旅限無(りょげむ)

歴史・外交・政治・書評・日記・映画

松山上陸作戦 其の壱拾

2007-03-17 17:35:55 | 著書・講演会
■表のクライマックスが愛媛大学でのシンポジムなら、裏のクライマックスはこの日の夜に催された「智房庵」での交流会でしょうなあ。松山随一の綺麗どころの御姐さんが舞って下さるわ、それにチベット民謡で応えるわ、松山名物の鯛めしと五色素麺には麺片(ミェンペン)でお返しするわ、眼と耳と舌を総動員の一夜でした。でも、残念ながら?学生間の健全な交流という建前上、アルコール抜きだったのは残念でしたなあ。まあ、チベット式の酒盛りは翌日にしっかり実現しましたので、そのお話は乞うご期待!

■大衆芸能を切り口に日本とチベットを比較しますと、向こう三軒両隣、長屋文化の延長で生まれたワン・ルーム・マンションなどという翻訳不可能な小さな現代住居を生み出した日本には、細かく空間を仕切って細くて澄んだ声に乗せて唄う芸能が発達しました。江戸の木場に発展した「木やり」という恐ろしく遠くまで届く発声法も編み出されたようですが、草原で祭りや宴会を続けていたチベットには、この「木やり」とそっくりの発声法が根付いています。これを高い天井と贅沢な空間を持つ「智房庵」と言えども、まともにぶつけたらどうなるでしょう?芸者さんが披露して下さった艶やかな舞を口アングリ状態で堪能したチベット人生徒は、紙と木で仕切られた空間で唄われる日本の歌に驚いたに違い有りません。妙に最新の芸能情報に詳しい留学生になってしまった彼らは、携帯電話から小型音響機器まで自在に操って、徹底的に工業的に加工された歌声を日本で楽しんでいるようでしたが、本来の日本歌謡は小さな座敷で楽しむものだという事を体感したことでしょう。

■チベット服特有の長い長い袖を振り回して舞うには、贅沢な間取りの「智房庵」でも手狭なのでした。それでも良いから「唄って踊れ!」と小生が命じると、一見渋々、本心は嬉しくて仕方が無い生徒達はのそのそと前に出まして、ほんの数秒間の打ち合わせをしただけで、代表のフソンナム君を残して一旦下がりました。歌と踊りと料理が得意な彼は、ちょっと上気した顔で第一声を発したのです!草原対応の全身から吹き上げる発声法で日本家屋の中で唄うとどうなるか?歌のプロの芸者さんはともかく、愛媛大学の生徒も先生方もあまりの事に石のように固まってしまいました。マイクとアンプとコンピュータを駆使して増幅加工した歌声ではなく、さっきまで一緒に話していた生身の青年が目の前で唄い出したのですから、トリックが有るはずも有りません。でも、強固な壁を素通りして御近所に響き渡るような声量が、本当に1人の人間から発せられているのかどうか、初めての人は判断に苦しむでしょうなあ。

■余人ならず旅限無本人が10年近く前に仲良くなったチベット人達を自室に招いた時に、歓迎と御礼を兼ねて唄って貰った衝撃を、どうしても松山の人にも体験して欲しかったのでした。生徒達は、小声で「本当にここで唄って良いのですか?」と何度も念を押したのですが、「やれ!」と命じたので素直に喜んで唄ったのでした。きっと、その歌声で草原という場所を想像出来たのでないでしょうか?大成功だったと思います。ただ、残念ながら板の間でチベット舞踊をすると足が滑って顛倒の危険が有るので、少しは頑張ってくれましたが、残念ながら中断するしかなかったのは心残りだったでしょうなあ。はんなりと舞う細やかな日本舞踊の後で、勇壮そのもののチベット舞踊を披露するという旅限無の悪巧み?は、中途半端に終わってしまいましたが、衝撃度は申し分無かったようです。

■ちょっとした手違いで、折角御用意して頂いた羊肉が現場に届かず、煮た羊肉の味を紹介出来なかったのは残念でしたが、「麺片」という代表的な青海省料理を皆で楽しめたのは大正解でした。小麦粉を練って小半時熟成させた後、適当な大きさに切り分けてから細く伸ばし、左手首に巻き付けて先端を押し潰しながら繰り出し、それを右手の指で千切っては投げ、千切っては投げ、煮立っている鍋の中では肉と一緒に炒めた大根・人参・セロリが踊っております。チベット人学生は、ここぞとばかりに腕前を披露しようと、張り切って手際の良いところを誇示します。広いキッチンに集まった10人以上の人達は、彼らの指先から次々と飛び出して行く麺の断片に歓声を上げました。1人はその作業に専念しまして、他の生徒は手取り足取り日本人生徒にコツを伝授して、順番に鍋に麺を千切って投げ込んで楽しみました。

■煮上がった大鍋をテーブル上に運び込んで、「これはチベットのワンコ蕎麦だと思って下さいね」と一言断ってから、松山名物で一応お腹が落ち着いている皆さんに無理強いして食べて頂きました。黒酢をかけて食べる麺片は、予想以上に好評で、大きな鍋が見事に空になりました!香川の讃岐うどんに対抗して、松山名物「麺片」が有名になったりしたら面白いでしょうなあ。愛媛の山で羊を飼って貰うと本格的な味も出るというものですが……。

最新の画像もっと見る