日本一“熱い街”熊谷の社長日記

組織論の立場から企業の“あるべき”と“やってはいけない”を考える企業アナリスト~大関暁夫の言いっぱなしダイアリー~

勝負に負けて、ビジネスに勝った?東芝陣営の裏戦略を読む

2008-02-19 | ニュース雑感
(本日の原稿は、個人的推測の域を出ないこと、あらかじめご了解願います。)

昨日の続きと言いますか、昨日のブログを書いた後、どうもしっくり来なくて「何か変だぞ?」と思っています。

「次世代DVDにブルーレイ全面勝利!」連日の各紙報道やWEB情報を収集すればするほど、この主導権争いに関する突然の結末には、もうひとつ裏があったように思えてなりません。それは、東芝側に昨年後半あたりから綿密に練られた「撤退戦略」があったのではないかという推測です。なぜなら、この分野からの計画的撤退をいかにスムーズに、いかにダメージを受けずに遂行するかというシナリオづくりがあったとしてもおかしくないほど、“美しく”早い撤退決断であったからです。

何よりまず、東証が休みの日曜日朝の日経新聞の“抜き”にはじまり、日経紙面に出るは出るはの練られた続報の見事さ。しかも半導体ビジネスへの資本傾斜投入という、「選択と集中」をイメージさせる高度な合わせ技での記事の取り上げ・・・。東芝の広報戦略が日経新聞の紙面を使って展開されている、とさえイメージされるほどの用意周到な報道展開でした。

追いかける他紙の記事とは明らかな内容、ボリュームの差があり、いかに経済専門紙の日本経済新聞と言えども、東芝側からの相当な事前リークなくしては、これだけの原稿群を戦略的な並びで書き連ねることは不可能であると、小職の記者経験からも実感させられるところです。

東芝が計画的撤退を考えたと推測される最大の理由は、東芝自体の企業戦略として家電分野に拡大路線はない、という点に帰結します。東芝は、もともとが松下やソニーのような家電部門が基軸の企業ではなく、主に重電をメインに発展し派生的に家電に進出した企業プロフィールを考え、「選択と集中」が求められるいまの時代の経営セオリーからすれば、昨年後半以降消耗戦に入りつつあった次世代DVDビジネスは「選択」から落ちてしかるべき状況だったのです。

しかしながら、ここまで戦っておいて、突然無責任に「やーめた」と言うわけにはいきません。だからこそ、周囲が辞めてしかるべきと思うような状況づくりが必要でしたし、結果そう仕向けたのではないか、と考えるのもそんなに強引な推理ではないと思います。なぜなら、記憶をたどれば昨年の年末商戦前までは、そんなにブルーレイ陣営が優位に立っていたと言う印象はなくて、年末以降急激に「ブルーレイ優勢」が明確になったように感じられるからです。

年末商戦におけるHD-DVD陣営の商品投入の遅れとPR戦略の力の入らなさは、今思えば「遅れをとった」というよりも意図的に動かなかったと考えるのが正解のように思います。家電メーカーにとって年末商戦は、年間最大の掻き入れ時であり、HD-DVD陣営が「敵」がどんな商品ラインアップでどのような販売戦略を仕掛けてくるのか、全然情報がなかったと考えるのはむしろ不自然ですから。

さらに、年末商戦後の年明け1月4日の米国映画配給会社ワーナーブラザースのブルーレイ一本化宣言も、東芝陣営の“仕込み”だったのではないかとさえ思われるタイミングの良さでした。1月4日?なぜ年明け早々なのでしょう?なぜ、年内ではなく、もしくは年末商戦の結果が報じられる1月中旬以降でもなく・・・。

利幅が薄く、この先しばらくは大きな収益が込めない次世代DVDビジネス。両陣営の主導権争いが激化すればするほど一層の消耗戦に突入し、遅かれ早かれ企業としてのビジネスコンセプトという観点から見直しのターニングポイントが来るとの読みがあり、「年末商戦大敗」→「年明けワーナー離脱」→「撤退表明」→「今年度末での終止符」のシナリオは、かなり早くからできていたのではないかと思えます。

東芝は日経新聞の気の利いた報道のおかげで、「選択と集中」戦略を重視した的確な経営判断とのマーケット評価を受け、株価は下げるどころか上昇に転じており、まずは狙いどおりの“軟着陸成功”となりました。一方の勝ったソニーですが、今後の開発コスト負担とハードの低価格化を考えると、収益環境はかなり厳しく、決して手放しで喜べる状況ではない様子です。今回の勝利、東芝から「“熨斗付き”で贈られた、次世代DVD単独取り扱い権」と考えると、「貧乏クジ」を引かされたのは実はソニーの方だったのかもしれません。

昨日のブログに記した今回再認識したビジネスの鉄則に、新たにもう1項目、「ビジネスは、時には死んだフリも大切」を加えさせていただきます。