日本一“熱い街”熊谷の社長日記

組織論の立場から企業の“あるべき”と“やってはいけない”を考える企業アナリスト~大関暁夫の言いっぱなしダイアリー~

「経験」と「実感」

2008-02-29 | ビジネス
本日2月29日は、弊社初の決算日です。

昨年の3月に会社を設立し、約1年何とかかんとかやって参りました。自分の会社を持って初めて、自社が無事年度末を迎えられる喜びと関係の皆さまへの感謝をしみじみと「実感」しています。

普段は人様の会社をあれこれつっついて、ああしろだ、こうしろだと、言いたいことを言わせいただいております。人様の会社の改善にご協力させていただく仕事に携わるものとして、この決算「実感」は大事であるなぁ、と感じ入った次第です。

その昔、駆け出しのバンカーだった頃、ある病院に大型融資を売り込んだ際に、私の説明に納得した院長の横で、院長夫人が一言。「大関さんは、お金を借りたことがありますか?もし借りたことがないとしたら、借りる立場の思いは分からないのだから、あなたの話を100%は信じるわけにはいかないわ」と言われたのでした。

大変ショックでした…。そうですね、何事も実体験に裏打ちされた「実感」のあるなしは、確かに大きいのです。「実感」があれば、目の前にある相手の問題に対して、過去に自分のケースでどう感じたか何が当事者としてのネックなのかなどについて、より質の高い的を外さないアドバイスができる訳です。融資を受けたことがなかった当時の私には、「目からウロコ」の一言だったのです。

この話のポイントは、「経験」と「実感」を別物で考えることにあります。私がこの時ショックだった理由はこうです。「経験」不足を指摘されたのなら時間が解決をしてくれるのかもしれないのですが、「実感」不足を指摘されたので、実際に自分でも銀行からお金を借りてみないことにはどうにもならないという、当時の私には全く新しい問題意識をつきつけられたからでした。

コンサルティングの話でこの問題を例示すると、「経験」とは場数をこなすことで、失敗も経験し徐々に勘どころが分かってくるという部分。言ってみればコンサルティング経験のことです。一方「実感」は同じ経験のなかでも、組織経験や管理経験や実務経験のことで、ひっくるめて言えば企業経験ですね。いくら、多くの資格を持って知識が豊富で、コンサルティング経験を積んでいても、この企業経験がなければ良質のコンサルティングにはつながらないのです。

一流大学卒でコンサルティング・ファームに就職し、ロジカル思考や分析のフレーム・ワークばかりを身につけて、人様の会社のコンサルティングに従事する“コンサルティング・エリート”の「落とし穴」は、そこにあるのかなと思っています。

「実感」することは、「相手の立場でモノを見、考える」というマーケティングの基本でもあります。脱線しますが、「官」にはびこる無意識の「官尊民卑」の思想は、まさに「民間経験」のなさに起因するこの「実感」不足が原因です。だからこそ、彼らがどんなに優秀であっても、「実感」不足を自ら理解し意識して「官尊民卑」を正そうとしない限り、絶対に改まらない問題であると断言できるのです。

本日無事に決算を向かえられた喜びと、周囲への感謝の気持ちを企業経営者として「実感」できることは、会社を設立したことで得られたありがたい財産として大切にしていきたいと思います。