『毎日新聞』(2021.6.7)夕刊に『Topics 10月、奈良で「法話グランプリ」』―日常に宗教的深みを選考委員長に内田樹さんーという記事が出ていました。以下転載です。
宗派を超えて僧侶たちが集まり、仏の教えを説く「法話」でナンバーワ宗派を超えて僧侶たちが集まり、仏の教えを説く「法話」でナンバーワンを目指す「HI法話グランプリ2021年」が10月、奈良市内で開かれる。全国規模で出場者を選抜するのは今回が初。今、なぜ法話なのか。僧侶に何か求められているのか。選考委員長を務める思想家の内田樹さんに、実行委員長で天台宗・能福寺(神戸市兵庫区)住職の雲井雄善さんと語り合ってもらった。
HIは2017年、栃木県で真言宗豊山派の若手僧侶らが研修成果発表の場として開催しだのが始まり。法話の内容や技術ではなく「もう一度会いたいお坊さん」は誰かーを基準にナンバーワンを決める。19年には天台宗、浄土宗、曹洞宗などの7組8人が出場する大会が須磨寺(神戸市須磨区)で開かれた。今回は、全国から若手(45歳以下)を募り、選考委員会で選ばれた8人ほどが出場する。
雲井さんは「若手僧侶が檀家さん以外の前で法話をする機会は少ない。仏教界にとっても何かのきっかけになるのでは」語る。あえて優勝者を決めることで、緊張感や責任感を共有することができるとしている。
内田さんは今回、親交のある宗教学者の釈徹宗・相愛大教授(大会顧問)の依頼で初めて関わることになったが、「法話」には以前から縁があったという。神戸女学院大の教授だったころ、「チャペルアワー」という大学での礼拝で聖書に基づく話をする「奨励」を何度か担当した。「僕自身はクリスチャンではないが、武道家でもあり超越的なものと日々関わっている。学生たちに、宗教的なものはどこか別の場所ではなくあなたの日常にもあるんだよと伝えていた」と振り返る。
「日常が脱宗教化することで心の支えがどんどんもろくなっている」と危惧し、それだけに、宗教的なものに触れる機会としての法話に可能性を感じているという内田さん。「場数を踏んだ人だけが経験し、語ることができる深い言葉」、特に「のみ込めない話」を期待するという。「何十年も心に残るのは、生々しい素材をドンと置かれ、教訓も落ちもないような話。自分で『どういうことだろう』と考え続けるからでしょう」
法話をする機会の多い雲井さんは「つい起承転結をつけたくなる」と省みるが、内田さんは「整理できないまま机の上に乗っかっているような話こそが人間の精神を活性化させるのでは」と続けた。伝統芸能の達人たちの「芸談」が大好きだという内田さん。「僧侶も、一般人では経験しがたい宗教的な深みに触れた経験がきっとあると思う。その断片を一つ残していってほしい」
新型コロナは日常生活を大きく変えた。内田さんは、「葬式ができない状況が増えたことが多くの人の心に傷を残している」と力を込める。「葬式は、残された人たちが死者の奥行きを理解していくとても大事なプロセスです」。通夜などの場は、参列者が故人にまつわるエピソードを語り、遺族も知らなかった一面を知る貴重な機会にもなる。
「葬式ができないと、死者をして死なしめることができない」と表現する。
そこで重要になるのが、宗教者の役割だ。「死者は常に我々の傍らにあると伝え、どう関わりを持っていくかの手立てをきちんと教える。それが、今、とても大事な仕事です」と内田さん。雲井さんも「法話を通じ少しでも何かを伝えようというお坊さんに、参加してほしい」と大会を見据えた。
◇ 「H1法話グランプリ2021」 (毎日新聞社など後援)への出場者募集は20日まで。詳細は公式ホームページ(http:/www.houwagrandprix.com/)。 「花澤茂人」
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