旅限無(りょげむ)

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『チベ坊』の続編のような…… 其の伍

2010-10-28 15:46:14 | チベットもの
「其の四」の記事が続きます。
……英BBCによると、24日には黄南チベット族自治州尖扎県で民族学校の生徒に教師も加勢し、総勢千人以上が教育改革の撤回を求めてデモを強行、治安部隊が出動する事態に発展した。発端は9月下旬、青海省が省内の民族学校に、チベット語と英語以外の全教科で中国語(標準語)による授業を行うよう通達したことだった。教科書も中国語で表記する徹底ぶりで、小学校も対象という。当局の中国語教育の強化の背景には、中国語が話せないため職に就けないチベット族が少なくないという現状がある。就職難はチベット族と漢族の格差をさらに広げ、それがチベット族の当局に対する不満につながっているのも事実だ。しかし、2008年3月、チベット自治区ラサで発生したチベット仏教の僧侶らによる大規模騒乱が示すように、中央政府のチベット政策に対するチベット族の不満、漢族に向けられる嫌悪感は根強い。今回の教育改革も、チベット族学生の目には「漢族文化の押しつけ」「民族同化の強要」と映っているようだ。「自由チベット」は中国当局がチベット語の“抹殺”を図っていると主張している。…… 

■日本国内にもアメリカン・スクールや韓国人学校・朝鮮学校などが存在していますが、チャイナの「民族学校」というのは飽くまでも中華人民共和国の学校ですから、少々事情は異なってはいます。しかし、少数民族の文化を尊重して保護するという建前上、野蛮で可哀想な少数民族に北京語を教えてやる!という生々しい政治の本音は巧妙に隠されているようで、漢語教育は一種の外国語授業のような扱いで所定のコマ数の中に納まっていることになっております。就職や各種事情で最初から民族学校ではない漢族向けの学校に入る少数民族の子供のおりますし、逆に高校以上のレベルになると少数民族の特別枠を狙って偽者が紛れ込むという椿事も珍しくはないようです。

■北京語が下手だとマトモな就職口が無い!という現実そのものが問題で、古い話になりますが失脚した華国鋒の後を次いで国家主席に就任した胡耀邦さんが、1980年の5月にチベットを視察した時、それまでのチベット政策の失敗を認めて謝罪する有名な演説をしました。チベット復興のために投入された「莫大な資金は何処に消えたのだ?!」と言ってはいけない事まで口走って、チベット人は感動したものの、後に失脚する遠因になったとも言われております。チベット訪問時に「政治犯の釈放」「チベット語教育の解禁」と新機軸を打ち出し、その2年後には中国憲法に基づいて「信教の自由」を改めて保証し、解放戦争と文化大革命で略奪され無残に破壊された多くの僧院の再建も始められたのでしたが、「莫大な資金」を懐に入れて我が世の春を楽しんでいたに違いない悪い奴らは大いに腹を立てて、別の事件で胡耀邦さんが失脚すると全部丸ごと御破算になったという切ない歴史がありましたなあ。

■「西部大開発」を象徴する青蔵鉄道が鳴り物入りで開通して日本のNHKなども盛んに宣伝に強力したものですが、不思議なことに西部大開発によって経済格差がどんどん広がり、開発の資本を握っている特権階級が続々と乗り込んで来て肥え太って行くばかりというチベット人にとっては袋小路に追い込まれるような状況が深刻化しているようです。中には知恵と努力と幸運?で経済的に成功したチベット人も存在しますが、先日、そんな一人のチベット人が逮捕されて財産を没収されるという事件が起きましたなあ。

■今回の学生デモの発端となったカリキュラムの全面的な改定により、チベット人はチベット語を外国語のように学ばねばならなくなるわけで、多くの由緒有る寺院を爆破・破壊し僧侶を殺害した歴史に、世界的な仏教文化を写し取って保存しているチベット語を死滅させるのか?!という重大な問題として多くのチベット人を怒らせてしまったのは大失敗でしたなあ。


……同省共産党委員会の強衛書記は21日、黄南チベット族自治州で学生代表と座談会を開き、「学生たちの願いは十分尊重する」と約束した。中国当局が反日デモ同様、教育改革に対するチベット族の抗議デモが、体制批判に転じることについて懸念している状況をうかがわせる。
2010年10月24日 産経新聞 

■どのように願いを「尊重」するのか?青海省政府の名で決定された政策をあっさりと引っ込めるわけには行かないでしょうし、かと言って更に強行したら大規模な暴動に発展する可能性が高く、政権末期の胡錦濤国家主席としては出世の糸口を「ラサ暴動」でつかんだ身としては、絶対に「チベット暴動」で失脚するわけにも行きますまいから、最後の手段としては「青海省政府の暴走」として大きなトカゲの尻尾切りを断行するしかないかも知れませんなあ。
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