読書な日々

読書をはじめとする日々の雑感

「真夜中のマーチ」

2006年11月08日 | 作家ア行
奥田英朗『真夜中のマーチ』(集英社、2003年)

奥田英朗という人は冒険活劇のような小説を書かせたらほんとうに筆達者だなと感心する。話としてはお決まりのような登場人物たち。

こつこつ働くなんてことは金輪際考えず、他人の金をうまく吸い上げたり甘い汁を吸って生きることにしか考えていないチンピラみたいな横山健司(ヨコケン)、集中力・記憶力が抜群で、学力優秀で慶応大学を出て、一流会社に就職したが、集中力が強いばかりに周りが見えず、失敗ばかりしていてぜんぜんもてない三田総一郎(ミタゾウ)、成金の娘だがそれを嫌悪しつつ真面目に働くことは考えていない千恵(クロチェ)が、クロチェの元父親の白鳥が顧客たちからまんまと嘘をついて集めた10億の金を横取りするという話。

はらはらドキドキが満載のエンターテイメント小説といったところ。ほんとに夢中になって読める。

『サウスバウンド』もはらはらドキドキのエンターテイメント小説だったが、こちらはそれだけでなく、人間や人生についての教訓と言うか、教訓といったら古臭くて変だけど、示唆というか、ただ面白かっただけではないものが、にじみ出ていて、それはそれで素晴らしかったので、私としては高く評価している。

でもこの小説は面白かったでおしまい。やっぱり描いている対象が大人だからだろうね。『サウスバウンド』は子どもが主人公で、もちろん父親や母親も魅力的な人物だったのだけど、こちらは人物としてはとりたてて魅力的というわけでもないし、かれらの行動がやむにやまれぬものだったわけでも、なんらかの価値観にもとづいて行われたものというわけでもないからではないかと、つらつら考える。

ミタゾウが最後にキリバス共和国という太平洋のなかにある小さな島にいって自由を謳歌するというのも面白いけど、なんかアメリカの映画の二番煎じ――たとえば「ショーシャンクの空」――みたいでもう一つだな。

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