読書な日々

読書をはじめとする日々の雑感

「ふだん着のモントリオール案内」

2007年09月15日 | 評論
青木節子『ふだん着のモントリオール案内』(晶文社、1997年)

フランスやフランスの文化に関心がある者がある程度フランス旅行もこなして、さて次はと思うのが、たいていはカナダのケベック州という、フランス語が公用語となっている地域だろう。地名や古い建物はたいていフランス語になっているし、アメリカに近いから、ついでにアメリカ旅行も出来る。私もケベックにはなんとなく興味があるので、おもわずこの本に手が伸びた。

当たり前といえば当たり前だが、けっこう勘違いしていたことが多くあるようだ。アメリカと同じように連邦の国なので州の独立性が強いから、フランス語ネイティブがおおいケベック州がいまだに憲法を批准していないなんていうのは初耳だった。

アメリカに近いから、アメリカの物や文化や情報が怒涛のごとくに流れ込んでくる。当然、英語が一般的になってくるので、フランス語話者が減ってくると思いきや、かたくなに二言語両用を厳しく強制するとかして、なんとかしてフランス語話者を増やそうとするのは仕方ないことかも。

ケベック市辺りでは古い17世紀とか18世紀のフランス語が使われているというのは本当のようだ。実際、私もケベック出身のエンジニア(ARTEとかというところで研究している若い人)と一度話をしたことがあるが、la litterature francaiseを「ラ・リテラトゥール・フランサイズ」と発音していたので、エッと驚いたことがある。聞きなおすと「フランセーズ」といいなおしていた。本国のフランス語の発音は分かっているらしく、きちんと話さなければならないときにはそういう発音になるが、普段はケベックのアクセントになるらしい。方言みたいなものだろうか。

意外だったのは、伝統的な家というか家族というか親子の概念が完全に崩壊して、個人同士の関係になっているという話だ。著者のフランス語の先生(といっても若い女性)の例が紹介されているが、彼女の両親は離婚し、母親は近くに一人住まいをしている。彼女は父親と一緒に生活しているが、父親は別の女性と同棲している。また彼女には高校生くらいの妹がいるのだが、妹には同い年の恋人がいて、その家で生活し、性的関係にあっても、べつに何のとがめだてもない。平気で二人でバスローブ姿でリビングに出てくるらしい。

それにしても70年代あたりに劇的な変化を遂げたのがカナダの社会のようだ。人々のものの考え方を変えてしまうほど、そして社会の構成を大きく変貌させるような劇的変化が起きるということが、日本では信じられない。日本でも変化はあるだろうが、その緩慢なこと。やはりずっと何千年も住んでいるのと、新しい土地に移住してきて作った国とは違うのかもしれない。

まぁ観光ガイドにはもう一つだが、カナダのフランス語圏のことを知るにはけっこう役に立つ本ではないだろうか。

それにしてもカナダは遠い。

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