のろや

善男善女の皆様方、美術館へ行こうではありませんか。

『アメリカ』展

2006-04-20 | 展覧会
『アメリカーーーホイットニー美術館コレクションに見るアメリカの素顔』に行って参りました。兵庫県立美術館にて5/14まで開催中。

兵庫県立美術館-「芸術の館」-【展覧会】

アメリカの素顔なんぞ見たかないよ と 思ったものの、本展の広告塔である
リキテンスタインの『窓辺の少女』、あのいかにも様式化された、わざとらしいアメリカンガ~ルの笑顔に心惹かれて。

ホイットニー美術館、創設者は資産家で彫刻家でもあったガートルード・ホイットニー。
収集していたアメリカ美術のコレクションをメトロポリタン美術館に寄贈しようとした所、
アメリカ美術を馬鹿にしていたメトは「そんなもんいりません」と断りました。
メトの対応に憤慨した彼女の「いいわ、それなら自分で美術館を作ってやる」という決意から、この美術館が創設されたのだとか。
えらいなあ、ガーティ!

作品数は多くはございませんが、そのぶんゆったりじっくり鑑賞できました。お客さんが少なかったせいもございますが・・。
各展示室の、全体の眺めを楽しみつつ、個々の作品を鑑賞することをお勧めいたします。
立体作品が床に落とす影、広がり包み込むような表情で迎えてくれるマーク・ロスコ、
グレーの壁の間から顔を覗かせるビビッドなフランク・ステラ。
天井は高く光は柔らかく、磨かれた床の映り込みも美しい、大変心地よい空間でございます。
作品の意味や意義はとりあえず横に置いて、まずは視覚を楽しませましょう。

セクション2と3の間の休憩室ではNHK『世界美術館紀行』の、ホイットニー美術館の回が上映されております。
ああ!お懐かしい、石澤アナ。イタリア美術の特集番組で、勢いにまかせてカンツォーネを歌っていた貴方の姿を
のろは生涯忘れますまい。忘れてほしかろうけど。
この休憩室の壁面にはホイットニー美術館関連の年表が掲示されております。
アメリカの文化・社会についての年表も併記されており
「ほー、この美術イベントはこの時代にあったのか・・・」と、のろは驚くやら感心するやらでございました。
MOMA(Museum Of Modern Art:ニューヨーク近代美術館)が開館したのは1929年、大恐慌の発生した年である、とか。
してみるとMOMAも、御年87歳を迎えるわけでございますね。

ホッパーからキース・ヘリングまで、20世紀アメリカ美術といえば、美術好きでなくとも思い浮かぶようなBig Nameがそろっております。
土着性を重視した作品などもございましたが
軽薄さやわざとらしさを逆手に取った作品がとりわけ面白うございました。
例えばウェイン・ティーボー(WAYNE THIEBAUD)の『パイ・カウンター』

(↓トリミングされている上に、実物の質感も色彩も大幅に失われておりますが、ご参考までに)
Pie Counter, 1963 by Wayne Thiebaud at FulcrumGallery.com

図録には「アメリカの共同の欲望が・・・・よく示されている」と解説されております。
しかし ことは「アメリカの欲望」というのみに留まるものではございません。
グローバリゼーション(=アメリカナイゼーション)が浸透した社会において
この作品に示されている「欲望」は、とりもなおさず「私たちの欲望」なのです。

白い背景、明るいベージュの清潔感あふれるテーブル。
その上に、おいしそうなパイが ひたすら 並んでいます。
画家はパイ生地やクリームの質感にも気を配ったというだけに、本当においしそうです。
ちょっとひとかじりしてもいいですか、と手をのばしたくなるほど、おいしそうです。
どのパイも 一様に おいしそう です。
そう、どのパイも、全く同じおいしさ なのでありましょう。
そして、この絵の中のパイがすっかり売り切れても
明日また、これと全く同じ格好の 全く同じようにおいしそうな 実際、全く同じ味のパイが
カウンターに並ぶことでしょう。

それを当たり前と思っている私たち。
むしろ、それを 望んでいる 私たち。
共同の、欲望。

悲壮感や深刻な表情を帯びること無く、
あくまでも楽しそうな表情で「でも、それって、本当に、いいものなの?」と、見る者に問いかける
そんな印象の作品でございました。 

のろ的に めっけもん だったのは、キース・ヘリングによる『祭壇衝立』でございます。
Keith Haring side altar screen on Flickr - Photo Sharing!

彼は決してのろの好きなアーティストではございません。
と申しますのも、彼の作品の陽気さに、のろはどうも馴染めないからです。
しかしこの作品は、むしろその陽気さゆえに、心に染み入りました。

向かって左翼には「アラララ~」と堕ちて行く天使たち。
右翼には「いやっほ~う!」と天に昇って行く魂たち。
中央には、「うんうん、みんなオッケーよ」と、全ての人々に手を差し伸べる神(らしきもの 笑)。

After the fall, We'll be born,born,born again!
崩壊の後で 僕らはみんな 生まれ変われるはずさ!

ヘリングは自身のエイズ感染を知ってから、宗教的な題材の作品を手がけるようになったということです。
この祭壇衝立も、そうした作品の一点です。

エイズ撲滅などの社会活動にも貢献し、1990年、31歳で没したキース・ヘリング。

僕は大丈夫、みんな大丈夫、ちゃんと救われるから・・・

彼の陽気で楽天的なメッセージは
展示の最後に飾られている本作から溢れ出て
スキップしながら
あたりを跳ね回っておりました。