『世界は行動経済学でできている』(2025/2/27・橋本之克著)からの転載です。
「やりたいこと」に なかなか挑戦できないわけ
年々「新しいことへの挑戦」が難しくなるのはなぜか
あなたが、今の仕事を10年間続けてきたとしましょう。
この10年、あなたは時間と労力を費やし、まじめに仕事に取り組んできました。しかし、最近はあまり仕事にやりがいを感じられなくなり、本当に好きなことを仕事にしたいと考えることが増えてきました。
そんなとき、「今の仕事を辞めて、やりたかった業界に転職しよう」「自分で起業してみよう」などという選択をスパッと決断できるでしょうか。
もちろん年齢や自分を取り巻く環境(家族がいるかなど)、給料やそれまでのキャリアなどによって判断は変わるでしょう。ですが、もし制約があまりなかったとしても、多くの場合、「10年も続けてきた什事を手放すのはもったいない」「これまでのキャリアを捨てて新しいことをやる自信がない」などと考えてしまうのではないかと思います。
このような、「それまでに費やしてしまったコスト(時間、お金、労力など)に固執してしまう心理」は、行動経済学では「サンタコスト効果」と呼ばれます。「サンタ」とはsunk=沈んだという意味の英語で、「サンタコスト」はまさに、沈んでしまって手元に戻ってくることはないコストを意味しています。
「ダメだ」とわかっていてもやめられない
「覆水(ふくすい)盆に返らず」ということわざは、失ったものを取り戻そうとしても仕方ないといさめる言葉ですよね。
人は、過去に失ったもの、もはや取り戻せないものに固執してしまう生き物です。
過去にこだわってしまった結果、れから先の未来を合理的に考えられなくなることがあります。それが「サンタコスト効果」なのです。
この「サンタコスト効果」、先はどの転職の場面以外にも、大小さまざまな例が身近にあります。
例えば、「ダメな恋人とわかっているが、長年付き合っていてなかなか別れられない」といった恋愛のケース、また[何年も前から進めている大きなプロジェクトの雲行きが怪しいが、すでに人もお金も投資しているため、今さらストップさせることができない」といったビジネスのケースも考えられます。
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日常の買い物でも、このように言われると、[そうしないと損をしてしまう、お金が無駄になる]ような気がして、欲しくないものまで買ってしまったりします。
これも「サンタコスト効果」です。
割引や送料無行までもう一息と思うと、買い足さずにいられなくなること、誰でも経験があるのではないでしょうか。その結果、不安なもの、量が多すぎるもの、よく考えると使い道のないものを買う羽目になったりするわけです。
無料でもらった招待券で入場した映画なら、つまらなければ途中で出てしまえばいいと考えられますが、自分で買ったチケットとなると、なかなかそうはいきません。
「もったいない」がさらなる浪費のもとになる
企業の立場で考えると、顧客にサンタコストを意識させると、より多くの支出を促せることになります。
例えば、オンライングームなどでキャラクターのレベルアップや、アイテムの強化などに少しずつ課金をさせていくと、ユーザーは「ここまでお金と時間をかけて育ててきたキャラクターを捨てるのは惜しい」という意識が働くようになり、なかなかゲームをやめられなくなります。
出版業界における、いわゆる「分冊百科」も「サンタコスト効果」を巧みご利用しいる例でしょう。1巻目、2巻目……と取り組んでいるうちに、実は思ったよりお金がかかりすぎる、想像以上に完成までが長いと感じても、いったん買い始めたのだから途中でやめるのはもったいない、といブレーキが働くのです。
売り手はこの点をよく知っているため、特に創刊号は大きく値引きしたりすることで、とにかく一度体験させる=始めさせるように努めるわけです。
何十巻も続いている漫画を途中でやめられずどこまでも読み続けてしまう、といったことも「サンタコスト効果」と言えます。
このような例は、枚挙にいとまがありません。
食べ放題で払ったお金の元を取るために、おなかがいっぱいでも詰め込んでしまう。
・自分の足に合わなかった靴を「高かったから」 と捨てられず取ってある。
・クレーングームで目当ての商品があと少しで取れそうだと感じると、取れるまで ゲームを継続してしまう。
・勤めている会社に強い不満があるのに、なかなか辞める決心がつかない。
本項の冒頭の話は、自分にとってのやりがいが感じられなくなっても転職や起業ができないという例でした。それどころか会社に対して明らかな不平があるのに辞められないというケースも多いようです。
「サンタコスト効果」は。表現を変えると「一度始めた物事をやめられない」状態を生み出す心理的バイアスと言えそうです。
結果的にやめられない状態に陥るのです。
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