ヒロインの大きな黒い瞳の強い視線には見覚えがある。
心の奥底の酸っぱい記憶が甦ってくる。彼女に睨まれていると意識したのは、小学校6年の移動教室だったと思う。なんで睨まれるのか分らなかったが、思い当たる節はいっぱいあった。
お菓子を決まりより多く持ってきたことか、バスのなかで密かに賭けトランプやってたことか。はたまた無断で深夜、宿を抜け出して散歩に行ったのがバレていたのか。
気がつくと、彼女の強い視線を感じることは、その後も時折あった。嫌われているのかとも思ったが、心当たりはない。卒業後は、奇しくも同じ中学で、しかも同じクラスだった。ちょっと、苦手に感じていたが、まあイイや。
中卒で働くつもりだった私は、まじめに勉強する気なんぞなく、授業中の態度はいつも不真面目だった。冗談抜きで、HRの時間に「ヌマンタをいかに静かに授業を受けさせるか」が議題に取り上げられたくらいだ。ちなみに結論は、本を読ませておくでした。そして、相変わらず私は彼女に睨まれていた。
冬休みの前だった。やはり同じ小学校の出で、顔見知りの女の子が私に話しかけてきた。「ねえ、知ってる?M子(私を睨む子)、昨日B組のH君に告白されたんだよ~」。
へっ?と間抜け顔で、私は思わず「そりゃあ、怖いもの知らずだなぁ」と答えてしまった。その子は急に醒めた表情で「ふ~ん」と言うなり立ち去った。去り際の視線に、冷たいものを感じた。なんなんだ?
冬休みに入り、補習を受ける羽目に陥った私が、うんざりしながら登校し、イヤイヤ補習を受けた後のことだ。当時、私は夜の繁華街を悪ガキ仲間とうろつくことを楽しみにしていた。早く帰りたくて教室を出て、廊下を走って玄関に向かった。下駄箱の前で、M子と鉢合わせた。また、睨まれるかな?
「よっ!、部活かい」
「うん、これから陸トレなの」
ふと、思い出して「B組のHも同じ部だっけ?」と問うと、M子は頬を染めつつ、無言で肯いた。目が合った。私が初めて見る、やわらかい瞳だった。大きくて、黒くて、それは良く知っているはずの瞳だった。でも、瞳の奥に不思議なきらめきを見た気がした。恥じらい?寂しさ?戸惑い?諦め?
無理やり目を逸らして、「頑張れよ」と言って、私は走り去った。別に走る理由はなかったが、走らずにはいられなかった。彼女の瞳が、私の心をざわめかせた。「あいつ、あんな綺麗な目をしてたんだ・・・」
校門を出てしばらく走った後で、急に立ち止まった。なにかを失くした気がした。戻った方がいいかな。でも、戻らなかった。「女の子って、わからねえ~」と呟いて、歩み去った。まだまだ、私はガキだった。だから、その後初恋の女の子にひどい目にあったのだと思う。
十代の頃の思い出って、なんでこんなに酸っぱいのだろう。そんな思い出の一つを思い起こさせた作品が表題の漫画でした。
心の奥底の酸っぱい記憶が甦ってくる。彼女に睨まれていると意識したのは、小学校6年の移動教室だったと思う。なんで睨まれるのか分らなかったが、思い当たる節はいっぱいあった。
お菓子を決まりより多く持ってきたことか、バスのなかで密かに賭けトランプやってたことか。はたまた無断で深夜、宿を抜け出して散歩に行ったのがバレていたのか。
気がつくと、彼女の強い視線を感じることは、その後も時折あった。嫌われているのかとも思ったが、心当たりはない。卒業後は、奇しくも同じ中学で、しかも同じクラスだった。ちょっと、苦手に感じていたが、まあイイや。
中卒で働くつもりだった私は、まじめに勉強する気なんぞなく、授業中の態度はいつも不真面目だった。冗談抜きで、HRの時間に「ヌマンタをいかに静かに授業を受けさせるか」が議題に取り上げられたくらいだ。ちなみに結論は、本を読ませておくでした。そして、相変わらず私は彼女に睨まれていた。
冬休みの前だった。やはり同じ小学校の出で、顔見知りの女の子が私に話しかけてきた。「ねえ、知ってる?M子(私を睨む子)、昨日B組のH君に告白されたんだよ~」。
へっ?と間抜け顔で、私は思わず「そりゃあ、怖いもの知らずだなぁ」と答えてしまった。その子は急に醒めた表情で「ふ~ん」と言うなり立ち去った。去り際の視線に、冷たいものを感じた。なんなんだ?
冬休みに入り、補習を受ける羽目に陥った私が、うんざりしながら登校し、イヤイヤ補習を受けた後のことだ。当時、私は夜の繁華街を悪ガキ仲間とうろつくことを楽しみにしていた。早く帰りたくて教室を出て、廊下を走って玄関に向かった。下駄箱の前で、M子と鉢合わせた。また、睨まれるかな?
「よっ!、部活かい」
「うん、これから陸トレなの」
ふと、思い出して「B組のHも同じ部だっけ?」と問うと、M子は頬を染めつつ、無言で肯いた。目が合った。私が初めて見る、やわらかい瞳だった。大きくて、黒くて、それは良く知っているはずの瞳だった。でも、瞳の奥に不思議なきらめきを見た気がした。恥じらい?寂しさ?戸惑い?諦め?
無理やり目を逸らして、「頑張れよ」と言って、私は走り去った。別に走る理由はなかったが、走らずにはいられなかった。彼女の瞳が、私の心をざわめかせた。「あいつ、あんな綺麗な目をしてたんだ・・・」
校門を出てしばらく走った後で、急に立ち止まった。なにかを失くした気がした。戻った方がいいかな。でも、戻らなかった。「女の子って、わからねえ~」と呟いて、歩み去った。まだまだ、私はガキだった。だから、その後初恋の女の子にひどい目にあったのだと思う。
十代の頃の思い出って、なんでこんなに酸っぱいのだろう。そんな思い出の一つを思い起こさせた作品が表題の漫画でした。