日本一“熱い街”熊谷の社長日記

組織論の立場から企業の“あるべき”と“やってはいけない”を考える企業アナリスト~大関暁夫の言いっぱなしダイアリー~

JT冷凍食品事件の本当の問題点

2008-02-04 | ニュース雑感
ブログをお休みしている間に、私が取り上げないわけにはいかない大事件が発生しました。JTの冷凍食品中毒事件です。

いつもの私の論調で、「元三公社のJTはけしからん!」と言うは簡単なのですが、実は今回の事件にはもっと根源的な問題が存在し、それが解決されないことには同じような事件はいつ何時再び起きることも否定できないと思っています。

まず、消費者の立場で考えてみないといけないこと。それは冷凍食品の販売価格の問題です。私は常々冷凍食品の売られかたの「異常性」が気にかかっていました。具体的に何かというと、常にどこのスーパーでも「3割引き」「4割引き」は当たり前、日にち限定で「5割引」などというもの日常茶飯事的に行われています。

これを不思議に思いませんか?利幅のある高級商品ならともかく、もともとが手間の割には安価な商品であり、いくら冷凍で生モノよりもロスが少ないとしてもです。私が問題視しているのは、今回の事件の裏にある、冷凍食品の低価格化ならびに日常的大幅値引きに耐えられる生産コスト管理を業界の常識としてしまった、冷凍食品業界全体の責任はどうなのかということです。

事件の原因がどうであれ、食品を扱う企業としての今回の件に関するJTの責任は免れ得ないでしょう。しかし、それ以上に、食品安全性の低下リスクを犯してまで製造コストの削減をはからざるを得ない過当競争を繰り広げてきた、業界責任というものをもっと問うべきでないかと考えています。

中国に一度、二度行ったことのある人間ならば、その管理文化の違い、工場労働者の仕事に関する考え方の違い、そして衛生管理面の意識の違いは、容易に分かっているはずです。すなわち、中国製のすべての食品を日本に輸入してはいけないとまでは言わないものの、管理リスクの存在するものは国内生産にするとか、工程管理上最終工程まで現地では行わないなどの工夫で衛生管理強化をするとか、そういった食品取扱業者としての責務を再認識した対応が、必要なのではないかと思います。

当然、その場合は製品のコスト・アップは避けられないでしょう。割引販売はもうできなくなるかもしれません。でも安全を買うコストであれば、消費者の理解は十分に得られるのではないでしょうか。

「過当競争による低価格化」→「人件費等コスト安の中国生産化」→「衛生管理面の脆弱化」という流れで、ビジネスを構築することは、結果的に間違いなく顧客期待を大きく裏切る行為であり、広い意味での「コンプライアンス違反」と言える行為なのです。

JTのような食品業界における後発企業であればあるほど、低価格戦略による既存シェアの切り崩しを図ることは常套手段となりがちですが、それによって少しでも安全性を損なうような管理体制に陥ってしまうならば、その戦略は放棄するぐらいの勇気をもたなくてはいけないのです。やはり、元“官企業”の悲しさか、頭は良くても、消費者を心から思う「ハート」の欠けた企業体質であったと言わざるを得ないと思います。

監督省庁である厚生労働省においては、食品業界における統一ルールとして、海外生産の食品についてはすべて、製品としてパッケージされる前の段階で、必ず日本国内でのチェックが入る工程管理を義務づける等の英断も必要なのではないかとさえ思っているのです。

もひとつ、本件がらみの別件です。
今回のJTの事件でまたまたインサイダー疑惑が噴出しています。事件発覚前に、JT株が大量に売られ株価が急落していたと言うのです。インサイダー取引の有無は調査の行方を見守るしかないですが、NHKとJT、ともに“官系企業”ですから、組織風土的にみて大いにありうる話であると思わされます。

今回のJT冷凍食品問題勃発で、ニュースの矛先が変わり「助かったぁ」と喜んでいたであろうNHKさん。それも束の間、JTのインサイダー問題がクローズアップされてしまうと再び火の粉がおよびそうな状況だけに、他局に比べてこのインサイダー疑惑の取り上げ姿勢が消極的なように思えるのは、私の気のせいでしょうか。