日本一“熱い街”熊谷の社長日記

組織論の立場から企業の“あるべき”と“やってはいけない”を考える企業アナリスト~大関暁夫の言いっぱなしダイアリー~

サービス価値の再考~「まごごろ」の商品価値

2008-05-19 | マーケティング
先日、「ゼロベース思考」の考え方をお話ししました。その関連で少々。

ある方からのご質問、「マツモトキヨシのゼロベース思考的成果は、ドラッグストアで菓子やら飲料やらを売るという発想の転換ですよね。セブンイレブンのゼロベース思考的成果って何でしょう?」。

お答えします。一言で言うならば、「時間をお金に換算したこと」ですね。

その昔TVCFで、「♪セブンイレブ~ン、いい気分!開いてて良かった!」というフレーズが盛んに流されていました。これすなわち、セブンイレブン側からのショップコンセプト・メッセージだったのです。どういうことか?要は、「基本は24時間営業ですから、いつでもモノが買えるんですよ。そこが当店の「価値」です。ですから定価販売です。スーパーのように安くはしません」ということ。

それまで、スーパー等の流通業の競争基準は「品揃え」と「価格」と相場が決まっていました。ところが、スーパーと同様の商品を扱うセブンイレブンが、「品揃え」で大幅に負け、「価格」は値引きしない、そんな商売を始めたのです。しかも始めた企業母体はスーパー大手のイトーヨーカ堂です。「日本でそんな商売は無理」と誰もが思いました。ところが、瞬く間にこの商売はコンビニエンス・ストアとして、日本中に広まったのです。利用者が、「24時間営業」=「コンビニエンス」=「利便性」に「価値」を見出したからこそ、このビジネスモデルが成立したのです。

これは、「ゼロベース思考」による「サービス価値の再考」が新たなビジネスモデルを生んだものと言えると思います。

もともと日本の多くの個人商店は、「定価販売」を続けていた訳ですが、大手資本の台頭により「品揃え」と「価格」の競争に巻き込まれ、その多くが廃店あるいは衰退に追い込まれたのでした。セブンイレブンが実証した“「時間」という「利便性」が「サービス価値」を持つ”という発想には至らなかったのです。もちろん、セブンイレブンがこの点に気が付いた背景には、ライフスタイルの多様化による「生活24時間化」という仮説があってこそのものではあります。

では、この類の「サービス価値の再考」はこれからもあるのかどうかです。ヒントは、“「高齢化社会」による顧客ニーズの変化”にあると思っています。そしてもうひとつ大切なこと、競争力強化の旗印の下80~90年代に「コスト削減」の嵐の中で取りやめられたサービスにこそ、ビジネスとしての復権の機会があるように思います。

先日の独立系クリーニング・チェーン社長と話をしていて、大手の「ホワイト急便」や「白雪舎」などが、スーパー内立地などによる「利便性」と「安さ」を前面に出してシェアを伸ばす中、独立系には「サービスの濃さ」を「価値」に転換する道が十分にあると感じました。例えば、最近は少なくなったクリーニングの「御用聞き営業」や「宅配サービス」。一時期「過剰」「無駄」と切り捨てられたこれらのサービスは、高齢化社会の進展で確実に価値の高いサービスになってきたと認識されはじめたのではないでしょうか。さらに、先日の話の「ボタン付け替えサービス」などは、まさに大手にはできない“価値ある”「サービスの濃さ」を体現しています。

お年寄りは若い世代とは違って、「安さ」や「利便性」よりも「まごころ」や「優しさ」に価値基準を置いてサービスを評価するように思います。「ホスピタリティ」という言葉が、ごく一般的に使われるようになった時代の流れもまた、小規模店舗の「工夫あるサービス」を後押ししているように思えもします。

大手資本にはできない「気の利いたサービス」こそが、“脱価格競争”への道筋をつける「サービス価値の再考」につながるのではないかと思うのです。過去の「ゼロベース思考」によるコンビニの成功例を再考するにつけ、改めてクリーニング・チェーン社長のお話しには感じ入るものが多々あった次第です。