旅限無(りょげむ)

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チャイナの水 其の壱

2007-07-14 10:27:35 | 外交・情勢(アジア)
※この写真は誤解を招きますなあ。

■7月中の台風としては史上最強と言われる4号が九州南部に上陸しそうです。文永・弘安の元寇ならば間違いなくカミカゼなのでしょうが、これは正真正銘の最悪の天災です。既に、洪水に暴風に落雷と台風災害のフルコースです。家屋や田畑を失ってしまった皆さんには同情するしかありませんが、「美しい国」を宣伝している首相には、手早い救済措置を願いたいところですなあ。フィリピン沖で生まれて北上する台風群は、日本を直撃せずに西よりのコースを取ればチャイナ南部と台湾、そして朝鮮半島が被害を受けます。何処の国でも自国を中心とした天気予報を出しますから、巨大台風が他国に向かってくれれば「良かった」と言いたげです。

■しかし、グローバル化の時代ですから、他国や隣国の天災は巡り巡って日本にも影響が及ぶようになっております。特に農産物が壊滅したりすると世界市場での奪い合いが始まり、値段が急騰することになりますし、最悪の場合は食糧不足になる可能性も有るわけです。「世界の工場」と喧伝される今のチャイナは、世界の地下資源を買い漁るのを警戒されるようになりましたが、それ以上に飼料作物を中心とした食糧輸入の爆発的増加の方が深刻だという声も多い昨今。チャイナの食糧自給は世界共通の難問となっているようです。チャイナの治水の歴史は古く、伝説の三皇五帝の堯・舜・ウ、そのウは一生を治水に捧げたことになっているくらいで、黄河などはその流れを大きく変える暴れ河ですし、長江は洪水の歴史を重ねているのです。

■毎年のように洪水・水没災害を繰り返している長江ですが、本当はその大部分は人災だと言われています。元凶は、「大躍進」を命じた毛沢東その人です。長江の下流域は、天然の地形を利用した遊水池が無数に存在していました。景勝地としても有名な洞庭湖はチャイナ最大の淡水湖ですが、その周辺には大小の湖沼が点在していたのを、「食糧増産」の大号令で人海戦術を駆使して次々と埋め立ててしまったのが毛沢東でした。上流には世界の屋根と呼ばれるチベットですから、その下流の遊水池を埋めてしまえば何が起こるか?農業に関して知識も経験も無かった毛沢東は、無謀な命令を下して大変な災厄を故郷に及ぼしたことになります。

■そう言えば、日本の役所も面子のために干拓工事をまだ続けていますなあ。百害あって一利無しと分かっているのに、建設目的をころころと変えてでも、自然の海岸線と干潟をぼろぼろにし、内海の水質を悪化させるのを承知の上で、「計画」通りに「予算」を執行しようと意地になっております。農水省や国土交通省には、毛沢東やスターリンを秘かに尊敬しているエライ人がたくさん居るのでしょうなあ。困ったことです。そんな連中の中から国会議員に立候補して、土木企業やら役所の支援を受けて当選するから、無駄な公共事業が増えて困るのでしょうなあ。

■革命の父・孫文以来、長江に巨大なダムを建設するのはチャイナを支配する者の彼岸で、それが完成してしまいました。これが発電と治水と灌漑に利用されるという計画ですが、大計画の裏には思わぬ自然界からのしっぺ返しが隠れているもので、アスワン・ハイ・ダムによって不毛の大河となったナイル川と同じ運命が長江にも襲い掛かるだろうと心配されています。中流に建設された三峡ダムは、チベットから流れ下る膨大な雪解け水に対しては保水機能を発揮できそうですが、下流域を襲う大雨や台風には無力です。かくして、北は留まることを知らない砂漠化、南は洪水が頻発する泥沼化、世界的に有名な黄河は1年の半分以上が流れを消すという絶望的な状況なので、「調水」と称して南の水を北へ強引に運ぼうと大工事を行っていますが、それですべてが解決するかどうかは分かりません。



12日付北京晩報によると、先日「北京のウォーターサーバー用ボトル入り飲用水は半数がニセモノ」とメディアが報じたことが原因で、最近数日の販売量が3割減少した。 <サーチナ&CNSPHOTO>

■冒頭に貼り付けた写真はこの記事のものです。確かに「青海湖」の写真のようですが、東部か北部の風景でしょう。凄まじい勢いで水位が下がってはいますが、湖本体はまだまだ水平線が見える風景のままです。これは岸に近い所で切り離された一つの水溜りの写真でしょうなあ。何の説明も無いので、知らない人が見たら、チャイナ最大の塩湖が「こんなに小さくなったのか?」と驚いてしまうでしょう。



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2 コメント

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Unknown (蒼空)
2007-07-14 18:23:56
 まさに衝撃的な写真でした。NHKがさんざん持ち上げた天空の湖が、2~3年でこうなってしまったのかと唖然としましたが、違うようで安心しました。いやぜんぜん安心できません。青海省のチベット人たちはどう感じていることでしょうか。
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蒼空さんへ (旅限無)
2007-07-14 19:27:09
いらっしゃいませ。著作権の問題が有るかも知れませんが、写真のキャプションが説明不足なのが非常に気になったので、敢えてブログ内に貼り付けました。青海湖に御興味がお有りのようですね。拙著『チベット語になった「坊っちゃん」』にも、青海湖の現状や伝説についても少しばかり書いてありますので、どうぞ、ご一読のほどを……。
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