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仏教ライフを考える西原祐治のブログです

脳科学で解く心の病①

2024年07月03日 | 日記
『脳科学で解く心の病: うつ病・認知症・依存症から芸術と創造性まで』(2024/4/1・エリック・R・カンデル著)からの転載です。

意識についての認知心理学的考察

 現代の認知心理学は、心について、フロイトとは異なるアプローチで研究している。
  本能に焦点をあてるのではなく、無意識の心はどのようにして、自覚されることなしに、多様な認知プロセスを行うことができるるのだろうかという点に注目している。ここでは、無意識の認知を考える前に、現代の認知心理学が心識をどのようにとらえているのかを紹介する。
 認知心理学費が意識と言うときは、異なる状態を、異なる文脈で語っている。たとえば眠りから目覚めること、近づいてくる人に気づくこと、感覚的な知覚、自発的な行動の計画と実行などである。こういった異なる状態を理解するためには、意識下の経験について、一つの独立している、しかし重なりあうこともある視点から分析する必要がある。
 第一の視点は、脳の全般的な覚醒状態である。たとえば、目が覚めているときと深い眠りについているときの違いだ。この視点から意識レベルをみると、覚酸度や讐戒度の異なる状態がある。たとえば睡眠から覚醒したばかりの時点、警戒している最中、通常の立識的な思考をしている最中といった違いである。」方、意識を失った状態には、腫脹や昏睡、令身麻酔などがある。
 第一の視点は、覚醒状態における脳が行う処理の内容である。たとえば、空腹を感じたり、犬を見たり、シナモンの香りを嗅いだりすることがある。内容という視点からは、感覚情報のうちのどのような側面が意識的に処理され、どの面が無意識的に処理されるのか、さらにはそれぞれの処理の仕方の利点は何かを把捉する必要がある。
 これら一つの視点は明らかに関連している。適切な覚醒状態になければ、感覚情報を意識的または無意識的に処理することはできない。そこで、まずは覚醒の基盤となる生物学についての考察から始めたい。
 最近になるまで、覚醒と警戒の状態、つまり目覚めた状態になるのは、感覚からの情報が大脳皮質に入力される結果だとみなされていた。したがって、感覚からの入力が遮断されれば、我々は眠りにつくと考えられていた。一九一八年、インフルエンザの世界的流行について研究していた才-ストリアの精神科医であり神経学者でもあるコンスタンテインーフォン=エコノモは、何人かの患者が死ぬ前に昏睡状態に陥るのを経験した。死後に解剖を行い、感覚系はほとんど傷ついていないにもかかわらず、上部脳幹の一部の領域が損傷しているのを発見した。彼はこの領域を「覚醒中枢」と命名した。
 フォン=エコノモの発見は一九四九年、イタリアの偉大な科学者ジュゼッペ・モルッツイと、アメリカのよく知られた生理学者ホレスーマグーンによって、実験的に検証された。動物実験で、感覚系から脳に伸びる神経回路、具体的には触覚や位置感覚を媒介する回路を切断しても、意識、つまり覚醒状態には影響しないことが確認された。しかし、上部脳幹にある、フォン=エコノモが「覚醒中枢」と呼んだ場所を損傷すると、昏睡状態に陥った。さらに、その領域を刺激すると、動物は眠りから目覚めた。
 モルッツイとマグーンは、脳には、脳幹や中脳から視床に伸び、さらに視床から大脳皮質にまで及ぶ系統があることに気づき、それを「脳幹網様体賦活系」と命名した。この系統は、意識のある状態に必妛な、さまざまな感覚系からもたらされる感覚情報を運び、大脳皮質に広く伝達する(図11-3)。脳幹網様体賦活系は覚醒状態には必要であるが、意識的なプロセスの内容、すなわち自覚されている内容には関係しない。
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