旅限無(りょげむ)

歴史・外交・政治・書評・日記・映画

図書館危篤

2006-12-12 17:25:34 | 日本語
■政府は維持になって景気が良くなった、と数字のマジックを使っては宣伝しておりますが、本音は弱いものイジメの予算削減と増税をするための言い訳を積み重ねているだけだという、非情に説得力の有る説も流布しております。これだけ子供殺しが連日報道され、地方自治体の財政破綻だの汚職だの、富の偏在と権力の濫用を証明する事件が頻発すれば、真面目に地道に働くのが馬鹿馬鹿しくなって、現金自動預け払い機にワイヤーを引っ掛けてみたくなったり、社会的な弱者を標的にして電話や葉書を使った詐欺でもやって、面白おかしく暮らしてみたいなあ、などと本気で考える若者が育つのも無理はないかも知れませんなあ。
 
■路上の引ったくりや振込み詐欺の標的になるのは老人や御夫人ばかりだと聞きますから、卑怯旋盤な心根の卑しい文化が蔓延しているのでしょう。それに加えて万引きと呼ばれる窃盗が増えて困っているという話も有ります。仕入れ値を押さえ少しでも値引きをして客を呼び込もうと必死の小売店が取り揃えた商品を、好き勝手に盗まれたらぎりぎりの経営をしている店などひとたまりも無く倒産でしょうなあ。その代表格が町の本屋さんだというのは、亡国を予感させる恐ろしい話です。しかも、盗み出される本というのが高価で手が出ないけれど、どうしても読んでおかねばならない名著、と呼べない使い捨て文化の代表のようなコミック本とも聞きますぞ。

■勿論、世界に冠たる漫画文化を育んだ日本ですから、何度も読み直して味わいたい素晴らしい作品も多いのですが、たった1年も持続しない話題と流行に乗っただけのコミック本が、町の書店から抜き取られて、ろくに字も読めない愚か者の目の前を一度だけ通過して後は、新型の古書量販店に持ち込まれたり、ネット・オークションに出品されるという噂であります。作品の価値ではなく、時価の交換価値だけで右から左に動いて行く本は可哀想ですなあ。昔の名著は、先輩から後輩へ、親から子へ、或いは祖父母から孫へと現物が手渡されたものでした。それは家の財産でしたから、いろいろな書き込みや赤線も引かれていても問題は無く、受け継いだ者が先人の読み方を知る大切な目印ともなっていましたなあ。自分で購入した本を読み返す時にも、以前の自分の至らなさや浅はかさを反省する便(よすが)となるので、ちょっとした書き込みをしておく人は多いでしょう。

■しかし、時は流れて大量生・大量消費の時代が続くと、物を粗末に扱う愚か者が増えてしまうようで、他人の物と自分の物との区別が付かない乱暴者も出て来てしまうもののようですなあ。


各地の公立図書館で、雑誌などから写真や記事を切り取ったり、専門書に蛍光ペンで線を引いたりするなど、図書を傷つける行為が増加している。中には、閲覧室で堂々と雑誌を切り取り、職員から注意されると「どうしていけないの」と反論する人もいる。公共の財産を傷つけてはいけないという最低限のルールを破る行為の横行に、図書館側は「社会全体のモラル低下の表れでは」とため息をついている。

■自分の物が増え過ぎると、だんだん世の中に存在する物は全部自分の物と思い込む弱点が、人間と言う欲深い生き物には備わっているのでしょうか?自分が欲しいと思った物は、その瞬間に自分の物になってしまう、何だか遠い昔に読んだ童話に出て来るような話であります。


東京都世田谷区の区立中央図書館(同区弦巻)で被害が目立ち始めたのは5年ほど前から。徐々に悪化し、資料係の越後信子係長は「最近では1日2、3件のペースで切り取りや書き込みが見つかる」と話す。
読売新聞 12月12日

■「教育の再生」だの「地方からの文化を発信」だのと、格好の良い政治スローガンが叫ばれる事も多いのですが、今、日本中の図書館が利用者の知らない所で決定した予算削減に喘(あえ)いでいるのを、こうした馬鹿者は知らないのでしょうなあ。今年度になって、多くの図書館が定期的に購入していた「雑誌」の数を大幅に削っているはずです。雑誌閲覧コーナーには、それぞれの雑誌専用の棚が設けられている図書館が多いと思いますが、最近、雑誌自体が置かれずに悲しい貼り紙が目立っていませんか?その多くは今年度の予算が執行され始めた4月や5月に、「購入を停止いたしました」というお知らせです。まさか、切り取り魔が大増殖したのに手を焼いて、その監視や補修の手間を惜しんで雑誌を減らしているわけではありますまいな?!

■図書館に行くと、その土地の文化の程度が一目で分かりますし、公務員の質も見極められるのが面白いところで、長年通っている人には、世の中の動きまで良く分かるという、非常に便利な施設が図書館です。館内に、「私語厳禁」「飲食禁止」などと書かれた貼り紙が有る所は、残念ながら民度は低いと申せませしょう。しかし、「切り取り禁止」「落書き禁止」「本を盗むな」などという紙が貼られるようになったら、そこは既に図書館の体をなしていないと考えても良いでしょうなあ。こういう貼り紙は、電車や駅構内にべたべたと貼られた「痴漢行為は犯罪です」と同じように、非常に恥ずかしい物なのですが、これを恥ずかしいと思わない連中が増えているのが実情なのでしょうなあ。図書館で本を守り、さまざまな文化活動に従事しておられる皆さんには頭が下がりますぞ。恥を忍んで貼り紙をしても、愚か者は読まないし、心ある人は悲しく情けない気分になってしまうでしょう。皮肉なものです。

■図書館に警察官が呼ばれて来るような時代にはなって欲しく有りませんが、切り取り野郎がやっている事は器物損壊の犯罪ですし、私語や飲食は迷惑条例違反かも知れませんから、それに対応するのは図書館員の職責の範囲を超えていることになりますなあ。雑務に忙しい学校で、図書館教育の基本を教え込む余裕は無いのかも知れませんが、ハコモノではない内容の充実した図書館を持っている地域は幸いです。悪名高い「ゆとり教育」プランの中には、学校を地域社会の再生の核にする!という妄想に近い計画も盛り込まれていたそうですが、その役目は学校よりも図書館が追うべきものでしょうなあ。つまり、日本が滅びるのも栄えるのも、地域の図書館が予告してくれるという事なのでしょうなあ。

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