読書な日々

読書をはじめとする日々の雑感

『謀る理兵衛』

2020年03月28日 | 作家マ行
松本薫『謀る理兵衛』(ポプラ社、2013年)

家康の時代からの大坂の米商人丹生屋の五代目の理兵衛の生き様を描いた小説。

時は元禄時代、このブログでも常々書いてきたことだが、貨幣経済が確立した元禄時代は近代の始まりでもあり、昭和時代につながっている。その元禄時代、西暦も18世紀から19世紀に変わる頃に、家康から御朱印状をいただいて大坂の米商いを支配してきた丹生屋が、日の出の勢いの柳沢吉保に目をつけられて、お取り潰しに遇うが、理兵衛も大阪商人の意地を見せて、ただでは潰されないという、両者の攻防を描いている。

偶然の一致なのかどうかしらないが、描かれている時代がちょうど、赤穂事件(殿中での刃傷沙汰から浅野家お取り潰しへ、そして四十七士討ち入り)が1701年(元禄14年)だし、将軍は第5代の徳川綱吉の時代だが、まだ頼方と名乗っていた吉宗(第8代)との絡みも出てくるし、理兵衛の父親は尾形光琳とも付き合いがあったという設定になっている。

先物取引によって、豊作の時に米価が過剰に下落しないように、また飢饉の時には過剰に米価が値上がりしないようにということを考えて理兵衛が行った米切手は、現代の先物取引の始まりとして描かれている。

登場人物には表向きの人物以外にも綺羅影党という、理兵衛やその家族を護衛すると同時に情報収集もする影の者たちも登場する。嵐水や桔梗といった者たちだが、彼らも主人公並みの位置づけを与えられて、作品世界を生き生きと生きている。

松本薫さんが地元の鳥取県と関係のない歴史ものを書いたと思って、小説そのものはかなり前から知っていたものの、読む気がしなかったのだが、じつは、丹生屋の大坂本店がお取り潰しに遇うことを想定した先代が、鳥取県中部の倉吉に稲すき千刃を製造販売する商いをする形で後方支援の拠点を作っておいたという設定にして、地元も絡めているのに驚いた。

図書館の閉鎖で本が借りれないので困っていたが、松本薫さんの未読の本があることを思い出し、読んでみたのだった。さすがに文章力も構成力も優れた作家だ。松本薫さんの小説の感想を書くたびに書いているが、ほんとNHKの大河ドラマにしてほしい。せめて金曜夜のBS3の時代劇枠のドラマにしてほしいな。

『謀る理兵衛 (ポプラ文庫)』へはこちらをクリック

この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 新型コロナウィルスに対する... | トップ | 今後予想されるオンライン授... »
最新の画像もっと見る

作家マ行」カテゴリの最新記事