読書な日々

読書をはじめとする日々の雑感

「100万回のコンチックショー」

2006年11月28日 | 評論
野口健『100万回のコンチックショー』(集英社、2002年)

ネスカフェのコマーシャルはもちろんのこと、バラエティー番組でときどき目にする登山家の野口健が、反骨の精神で生きてきた子供時代や最年少記録への挑戦を書いた本。

外交官の父と四カ国人の血をうけつぐエジプト人の母親のあいだに生まれてからずっと外国を渡り歩いてきたが、両親が離婚してから中学高校とイギリスの立教英国学院でスパルタ教育をうけ、そのなかで反骨の精神をそだて、オチこぼれても、なんとかして自分の世界を作りたいと考えて、停学中に探検家植村の自伝を読んで、山登りをはじめる。モンブラン、キリマンジャロと最年少記録を更新し、さらにアコンカグア、マッキンリー、そしてチョモランマへ。このあたりから、亜細亜大学の学生として日本に滞在して、日本の企業などから資金援助をしてもらいながら、三回目の挑戦で成功し、その直後からゴミ問題に関心をもつようになり、清掃登山を呼びかけ、数度の清掃登山の後、日本の山における環境問題にも目を向けるようになる。

タイトルどおりすごい反骨精神の持ち主。立教英国学院の先生たちもけっこう気骨のある人たちだったようで、彼にはいいところがあるということを認めて、どうやってまっすぐな道を行かせるかを模索していたらしい。その結果、あいつはけしかければそれに反抗して、こちらの考えどおりの行動をさせることができるというように、高校くらいになると性格をよくとらえられていたとのこと。それゆえに、彼はぎちぎちの規則で縛られ、分刻みのスケジュールで動く学校にたいして、まったくいやな思い出がないという。

家族のことで感心したのは、親子みんながおしゃべりで、喧喧諤諤の議論をいつもやっていたこと、その結果、彼の家族のあいだではなんらかの一家言をもっていないとまともに相手にされないということ。家族が意見を戦わせあうのはいいことだと思う。わが家はそれがないから残念だ。親子のあいだに会話がない。さすがに今年の夏に息子と二人で旅行したときにはあれこれ喋ったが、家ではほとんど会話がない。それというのも家族で議論を戦わせるのが嫌いだったからだ。だからそうなるのはしかたないわな。なのに口角あわをたてて議論し合う家族がいいと言うのだから、いうことが矛盾していると言われてもしかたないな。

右翼に入って街宣車でアジってみたり、自衛隊に入ろうとしてみたり、祖父が軍人だったこともあって、どちらかというと右よりの道を進もうとしていたらしいが、ながく世界を見てきたこともあって、また外交官だった父親の影響もあってのことだと思うが、自分なりの考えがあってのことだから、自分の考えと違うと分かったら、すぐに軌道修正できるところも面白い。

それにしてもヒマラヤの最高峰に登るということがどれだけ大変なことなのか、そしてその影に隠れて環境破壊がいかに進んでいるか知らされた。やはり隠されていることは誰かが暴かないことには、日の眼を見ないものだろう。雪山に大量のゴミや糞尿があるなんてだれも思わないものな。

最後のあたりで少しだけ触れているが、日本国内でも、世界遺産の環境保全と観光とをどのようにバランスを取るのか、じっくりと議論して、いい方向にもって行く必要がある。そういうものを引っ張っていく力として、野口健なんかには期待したいね。

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