旅限無(りょげむ)

歴史・外交・政治・書評・日記・映画

美人局と書いて… 其の弐

2006-02-26 17:25:33 | 社会問題・事件
■しかし、法律を上手に悪用すれば、もっと上品に稼げるようです。

割賦販売法では2カ月3回以上のローンを組む場合、クーリングオフなど消費者を保護するしくみがあるが、翌月一括払いが多いカード決済は、多くのケースが対象外。また、加盟店の不法行為については、カード会社や決済代行業者に責任を負わせる制度もないため、悪質な決済代行業者の存在はトラブルにつながりやすいという。

■カード決済が便利だと、誰が言い出したのかは分かりませんが、70年代の米国はベトナム戦争の影響も有ってか、窃盗や強盗が頻発して現金を持ち歩くのは自殺行為だと言われていました。そこで本人がサインしなければ使えない銀行振り出しの小切手帳が必需品になって、当時の映画やテレビ・ドラマにも良く出て来たものです。そこにカード社会が出現したのですから、国民全員がこぞってカード決済をするようになるのは当然です。しかし、日本もそれに同調する必要が有ったのかどうか、誰も疑問に思わず、便利だから、の上に米国文化を崇拝する気分も加わって急速にカードが普及して行ったのでしたなあ。まさか、それがいとも簡単に偽造されたり、データを読み取れるようなヤワな代物とは思いもしなかったのでした。


土井弁護士は「薬物や銃器、アングラ情報の売買なども、決済代行会社を介すことで、信用あるクレジットカードの支払いが可能になり、さまざまな詐欺商法の支払いもできてしまう」と警鐘を鳴らしている。毎日新聞 - 2月25日

■カード自体にも多くの弱点が有ったのに、法律がまったくカード社会に対応できていないとなれば、こんなに危険な物は無いように思えるのですが、売られている財布には、「便利なカード用スリット」が沢山付いていますなあ。携帯電話も必需品になりましたし、インターネットの利用方法は小中学校でも熱心に教えるように文科省が推奨して予算も付けているのですから、ネット版の「美人局」は増え続けることでしょう。その内、色気づいた暇な高校生や中学生が被害者になったというニュースが続出する可能性も高そうです。否、既に親が泣く泣くカネを払って黙っている事件が多発しているのかも知れませんなあ。美人局を「ツツモタセ」と読ませるのは、日本のヤクザさん達の隠語で「筒持たせ」という専門用語が有ったからだとか、辞書類は巷間囁かれる語源の噂を付記しています。

■「筒」を持たせる、という表現を即物的に解釈すると、まぐわう途中で行為が中断されるイメージが涌きますが、行為が終わろうと途中であろうと、美人局と言うのでしょうなあ。ちょっと声を掛けたとか、物欲しそうな視線を送ったとかいう些細な理由でも脅迫は出来るでしょうし、詳しく考えると頭が混乱してしまいます。しかし、美人局が成立する時には間違いなく被害者は金品を巻き上げられているのは確かでしょう。金品でなくとも、何か有利な取り引きを強要されるとか、犯罪行為を代行させられるという事も有りそうですなあ。手を切りたくなった女性を脅迫する相手に押し付けてしまうような場合も美人局と呼べるのかどうか、難しいところです。

■世の中は男と女で構成されているのですから、あちこちで美人局もどきの騒動が起こっていることでしょう。しかし、これも詐欺の一種だと考えれば、その歴史的な起源は随分と古いのかも知れませんなあ。詐欺と泥棒は、石川五右衛門さんが言う通り、「浜の真砂が尽きるとも、…尽きぬ」ものでしょうから、ご用心、ご用心。さて、言葉の上で美人局の本家本元?とされる話では、本妻でもない女性を本妻だと言って相手を騙すのでした。これはライブドアがやった事とまったく同じ事ではないでしょうか?

■株式の交換や怪しげな資金で「M&A」という名の会社乗っ取りを繰り返して、本体のライブドア株を大きく見せて株価を吊り上げる。プロ野球、地方競馬、宇宙旅行…と、マスコミが集まりそうな話題を目ざとく見つけると、その中心に飛び込んで新聞紙面やテレビ画面を賑わして企業の名前を売って株価を吊り上げる。その繰り返しですから、最後には株式の最高値を見極めたプロが売り浴びせて大儲けした後、素人が大慌てで売り抜けようとして失敗するのは目に見えていたでしょう。国の許認可事業であるテレビ局を手中にすれば、政治家や役人とも仲間になれると思ったのか、ネットとテレビ・ラジオ放送を融合させる!と、本家の米国でも成功していない大事業を打ち出したりもしましたが、一番熱心にやっていた事は職種に区別を付けずに弱みを見せる企業の強引で怪しげな買収だけだったようです。

■本体のライブドアを本妻さんとすれば、経営ノウハウも分からない業種の企業を子会社化した時点で、娼妓を本妻に見せかける偽装をしていた事になるのではないでしょうか?法律に抵触すると問題になっている粉飾決算も、トルコのスルタンがハーレムを営んだように子会社を侍らせておいて、株式市場に向っては全部が本妻のように見せかけたのでしょう。本やDVDなどのメディアを総動員して宣伝していただけでなく、公共電波も利用して美人局を仕掛けていたようなものです。但し、この奇妙で大規模な美人局には、最後に凄んで出てくる怖い男は登場しません。先の悪質サイトで稼ぐ「愛人契約」詐欺と同様で、愛人の代わりに「株主」をマスコミを挙げて募集していたようなものです。愛人(株主)になったら高額の報酬が約束されているかのように囃し立てた者が大勢いたわけですから、実体の無い契約に資金を投げ込んだ人は、何処にも居ない愛人を求める大金持ちにも会えず、株主としての利益も得られないまま、世間の冷笑を浴びる事になったというお話です。

■石川や、浜の真砂は尽きるとも、世に美人局の種は尽きまじ……。
ご用心、ご用心。

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美人局と書いて… 其の壱

2006-02-26 17:24:46 | 社会問題・事件
■「美人局」と書いて「ツツモタセ」と読みます。ものの本によると、元の時代に書かれた中国の本に出ている単語らしいのですが、その時はプロの娼妓を自分の妻だと偽って、客になっていた男を脅迫する話なのだそうです。妻を娼妓に仕立てても、娼妓を妻だと偽っても騙される方のダメージは同じとも思えますなあ。この犯罪の成功率を高めるのは、脅迫された被害者の心に自責の念や羞恥心などがふつふつと湧き上がる正常な心理が働くからです。ですから、「逆ギレ」されたら犯罪は失敗に終わります。陰に隠れていた男が現われて「オレの妻(女)に何をしやがる!」と凄んで脅迫するわけですから、相手に迫力負けして返り討ちに遭う危険も有るでしょう。ですから、出来るなら相手との接触を避けてカネを巻き上げられれば、犯人にとっては実に稼ぎ易い事になりますなあ。今の世の中には、それを可能にする仕組みや道具が揃っているらしいのです。ご用心、ご用心。

「会ってくれるならお小遣いをあげる」――。裕福な男女が交際相手を探していると装って勧誘し、後から多額の利用料を請求する悪質な出会い系サイトが横行している。運営業者は、海外に法人格を持つ決済代行会社を“トンネル”として経由させることで、クレジット決済を可能にしている。現行法では、こうした悪徳商法を規制するしくみが不十分で、法律家は法整備を求めている。

■「出会い系サイト」という正体不明の商売が大繁盛しているような風聞が広がっているようですが、噂通りの内容ならば売春斡旋業と余り変わりが無いようです。人権問題にかかわる「自由恋愛」を楯にして営業しているのでしょうが、美人局の草刈場にするには最適な環境を提供しているとも言えますなあ。それでも業者が減らないのですから、妄想を成就させた人がどれほど存在するのかは分からないのに、次々と客になりたがる人が跡を絶たないのは確かなようです。中にはこの記事に有るような、愛人契約の仲介話も紛れ込んで来るのは仕方が無いのでしょうが、昔のような「苦界」だの「日陰者」だのと言う陰湿な響きを持った言葉が死語になっているのでしょうなあ。


悪質サイトは無差別に電子メールを送り、「無料体験」などを口実に勧誘。登録時にクレジットカード番号を記入させ、入会すると「セレブの主婦」「青年実業家」「デザイナー」などの肩書でメールが続々と届く。メールのやりとりをするうちに、有料化する通知が届き、ドル建てで月数万~数十万円の利用料を請求してくる。
 メールの相手は「会えば300万円あげる」「お金がいっぱいある」などと言い寄るため、会員は「会って元を取ろう」とメール交換を継続。ところが、デート直前になると「事故に遭いけがをした」などと理由をつけて相手は逃げてしまう。
 
■携帯電話のメールに同種の「迷惑メール」が次々と着信し始めた事が有りました。最初は、ルミちゃんやリカちゃんのお誘い手紙の文面を眺めながら、どこの馬鹿者がどんな顔してこんな下手くそな文章を打ち込んでいるのだろう?と笑って楽しんでいましたが、文面がほとんど同じで、時にはまったく同じ物も送りつけられて来ました。同じ詐欺なら、もう少し努力するべきだ!と腹が立つ頃には、着信した時点で「料金が発生しています」だの「未入金の使用料が多額になっています」だのと、脅迫が始まったのでアドレスを変更して騒ぎは収まりました。全国的にアドレス変更が行なわれたり、警察による摘発が始まったりして、業者は随分と減ったらしいのですが、携帯電話会社やネット関連の会社は相当に儲けたはずなのですが、まるで自分達も被害者であったかのような顔をして特に利用者に謝罪などしていないようですなあ。

■問題のメール内容ですが、ルミちゃんやリカちゃん本人がそんなメールを打つはずなど無いのは明々白々なのですから、本物に見せかけるには高度な技術が必要となります。しかし、悲しい事に状況判断が出来ない上に、文章の読解力に乏しい人が多いのか、文面を本気にして妄想を膨らませてしまう椿事が多発しているようなのですなあ。手の混んだ物になると、誰だか分からない女性の写真を貼り付けて送りつけるメールも有るそうなので、文面を吟味される弱みを誤魔化すのに必死なのでしょうなあ。


悪質サイトに関する訴訟を複数担当した土井裕明弁護士(滋賀弁護士会)らによると、出会い系サイトなど実態不明の企業は通常、カードの加盟審査で除外され、カード決済はできない。しかし、新規の起業が相次ぎ、加盟の申請が増加する中で、加盟審査などの業務をカード会社に代わって行う決済代行業者が次々と誕生。悪質サイト運営者が、海外に法人格を持つ決済代行業者に申請して審査の目をすり抜け、カードで決済するケースが目立つようになった。

■「決済代行業者」というのが曲者で、法律的には「善意の第三者」とか言う被害者と同じ立場を確保して理不尽な取り立てが可能になるのだそうですなあ。元々、発信元が誰なのか分からないので書類上だけで同じ悪い奴が「決済代行業者」に成り済ます事も簡単なのでしょうし、脅迫の専門家があちこちから仕事を請け負う場合も有るでしょう。

産経新聞インタヴュー

2006-02-26 12:06:19 | 著書・講演会
■産経新聞 2月26日

【著者に聞きたい】 中村吉広さん 『チベット語になった「坊っちゃん」』

自分たちの言葉に誇りを

中国青海省の小さな町、チャプチャの青海民族師範高等専科学校に一九九八年から
二〇〇一年まで滞在、チベット人に日本語を教えた体験記をまとめた。しかし最初から
日本語教師として赴任したのではない。チベット仏教の理論書を読むための語学留学
先として選んだのがこの学校だった。

「きっかけはオウム真理教事件。チベット仏教を騙(かた)る彼らを誰も止められなかっ
た。チベット仏教の本質は何だろうと興味がわいた。ところが、チベット仏教の超能力
や神秘的な側面について書かれた本は出ているけど、本質に迫る本は国内では手に
入らない。留学して理論書を読むしかないな、と」

同校は中国政府がチベット民族教育のための教員を養成する施設で、学生の九割が
チベット人。チベット人が多く住む奥地でチベット語を学びたいという希望に合う学校で、
初めての外国人留学生が中村さんだった。

三年間、生徒として学び、チベット人の日本語教師が学校を去ったことから、留学期間
を延長して四年目から日本語を教えることになった。「大変でした。日本人が韓国語を
勉強するのに、フランス語で書いた韓国語教科書を使う人はいない。でもここでは、同じ
ようなことをやっていた」。チベット語は、日本語と同じように単語を助詞でつないでいく
「膠着(こうちゃく)語」。ところが、教科書はまったく系統の違う中国語(北京語)で書か
れている。これでは効率よく教えることができない。

中国語を介せず、チベット語を日本語に訳すための教材として学校に所蔵されていた
日本文学全集から夏目漱石の『坊っちゃん』を選んだ。『坊っちゃん』と同じように寄宿
舎で生活を送っている彼らは、ときに笑い声を上げながら翻訳作業に取り組んだ。

生徒たちは、中村さんの一年間の任期中には最後まで訳すことはできなかった。しかし
近代化が進み、チベット語が話されなくなっていく中、「チベット語は道具として機能する
んだ、自分たちの言葉に誇りを持てというメッセージは伝わった」と手応えを感じている。
途中までとはいえ、チベット語版「坊っちゃん」を残すことができた。

「次の世代がこれを見て日本語に興味を持ってくれれば」



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