読書な日々

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『梨の花は春の雪』

2014年03月26日 | 作家マ行
松本薫『梨の花は春の雪』(今井出版、2008年)

私の地元の鳥取県の市民シネマを作ろうということになり、作品を募集して、最優秀作品に選ばれた小説である。これをもとに同じタイトルの映画が作られたらしいが、たしかそのような話は聞いたが、私は見ていない。

アマゾンにタイトルは出ているが、再入荷の予定なしで、現在は取り扱いをしていないという。そこに付けられていた説明はこのようになっている。

「 市民シネマ「梨の花は春の雪」は、2004年に市民の力で映画を制作しようと取り組みが始まり、原作は全国公募80作品の中から鳥取県米子市在住の松本薫さんの作品が選ばれました。そして、撮影は米子市淀江町を中心に鳥取県西部で32日間行われ、プロの俳優、スタッフと共に出演・スタッフ・エキストラ、ご協力いただいた方々など、総勢2500名の市民ボランティアに支えられ制作されました。 」

現在は米子市に編入されている淀江町で二十世紀梨農家出身の晃弘の父の周造が脳梗塞で倒れたことをきっかけに晃弘は帰郷する。一緒に来てほしいという夫の呼びかけに、横浜出身で農村のことを全く知らない響子は娘の玲奈を連れて、雪が降る年末にやってくる。夫の父親の周造との関係はうまく行かず、生きがいを見つけて猛進する夫を横目に、人間的つながりも仕事も生きがいもないところで悔やむ気持ちが強くなる響子だが、夫晃弘の子供時代からの友人という伸幸の屈託のなさ気な、それでも夢を追う生き方や、心遣いに、少しずつ溶けこんでいく。

同じ鳥取県の西部とはいえ、二十世紀梨の生産とはまったく関係なかったから、梨がここに移植されてきた経緯も、また生産農家の苦労も知らず、この小説で初めて知ったのだが、米子は私も長く過ごした町であり、親しみを覚えた。今でもおふくろから毎年初秋になると二十世紀梨が送られてくる。

梨農家の跡継ぎ問題、いじめ問題、地場再興の問題など、いろんな問題が詰め込まれた小説なので、一つ一つの問題を解決して、次に行くみたいな、日本のテレビドラマの、よくないパターンを踏襲しているところが、気になる。テレビドラマよろしく、ある人物に焦点をあてたときはいじめとか介護だとかが問題にされて、その回だけはその登場人物は暗い感じになりひねくれたりするのだが、その回が終わると、何もなかったかのように、明るく元気になるという、あのパターンを踏襲している。夫が蒸発して離婚届だけが送られてきたという隣家の真希とか娘の玲奈とかがそうだ。そんなに簡単に解決するものか?とツッコミをいれたくなる。

なんでもつめ込まないで、響子と梨の問題でもっとじっくり作っても良かったのではないかと思うが、そこは映画化が前提の小説なので、やはり上にようなパターンをひと通り踏まないとダメなのだろう。この作者のもう一つの作品『TATARA』ほどの感動がないのは、そういうところが原因だろう。でも、この人の筆力ははっきり言ってプロレベルだと思う。今後もいい作品を書いてほしい。

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