大田区議会議員 奈須りえ  フェアな民主主義を大田区から!

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大田区立特別養護老人ホーム【利用料金制】の課題について

2009年03月26日 | ├社会保障

 大田区は、第一回定例会において特別養護老人ホームに利用料金制を導入する条例改正の議案が提出され、賛成多数で可決しましたが、私は、以下の理由から反対しました。
 
 今日は、大田区の「特別養護老人ホーム」への利用料金制の課題について考えます。

 現在、大田区の特別養護老人ホームは
   ・区立が6施設 
   ・民立が5施設
あります。

 そして、大田区立の特別養護老人ホームは、施設の管理運営を、民間事業者に管理運営させる「指定管理者制度」を導入し、「社会福祉法人 長寿園」が管理・運営しています。

 今回の条例改正は次の二点です。
①これまで、大田区が、特別養護老人ホームの運営に当たり、委託費用として一定金額を支払っていたが、介護保険の報酬を直接事業者の収入とすることができるようにする「利用料金制度」を導入する
②入所の承認や取り消しを区長だけでなく、指定管理者にも権限を与える

【利用料金制とは】
 利用料金制は、「公の施設」の使用料(利用料金)を指定管理者の収入として
収受させることができる制度です。
 利用料金収入と経費支出の差額である余剰金を指定管理者の収入とすることができることから、経費の縮減を促進するインセンティブ効果が働き、サービスの向上が期待できるといわれています。
 
 確かに、区立特養は、区からの委託費で運営しているため、民立に比べ、経営的に恵まれている部分があるでしょう。結果として、非効率な運営をしている部分もあり改善の余地もあると言えます。

 しかし、区は、平成19年度の特別養護老人ホームの収入と支出の差額に1千万円上乗せした2億6千万円を予算計上すると説明しています。経営効率化を目的としながら、支出を上回る収入を確保しており、区が何をもって経営の効率化とするのか明確に示されていません。

 当初から、黒字が確保された上での経営などありうるのでしょうか。こうしたあいまいな委託料=すなわち実質は補助金の設定で、黒字分がすべて指定管理者の収入となってしまうとするならば、区民の理解は得られないでしょう。

【利用料金制で解決できること、できないこと】
 たとえば、区立特養は、これまで、ベッドに空きが生じてから、次の利用者の入居準備を開始していたため入居するまでに時間がかかり、利用率が低くなっていましたが、利用料金制が採用されれば、あいているベッドからの収入は見込めないわけですから、経営改善につながることが期待されます。

 しかし、現在、区立と民立の特養では、医療的ケアの必要な方の割合に大きな差があります。(区立特養では26%ですが、民立特養は14%で、その差は12%)
 また、身寄りのない方などの受け入れを民立が敬遠する傾向にあります。
 
 こうした数字の差が、人手が必要など効率性・経済性に起因したものであれば、利用料金制の導入により、大田区すべての特養で受け入れられなくなる可能性があります。

 区は利用料金制導入のメリットして、効率化とともに、サービスにおける創意工夫ができると説明しています。
 しかし、プールのようにサービス向上することで利用者数を増やし売り上げを更に伸ばせる事業と異なり、定員を増やすことができない現状の特養において、サービス向上や創意工夫は、すればするほど費用がかさみ経営の効率化とは相反する結果となります。
 仮に、自主事業を創意工夫と呼ぶなら、それは、利用者負担の増加にもつながり、区立特養としての在り方の検証なしにできることではありません。


【利用者の選別にならないか】   
 しかも、今回、区は、利用料金制を採用する変更だけでなく、区長が持っていた施設への入所・通所の承認・取り消し業務権限を指定管理者にも与える変更を行っているので、施設の判断で受け入れを決められるようになるのです。

 利用料金制を採用し、施設側に効率性を求めると同時に、承認・取り消し業務権限を与えれば、利用者の選別が始まり、困難な利用者を排除することにならないでしょうか。 
 特養の入所基準にも問題がある現状での利用料金制導入には、問題が多すぎます。

 利用料金制導入の前に、区立特養の位置付けや民立とは異なる役割について明確にしたうえで、適正に運用されるよう準備を行わなければ、厚労省のサービス提供を拒む正当な理由「(入院治療の必要がある場合その他)入所者に対し自ら適切な指定介護福祉施設サービスを提供することが困難な場合」が更に拡大解釈される恐れがあるのです。

【議会のチェックからもはずされ・・・】
 最も大きな問題のひとつは、指定管理者制度の利用料金制になることで、歳入・歳出から除かれてしまうため、議会の関与が及ばなくなってしまい、事業の透明性が著しく低下してしまうことです。

【区立特養の位置付けを明確に】
 区立・民立で大きく異なる、医療的ケアを必要とするかたの入所割合の原因がどこにあるか調査を行うことが必要です。
 そのうえで、民立特養に対する、大田区立特養の役割を明確にしなければなりません。

 現状の問題・課題を利用料金制度導入だけで解決できるというのは非常に安易であり、準備不足です。経営の効率化は図られるかもしれませんが、ケアの困難な利用者が排除される可能性が生じます。



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=以下が、私の議会での反対討論です=

 第27号議案「大田区立特別養護老人ホーム条例の一部を改正する条例」および「第28号議案大田区立高齢者在宅サービス支援センター条例の一部を改正する条例」に反対の立場から討論します。

 このふたつの条例改正は、地方自治法第244条2項の2第8項「普通地方公共団体は、適当と認めるときは、指定管理者にその管理する公の施設の利用に係る料金を当該指定管理者の収入として収受させることができる」に基づき、

1 利用料金制を導入すること
2 施設への入所・通所などの承認・取り消し業務を指定管理者に行わせる
このふたつのために行われるものです。
この、条例改正により、「大田区立の特別養護老人ホーム」及び「大田区立高齢者在宅サービス支援センター」の利用者から徴収した利用料は、指定管理者の収入となります。
また、今回、同時に、これまで、一部を除き区長だけだった入所・通所などの承認および取り消しについて指定管理者でもできるように改正するものです。

一般的に、指定管理者制度の利用料金制については、そのメリットとして

① 指定管理者の経営努力が発揮しやすくなる
② 市場動向に敏感な事業者によって適切な料金水準を設定することができる
③ 自治体の会計事務の効率化が図られる
などが指摘されています。
 
一方で、そのデメリットや課題として
① 指定管理者が収入を上げるために、サービスの質を低下させたり、経費節減のために雇用者の労働条件を過度に下げることが考えられる。また、同様の理由から力を入れる事業と力を抜く事業が発生する可能性がある。そのため、自治体や利用者のチェックや検証が不可欠となる。
② 指定管理者の努力により大幅な収入増があった場合の指定管理料の処理方法は、減額すれば、指定管理者のインセンティブが機能せず、また放置すれば利用者である区民の批判を受ける。
③ 一般に、通常の維持管理費(軽微な補修費を含む)は指定管理者の収入(料金収入と指定管理料)で賄われ、「大規模改修」は自治体の負担となるが、軽微な補修と大規模改修との相違、経費分担でトラブルなどが生ずる恐れがある。
そして、
④ として、収入・支出が自治体の歳入・歳出からはずされるため、議会の関与・チェックが働きにくくなる。
といったことが指摘されています。

2003年に導入された指定管理者制度も、5年を経過し、自治体・事業者・市民・議会などあらゆる視点からの検証が行われています。

検証から、指定管理者制度は、導入すればその効果が発揮されるといった類のものでは当然無く、事前準備が必要であり、それを軽視すれば、導入の効果は望めず、自治体・事業者双方にとって、こんなはずでは無かったという結果を招くことになることがわかります。
 それでは、今回の利用料金制採用は、これらのメリットを活かし、また、デメリットや課題について検証し、あるいは、解決するしくみを構築したうえでの導入であると言えるでしょうか。
 
  確かに、区立特別養護老人ホームは、これまで、ベッドに空きが生じてから、次の利用者の入居準備を開始していたため入居するまでに時間がかかり、結果として利用率が低くなるなど、その経営にあたって、改善すべき点が少なからずあるのは事実です。
利用料金制が採用されれば、あいているベッドからの収入は見込めないわけですから、経営改善につながることが期待されます。

 しかし、私が、第一回定例会での、一般質問で指摘させていただいたように、現時点において、医療的ケアの必要な方の割合は、区立特養では26%ですが、民立特養は14%で、12%という大きな差があります。
 また、身寄りのない方などの受け入れを民立が敬遠する傾向にあることも指摘させていただきましたが、こうした問題も、今後区立・民立を問わず特養全体の問題として広がる可能性があります。
 区は、質問に答えて、区立・民立の別なく、ひとしくサービス提供が行われることが望ましい。医療的ケアの必要な方の割合に差があるのは事実。具体的事例を把握し、受け入れ体制について様々な角度から検討する。と答弁しています。

仮に、入所割合の差が、効率性・経済性からの選択に起因したものであれば、利用料金制の導入により、今後、区立特養の医療的ケアを必要とする方の入所割合も、民立に近くなる可能性があります。
答弁にある等しくサービス提供が行われることが、「大田区として医療的ケアを必要とする方を今後どうすべきか」という議論抜きに、「効率性・経済性を追求した結果として」民立と同程度になるとするならば問題です。


 しかも、今回、区は、利用料金制を採用する変更だけでなく、区長が持っていた施設への入所・通所の承認取り消し業務権限を指定管理者にも与える変更を行っています。
利用料金制を採用している「アロマ地下駐輪場」においても、また、「産業プラザ」においても、そして、大田区の他の指定管理者制度を導入している施設についても指定管理者に与えていない権限を、今回、区民の命やくらしへの関わりが重大な施設の指定管理者に与える理由は何でしょうか。

 利用料金制導入の前に、区立特養の位置付けや民立とは異なる役割について明確にしたうえで、適正に運用されるよう準備を行わなければ、厚労省のサービス提供を拒む正当な理由「(入院治療の必要がある場合その他)入所者に対し自ら適切な指定介護福祉施設サービスを提供することが困難な場合」が更に拡大解釈される恐れがあるのです。
 そして、それは、「高齢者在宅サービスセンター」における利用料金制においても同様です。
特に、デイサービスの場合、規模による介護報酬からいえば、月300人までの小規模、あるいは、スケールメリットを狙った900人までの中規模デイが経営的には有利とされています。一部からは、月間延べ利用人数900人を超える大規模デイは、介護報酬が1割減額されるなどするため、時代遅れとさえ言われているのです。多くの高齢者の生活指導、健康の管理、訓練、食事・入浴などを担ってきた大規模施設を抱える「高齢者在宅サービスセンター」の位置付けをどうするのかも明確にしていかなければなりません。

 また、 今回の利用料金制導入に伴う、協定金額の算定根拠も非常にあいまいです。
 区は、平成19年度の特別養護老人ホームの収入と支出の差額に1千万円上乗せした2億6千万円を予算計上すると説明しています。経営効率化を目的としながら、支出を上回る収入を確保しており、区が何をもって経営の効率化とするのか明確に示されていません。
当初から、黒字が確保された上での経営などありうるのでしょうか。こうしたあいまいな委託料=すなわち実質は補助金の設定で、黒字分がすべて指定管理者の収入となってしまうとするならば、区民の理解は得られないでしょう。
区は利用料金制導入のメリットして、効率化とともに、サービスにおける創意工夫ができると説明しています。
しかし、プールのようにサービス向上することで利用者数を増やし売り上げを更に伸ばせる事業と異なり、定員を増やすことができない現状の特養において、サービス向上や創意工夫は、すればするほど費用がかさみ経営の効率化とは相反する結果となります。
仮に、自主事業を創意工夫と呼ぶなら、それは、利用者負担の増加にもつながり、やはり区立特養としての在り方の検証なしにできることではありません。

一方で、公共サービスのアウトソーシングにモニタリングは欠かせません。
地方自治法244条2においても指定管理者に対し報告義務を課したり、自治体の指定管理者への調査や業務停止を認めるなどして行政がチェックし評価するしくみとしてのモニタリングを義務付けています。
 区は、サービス低下をモニタリングにより監視・補強しようとしていますが、現在の大田区が行っている、行政評価と事業者の自己評価では、内容も不十分です。利用者アンケートを第三者評価とするには、質・量ともに不十分で更なる改善が必要です。
特に、今回の特養や高齢者在宅サービスセンターなどの施設の場合、利用できた方からは一定の評価が望めますが、利用から漏れてしまった方からの客観的な評価こそが必要で、そうした準備も全く行われていません。

 最後に、最も大きな問題のひとつは、指定管理者制度の利用料金制になることで、歳入・歳出から除かれてしまうため、議会の関与が及ばなくなってしまい、事業の透明性が著しく低下してしまうことです。
 今回の第一回定例会において「行政手続法」の趣旨に沿って質問させていただきましたが、江東区、横須賀市、藤沢市、厚木市、平塚市などは、行政手続き条例で指定管理者もその対象とすることにより、透明性や説明責任の確保を図っています。大田区ではそうした措置も取られていません。

現状の問題・課題を利用料金制度導入だけで解決できるというのは非常に安易であり、準備不足です。
以上の理由をもって、反対討論とさせていただきます。


なかのひと

 


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