旅限無(りょげむ)

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『チベ坊』の続編のような…… 其の参

2010-10-27 15:53:30 | チベットもの
■週末になる度にチャイナの各地で学生達が集まって騒いで公安当局も手を焼いているようですが、「愛国無罪」の看板も時には剥がれて落ちて下地の本音がちらちら見えるようになって来ているので北京政府も気が気ではありますまい。10月23日付けの新聞までは国際面の小さなベタ記事扱いだった青海省でのチベット人学生による抗議デモが、さすがに3日も連続して一本の導火線を辿るかのように主要な道路を伝って広がって行くのですから、大きな特集を組んだ新聞も現われましたなあ。目に見えない導火線はラサ市を目指しているような印象でありますが、ウイグル地域などにも飛び火するかも?

■チベット地域で連続している抗議運動は愛国運動などとは無関係ですから尖閣問題やら日本の悪口などへの言及は皆無で、最初から北京政府の民族教育政策に対する真正面からの抗議だけという単純であるが故に先鋭化したものであります。漢族の学生が騒いでいる内陸部の都市では、劉氏のノーベル平和賞受賞も火種の一つになっているようですが、チベット人にとってはダライ・ラマ法王という同賞を受けて先輩格の存在がありますから、ノーベル賞を非難する北京政府の態度がチベット人達にとっては法王を悪人扱いし続けている政府のチベット政策に対する怒りと恨みを思い出させる効果があったのかも知れません。


インドのジャミア・ミリア・イスラミア国立大が22日までに、チベット仏教最高指導者ダライ・ラマ14世に名誉博士号を授与したいとインド政府に提案したが、政府が却下していたことが分かった。……ダライ・ラマは海外の大学などから名誉博士号を授与されているが、インドの大学としてはこれまで例がなかった。インド政府筋は「インド政府はダライ・ラマを深く尊敬しているが、(ダライ・ラマを「国家分裂主義者」と批判する)中国との関係を悪化させたくない」と背景を説明した。中国政府は、中国が領有権を主張するインド北東部アルナチャルプラデシュ州をダライ・ラマが昨年訪問した際や、シン首相が今年、ダライ・ラマと会談した際にはインド政府に抗議した。
2010年10月22日 産経新聞 

■アルナチャルプラデシュ州をダライ・ラマ法王が昨年訪問した件に関しましては、『ダライ・ラマ法王が訪米 其の八』
で取り上げましたが、その後も日本が米国に続いてインドに接近しようとする動きに対応するかのように、チャイナはパキスタンとの関係をどんどん強化しておりますから、インド政府としては経済と軍事の両面で北京政府と対決する準備を整うまでは、チャイナ側の誇大妄想・針小棒大・我田引水・傍若無人な抗議のタネとなる問題は起こしたくはないのかも?1959年当時、世界が見捨てたチベットから逃れたダライ・ラマ一行を迎え入れて亡命政府の設立も認めたインドとダライ・ラマ法王との信頼関係は今のところ問題は無いようですから、学位の一つや二つ受けられなくても法王はいつもの調子でジョークで済ませることでありましょう。

■しかし、こうした情報は驚くほど早くチベット人の間に広まるもので、ダライ・ラマ法王の名誉が傷ついたと思って怒りを覚えた人達もいた可能性はありそうです。逆に独裁政権による厳しい報道規制が無いはずの日本では、以下のようなニュースが意図的に小さく扱われて問題の核心が見えにくくなる傾向があるような気がしますなあ。


11月予定のチベット仏教最高指導者、ダライ・ラマ14世の来日に対して、中国政府が日本側の招聘自体を取りやめるよう要求していることが(9月)22日、分かった。中国政府は従来、ダライ・ラマ来日では日本側に圧力をかけてきたが、会合への出席を止めようとするのは異例。沖縄・尖閣諸島周辺での漁船衝突事件を受け、中国側が強硬姿勢を取っている可能性がある。…… 

■尖閣衝突事故に関して、日本側の「柳腰」外交の真相などは既に隠しようもなく国民に見えてしまっているようなものですが、チャイナで展開されている権力闘争の暗部や軍と政府との関係など、日本のマスコミがつかみ切れていない謎が多いようです。しかし、9月22日という日付の重要性を忘れては行けません。前日には菅アルイミ首相は誰も聞いてくれない演説をするために米国に出発していまして、仙谷ノーコメント官房長官に対して「留守中に解決してね」と責任丸投げの指示?を残して行ったことが判明しております。

■エエカッコしいの前原国交大臣の指示によって公務執行妨害で酔っ払い船長を逮捕拘留したものの、手段を選ばぬ恫喝外交を展開する北京政府の態度に菅アルイミ素人内閣は震え上がって顔面蒼白、仙谷ノーコメント官房長官は何も知らない法務大臣を脅しつつ、外務省の担当課長を那覇地検に派遣したのが9月23日!「我が国の国民への影響と今後の日中関係を考慮」するという立派な?外交的理由で船長を拘置期限前に釈放したのは翌24日のことでした。従いまして9月22日の段階で北京政府は強行姿勢による外交的勝利を確信していたはずで、事のついでにもう一度仙谷ノーコメント官房長官に「柳腰外交」をして貰おうかと虫のいい皮算用をしていたのかも知れませんぞ。


ダライ・ラマが出席を予定しているのは、広島市で開催される「ノーベル平和賞受賞者世界サミット」(ローマの同サミット事務局主催)。ダライ・ラマのほかゴルバチョフ元ソ連大統領や、エルバラダイ元国際原子力機関(IAEA)事務局長ら歴代のノーベル平和賞受賞者9人が、「ヒロシマの遺産・核兵器のない世界」をテーマに議論する。……中国側は外交ルートを通じ「彼(ダライ・ラマ)はノーベル平和賞を受賞するような人物ではなく、招聘はしないほうがいい」などと指摘。ダライ・ラマを「分裂主義者」と見なす従来の主張を繰り返し、招聘を自粛するよう要請した。これに対し、開催地の広島市は「中国側から現時点で抗議は受けていない」(市平和推進課)として、予定通りダライ・ラマを招聘するという。…… 

■本来ならば菅アルイミ首相もそそくさと参加して、またぞろ「誰も聞いてくれない演説」をしに出掛けたくなるような民主党政権好みの国際会議なのに、この件に関して政府はまったく知らん顔でありますが、きっと「北京政府は怒っている」からなのでしょうなあ。


中国側はこれまでも、チベット問題に神経をとがらせてきた。平成17年4月に宗教団体の招きでダライ・ラマが訪日した際、日本政府が「宗教活動」として入国を認めたことに対して、駐中国大使館の日本公使を呼びつけて抗議。19年11月には、野党時代の鳩山由紀夫民主党幹事長がダライ・ラマと会談すると、駐日中国大使館が民主党を非難する声明を出した。政府関係者は「尖閣での事件にチベット人権問題が加わることで、中国国内が混乱することを中国指導部がおそれているのではないか」と分析している。
2010年9月23日 産経新聞 

■野党時代の鳩山サセテイタダク前首相は、自分の無知を一種の武器にしてこのような壮挙もしていたのですが、実際に政権を担当すると「匹夫の勇」を示す機会も無く意味不明の妄言を歴史に残して自任してしまったのでした。時にはトンデモない事をする危険があった鳩山サセテイタダク前首相が失脚して北京政府の思いをこまごまと忖度してくれる御用聞きみたいな官房長官が何も知らない菅アルイミ首相を操ってくれているので、こうした内政干渉も当然の権利と勘違いしてしまうのかも知れません。

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