花邑の帯あそび

1本の帯を通して素敵な出会いがありますように…

「マッチ文様」について

2010-11-09 | 文様について

presented by hanamura


立冬を迎え、
北国からは少しずつ雪の便りが
届くようになりました。
空気が乾燥しているので、
風邪はもちろんですが、
火の元にも注意が必要ですね。

火の元への注意といえば、
「火の用心 マッチ 1 本 火事の元」
というかけ声が想い起こされますね。
拍子木をカチカチと打ち鳴らして町内を見回る
町内会や青年団などの人々の姿。
少し前までは日本の冬の風物詩として
なくてはならないものでした。

最近では防犯やご近所さん同士のふれあい
といった目的も兼ねて
復活気味ではあるものの、
昔にくらべれば、見かける機会も
だいぶ少なくなっています。

この「火の用心」のフレーズにある「マッチ」も
最近ではとんと見かけなくなった道具のひとつです。
一昔前には、炊事や風呂炊き、
たばこや仏壇に上げるお線香など、
マッチは各家庭で重宝されていました。
いまは電子ライターがそのかわりとなり、
マッチがあるお家はめずらしいのではないでしょうか。

今回は、そのマッチをモチーフにした
マッチ文様についてお話ししましょう。

ただいま花邑銀座店では、
そのマッチ文様の名古屋帯をご紹介しています。
下の写真をご覧ください。
こちらの帯は、
大正から昭和初期につくられた襦袢地を
お仕立て替えしたものです。



マッチをモチーフにした文様は
とてもめずらしいのですが、
アールデコの影響を受けた、
当時の大正ロマンや昭和モダンな趣きが
色濃く反映された意匠には、
現在でも色褪せない斬新さがあり、
とても新鮮に感じられますね。

散らされたマッチが
伝統文様である松葉文様のようにもみえます。
この文様から感じられるおもしろみというのは、
そうした伝統的な文様が
下敷きになっているように感じられる、
意匠の完成度の高さにあります。

和洋折衷の極みともいえる、
この長襦袢を着られていた方は
さぞ粋な方だったことでしょう。

ちなみに、当時の呉服屋さんには
さまざまな意匠の生地見本をみて、
お客さんが色柄を選ぶことができる
「染め見本」が置かれていました。

その染め見本帳では、
襦袢地と帯地が共通になっていました。
つまり襦袢と帯は、
同じ意匠のものがつくられることも
多くあったということです。

このマッチ文様の襦袢が作られた
大正から昭和初期の日本において、
マッチは重要な輸出品でした。
その生産量は、アメリカ、スウェーデンと並び、
3大マッチ生産国のひとつとされるほどでした。

マッチはもともと、1827年にイギリスで発明され、
世界各地に広まりました。
日本ではようやく明治時代に入って
生産されるようになったようです。

この当時つくられたマッチ箱には、
縁起の良い文様や大津絵(※1)風の風刺画、
さらには輸出向けの異国情緒のあるものや
企業名の入った宣伝用のものなど、
さまざまな意匠のものがつくられ、
現在眺めてもとても興味深く感じられるものが
とても多くあります。

当時、活躍した竹久夢二も、
マッチをモチーフにした作品を製作していて、
その人気の高さが窺えます。
写真の帯のマッチ文様も
おそらくその竹久夢二の作品から
ヒントを得たもののようです。

マッチは、大正、昭和と
長らくロマンの香りが漂う時代を
明るく照らす灯火でした。
こちらの帯も、お召しになれば、
心の中にロマンの明かりが
ぽっと灯りそうな気がします。

※写真は花邑銀座店でご紹介している名古屋帯の文様です。

※1
花邑日記「大津絵について」をご参照ください。


花邑のブログ、「花邑の帯あそび」
次回の更新は11月23日(火)予定です。(来週11月16日は遠方へ仕入れに行くためお休みとなりますので、ご了承ください。)


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