日本一“熱い街”熊谷の社長日記

組織論の立場から企業の“あるべき”と“やってはいけない”を考える企業アナリスト~大関暁夫の言いっぱなしダイアリー~

大問題3たびの“失格企業”石原産業に退場命令を!

2008-05-26 | ニュース雑感
コンプライアンス違反企業石原産業の社長が、25日ようやく近隣住民へのおわび説明会をおこない、袋叩きにあったようです。

これまで静観してまいりましたこの事件。何よりも3度目の再犯とあまりに遅すぎる近隣住民への対応。当社がいかに問題企業であり、この時代に許し難い「コンプライアンス違反企業」であるのか、とえりあえずは概要を。

事の発端は、今月17日に石原産業の四日市工場(三重県四日市市)が化学兵器の原料にもなる有毒ガス「ホスゲン」を無届けで製造していた設備から、製造過程で出たガスを大気中に放出しながら、大気汚染防止法で義務づけられた県への届け出をしていなかったことが分かったというもの。ホスゲンというのは、1994年9月には、当時のオウム真理教の信者らがジャーナリスト江川紹子さん宅に噴霧する事件も起きたという、まさしく“毒ガス”です。

この事件が根深いのは、同社が“初犯”ではない点です。昨年11月、フェロシルト製造時に産業廃液を混入し環境基準を上回る「六価クロム」が検出され、虚偽申請により「県リサイクル製品」の認定を受けたことが発覚(後に、別の化学メーカーから処理を請け負った廃液をも混入していたことが判明)。今回の一件は、その重大事件の社内調査過程において事実が分かり、3月に同社から報告を受けた県が4月に立ち入り検査して発覚したものです。 同時に約40年にわたるアンモニアガスの伊勢湾への放出という“悪事”も分かったのです。

さらに重大なことは、石原産業という会社の歴史です。同社は67年に「四日市公害訴訟」の被告企業として訴えられ、69年には同社の工場汚水で硫酸廃液を海に垂れ流すという「石原産業事件」を引き起こして、大きな社会問題化したという大変な“前科”を持っていたのです。

人間でも同じ、たとえ前科があっても反省をし、更生を誓って努力をしている者は世間も温かいまなざしで迎え入れてくれるでしょうし、また社会もそうでなくてはいけません。しかしながら、重大な前科のある者が再びならぬ3たびも“犯罪”を重ねることは、社会も世間も決して許さないでしょうし、社会秩序の維持の観点からも決して許してはならないと思うのです。

しかも今回、一番先に謝罪をしなくてはならないはずの近隣住民に対してのお詫び説明会が、事件発覚から一週間以上もたってからの開催と、自社が犯した問題の重大さに対する「責任」のかけらさえ感じられません。

こんな不祥事が半世紀近くにもわたって起こり続けている裏には、必ずやいかんともしがたい「組織風土」の問題があるのです。自分たちだけ良ければそれでいい、地域環境や住民のことなどこれっぽちも考えない、バレなければ何をしてもいい、そんな社会性ゼロの組織風土が何度も何度も、世に悪を垂れ流す重大な事件を引き起こし続けているのでしょう。

今回のお詫び説明会で、織田健造社長は「こういう会社にしたのは歴代の経営者。私は絶対に変えたい」と言ったそうですが、織田社長は住民説明会後に会見し現在は稼働を停止しているホスゲン製造設備について「今後、地元の理解が得られれば再開したいと思っている」との意向を示したと言います。現時点で、再び住民感情を逆なでするようなこの発言、まさに「問題組織風土」のなせるものに他ならず、社長がこんな状況である以上過去の経営者と何ら変わりなく、会社の体質を変えることなど無理であると断言できます。

このようなニュースが世界に配信されることを考えると、こんな“反社会的”問題企業が東証1部上場の企業として存続をしていること自体が日本の恥であり、東証上場管理室をはじめ市場関係者は、「上場廃止」を含め厳格な態度をもって臨むべきであると思います。本件に厳格な姿勢で臨み、“失格企業”としてマーケットからの退場を命じることで、まだまだ存在するやもしれぬ隠れた問題企業たちへの警鐘を鳴らす必要があるのではないでしょうか。

今回の事件の問題点を思うにつけ、いよいよ本格スタートしたJ-SOX法は会計面からの「内部統制」強化に過ぎず、上場企業の真のガバナンス強化はJ-SOX法では及ばない部分に多くの課題を残しているのだということ痛切に感じました。この機会に企業経営者は、会計面ばかりに捉われない正しいガバナンス経営のあり方に関し真摯に対応する必要があるということを、改めて肝に銘じなくてはいけないのだと思います。