ヌマンタの書斎

読書ブログが基本ですが、時事問題やら食事やら雑食性の記事を書いています。

「空の境界」 奈須きのこ

2007-11-29 09:49:54 | 
最近、気がついたのだが日本のSF小説に元気が無い。

サイエンス・フィクションは空想科学小説と訳されてきた。私が子供の頃は、科学に夢があった。超光速飛行やブラックホール、多次元宇宙に多種多様なエイリアンたち。

科学はどんどん進歩した。新たな解明が進み、既存の学説が塗り替えられ、未来は果てしなく拡がっていく・・・はずであった。いつからだか不明だが、次第に悲観的な未来論が、深く静かに広まってきた。

科学は本当に人類を幸せにするのか?

そもそも、科学は万能なのだろうか。未来のエネルギーであるはずの核融合は、まだまだ実用化には程遠い。既に石油の枯渇が予測されてなお、石油を完全に代替するエネルギーは発見されていない。かつて、あれほど光り輝いた宇宙開発さえ、現在は足踏み状態となっている。

携帯電話やパソコン、遺伝子治療、バイオ・テクノロジーと次々とかつてのSF的アイディアが実現しているのに、果て無き科学の未来は見えてこない。

だからこそだと思う。ファンタジーや伝奇ものがフィクションの世界で急速に増えてきている。「ハリー・ポッター」シリーズの世界的ベストセラーは、決して偶然ではないと思う。

日本だと、伝統的な伝奇ものが復活し、新たな展開をみせてきている。その代表ではないかと思われるのが表題の著者、奈須きのこだ。ゲームのシナリオ・ライター出身だというのも、なかなかに新味を感じる。

いつも思うのだが、伝奇が面白くあるためには、普通の日常的光景がうまく書けていなければいけないと思う。その点からすると、奈須きのこはちょっと弱い。異常な世界、異常な人物を描く手法は上手いと思う。ただ、それに対峙するはずに、平凡たる日常の描写が少し甘いと思う。

それでも面白いと思うのは、主人公に寄り添う平々凡々たる青年の、尋常ならざる温和さだろうか。恋は人を盲目にするみたいだが、無自覚に無作為に純情であることは、特殊な異能さえ無効にするのかもしれない。

なお、本の帯の「新・伝碕」の新は、おそらく今までになかった魔法に関する解釈を指すと思う。あの魔法解釈は、たしかに新しい試みだと思うし、けっこう面白かったのは確かです。むしろ巻末の笠井潔の解説は、ちょっと余計かも。あれは分る人にしか分からない解説だわな。

伝奇小説がお好みなら、手を出して後悔することはないと思う。まあ、私としては期待値の88%程度でしたが、それなりに楽しめました。
コメント (2)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする