旅限無(りょげむ)

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NHK『青海チベット鉄道』を観る 其の壱

2007-01-08 16:22:04 | チベットもの
■以前にも取り上げた「青海鉄道」が、いよいよ本格的に稼動したというので、日中友好の老舗?本家本元を自負する皆様のNHKが、「世界で初めて!」と力が入る特集ドキュメント番組を、新年早々の正月2日に放送しました。北京政府が是非とも放送して貰いたい内容と、NHK側が取材したかった内容とが、どのように刷り合わされたのかはまったく不明ですが、少なくとも番組中に流されるナレーションは、北京語で用意された台本を丁寧に日本語に写したような印象が濃厚でしたなあ。

■大金を投じて苦労の末に開通させた高山鉄道ですから、観光という表の目的を存分に宣伝して外貨をどしどし稼ぎ出したいところでしょうから、既に乗客の中に死者が出ているとか、予想外の凍土の融解によって早くもあちこちに狂いが生じている事などのネガティブ情報は一切出て来ませんでしたなあ。環境対策に関する情報が、少々多過ぎるくらいに盛り込まれ、高山病対策の設備についても、「気分が悪くなった乗客」を見つけ出して、これまたたっぷりと時間を取って取材していましたぞ。と言うわけで、このブログ記事もたっぷりと時間を掛けて読んで頂かねばならない物になってしまったのでした。


2006年7月、初めて鉄道が開通しました。
青海チベット鉄道!
列車が行くのは、標高5000メートルを超す、天空の世界です!

■出だしのナレーションが流れる中、レールの間に置かれたテレビ・カメラに向って、列車は画面の中央に小さく現われ、一直線に突進して来てカメラを跨ぐようにして画面いっぱいになって通過して行きます。まあ、定番の映像から始まります。撮影現場というものは、何処でも大変な苦労があるのでしょうが、このドキュメンタリーは青海高原とチベット高原で制作されたのですから、走行する列車を山の上やら線路脇やら、感動的な画面を構成しようとカメラを苦労しながら運んだスタッフの御苦労が偲ばれます。それにしましても、「天空の世界」の決まり文句はどうにかならないものでしょうか?!画面の左下には、「青海チベット鉄道」の文字と、その下には「世界の屋根2000キロを行く」との副題が出ます。あのコースは「世界の屋根」とは無関係ではないか?と疑問も感じますが、チベット高原全体の呼称だと考えれば大した問題ではないでしょう。


車窓には、チベット高原の雄大な風景が次々に姿を現します!
雪煙舞う、万年雪の山々。ここでしか見る事が出来ない、貴重な野生動物。チベットの人が崇める、聖なる湖。
そして、鉄道としては、世界で最も高い場所を駆け抜けます。最高地点5720メートル!

■他の場所で撮影された「雄大な自然」を紹介するドキュメンタリーでは、こんなに高い調子のナレーションは付かないような気がしますなあ。何だか、ツアー会社のパンフレットに載っていそうな文句が、臆面も無く並んでいます。ウソは無いのですが、何分(なにぶん)にも列車の旅なので、ここに羅列されている風景が、必ず見られるというわけではありません。新幹線から見る富士山みたいなもので、本当は「見えたらラッキー!」というお話なのです。1日の中に1年分の天候が現われるとも言われるほど、変わり易い天気が特徴の場所ですから、白い山々がくっきりと見える日は、それほど多くはないはずですなあ。

■従いまして、番組中に詰め込まれた数々の名シーンはスタッフの努力と粘りの賜物でしょう。「昨年11月」に撮影したとナレーションが流れますから、2日に1本の単線列車の中と外、そしてパンフレットに紹介されている「名所」の映像をカメラに収めるのに、一体、何回乗ったのでしょう?撮影期間内にとらえられなかった映像は、別の手段で入手して編集でつないだ可能性も無いわけではありませんが、神々の恩寵(おんちょう)で冬の晴れ間に全ての被写体が、ほぼ予定通りに手に入ったのかも知れません。まあ、北京からは直行便は毎日走っているようですし、成都や重慶からの便も有るそうですから、それらを上手に利用したのかも知れませんなあ。


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