個人利用も当たり前になり、「家電PC」を扱う各社はDELLに対する利用者の絶大な支持を見るや、遅ればせながら同様の商品をこぞって後追い販売する動きをとっています。マーケティング的に言えば、DELLは利用者のニーズ重視の「マーケット・イン」の考え方で成功し、追随各社はメーカーの論理重視の「プロダクト・アウト」の戦略で後手を踏んだのです。時代にあった戦略の有効性の違いが如実に表れた結果と言えるのではないでしょうか。

今回の件は、少し前にDELLの新しいビジネスモデル出現でPC販売戦略として一敗地にまみれたPCメーカー各社がその反省を活かせず、またもや小型・軽量のミニノートPC分野で同じ轍を踏む羽目になったのです。要するに、独占的に扱ってきた“高付加価値製品”にあぐらをかいて、小型・軽量のミニノートPCの利益確保を優先。かつ既存の普通サイズノートPC売上への影響にも配慮して、商品化をできるのにあえて手を出さなかった感の強い国内PCメーカー各社は、またしても消費者のニーズに応えた新商品の前に、完膚なきまで打ちのめされたという訳です。

どんなビジネスでも同じことですが、今や送り手主体の「プロダクト・アウト」の戦略は受け入れられにくい時代です。自社の利益優先や同業との暗黙の了解の元での既得権的利益確保のあまり、顧客ニースを優先した「マーケット・イン」の考え方を忘れてしまうことが、いかに将来にわたる利益を逃すことになってしまうのか、小型・軽量のミニノートPCの大ヒットはこれを如実に物語っていると思います。