日本一“熱い街”熊谷の社長日記

組織論の立場から企業の“あるべき”と“やってはいけない”を考える企業アナリスト~大関暁夫の言いっぱなしダイアリー~

異業種に学ぶ「クレーム力」

2008-05-14 | 経営
一昨日の夜会食した独立系クリーニング・チェーン社長の話。「クリーニング業界というところは、昔からクレームの嵐なんですよ。言い換えればそれだけビジネスチャンスがあるってことです」。

昨今「クレーム力」なる言葉が注目を集め、「クレーム対応こそビジネスチャンスの宝庫」などの話を耳にすることも増えていますが、“クレームの嵐”という業界の第一線では、どのようにして「クレーム力の強化」を図っているのか、興味深い話を聞くことができたので少し紹介します。

「まずクレームは体系化します。起きやすいクレームごと、クレームの重たさごとに分類します。その上で、発生頻度の多いクレームやお客様にとっての重大クレームは、どうしたら未然防止が図れるか、またクレーム防止につながる新たなビジネスはないかを皆で考える訳です」。クレームの体系化や再発防止策の策定ぐらいまでは、どこの企業でもやれそうな話ですが、「クレーム対応のビジネス化」ってあまり聞いたことがないですよね。

「クレーム対応のビジネス化」の話は後に譲って、何をおいてもまずは、クレーム防止の基本を抑えておきましょう。一般的に言ってクレーム防止の基本は、クレーム発生要因となりうる事象の事前ディスクローズの徹底と顧客パーミッション(了解)を得ることです。このクリーニング・チェーン社長はまさにその点をしっかりと実践しています。

「例えばですね、『この服には小さな穴がありますが、このままクリーニングしますと広がる恐れがありますがよろしいですか?』みたいな一言。こんな簡単なことを一言言うだけでクレームが起きないばかりかかえってありがたがられる。それでもし穴が広がらなかった時には『気を遣って対処してくれたんだ』とか『たいした技術力があるんだな』とかの解釈をしてくれるんです」。

「対顧客コミュニケーションの活性化」と「クレーム要因の見える化」が、信頼感の向上につながっていることがよく分かると思います。私が常々申し上げているように、全てのビジネス成功のための重要ファクターは、「コミュニケーションの円滑化」と「あらゆる要因やプロセスの見える化」に相違ないのです。組織内においても組織外とのかかわりにおいても、「人」がかかわる以上基本は全く同じことです。

さてここから、先の社長の「クレーム対策のビジネス化」の話です。

「クレーム要因のディスクローズの際に、『ご心配でしたらこんなサービスはいかがですか?』というのが、クレーム対策のビジネス化と言える部分ですね。例えば、大切なジャケットやガーディアンのボタンのハズレや破損って心配じゃないですか。ウチではそんな方のために『ボタンの付け替えサービス』というのを有料でやっています。ボタンを全て外して、クリーニング後にプロがしっかり縫い付けるサービスなんです。ハズレそうなボタンがあっても安心ですし、定期的に付け直しした方がしっかりしていいですよね。ボタンのクリーニングっていうのは、銀紙かぶせて変色は防止しますけど、付けたままでは確実に劣化しますからね」。

「このサービス始めるのに、初めは『ボタン付け替えに金を取るのか』って怒られはしないかと思ったのですが、やってみると服のボタンに関するクレームがなくなったばかりじゃなく、『大事な服を大切に扱ってくれるクリーニング屋さん』として大変好評で喜ばれてます。これはほんの一例ですが、お客様のクレームに学ぶことは本当に多いです。まさにクレームはビジネスの先生ですね」。

このように「クレーム力」の強化は、その企業の取り組み姿勢ひとつで大きく変わることがよく分かると思います。会社固有のクレームには「同業他社との逆選別防止」の観点からどこの企業でも再発防止に動きますが、「業界内共通のクレーム」には「他社も同じだから」と改善に目を向けない傾向が強いように思います。これは実は、「マイナス防止主眼の“逃げのクレーム対応”」なのです。逃げずに前向きに「業界内共通のクレーム」対策に取り組めは取り組むほど、同業他社との差別化を決定づけ、その会社の「ブランド化」につながる決定打にもなるのです。

先のクリーニング・チェーンのボタン付け替えサービスは、「同業他社との差別化につながる“クレーム力の強化”」としての示唆に富んだ例であると思います。