旅限無(りょげむ)

歴史・外交・政治・書評・日記・映画

まだまだ勉強不足 其の弐

2006-02-21 22:33:20 | 歴史
■残留孤児の裁判の話が続きます。これは単なる老人問題でもないし、移民受け容れ問題とも違います。これさえも解決出来ないのが今の日本だとしたら、何から手を付けて学び直さねばならないのか、呆然とする思いがします。

国側は、原告が中国人と結婚して生活していたことなどから「自ら中国に残った」とも主張したが、判決は「中国人の保護を受けるか、生命を落とすかという運命の分岐点に立たされ、自らの意思によらずに取り残された」と認定した。

■今になって、「勝手に残った」という解釈が本音として飛び出して来るのは驚きです。


…旧満州などに取り残された日本人のうち、政府はおおむね13歳未満を残留孤児、それ以外は残留婦人等と規定。残留婦人は自分の意思で残留したとみなされ、以前は定着促進センターでの日本語教育を受けられなかったり、配偶者の帰国費用が認められなかったりした。94年に残留婦人や孤児のための帰国者支援法が制定された。厚生労働省によると、今年1月末までに永住帰国した孤児は2503人、婦人は3810人。……「なぜ国は早期帰国に手を出してくれなかったのか。判決は残念と言うよりも無念です」。東京地裁判決を受け、原告の鈴木則子さん(77)は記者会見で憤った。

■70年代末に沸き起こった同情と感動の騒ぎは何だったのかと、今更ながら不思議に思えます。「帰国」「祖国」「肉親」そんな大きな活字が氾濫していた時、言葉や仕事をどうするのか?当面の衣食住の問題を想像し、養父母に対する礼金や仕送りをどうするのか、短期の訓練と一時金で万事解決すると誰かが判断したのでしょうが、その人の名前は分かりません。


…判決が「政治的怠慢」を指摘したことについて、原告代理人の石井小夜子弁護士は「行政や立法府に『何とかしろ』という裁判所のメッセージとも受け取れる」と話し、国による永住帰国者への支援拡充を訴えた。鈴木さんは「中国大陸でどんな思いで生きてきたか理解されていない。私たちは日本の国民です。私たちを何者と思っているんでしょうか」と語気を強めた。「最後の最後まで日本の国に認めてもらえるようにがんばっていきたい」と話し、控訴審に望みを託した。藤井武子さん(73)も「悔しい」とだけ話し、うなだれた。厚生労働省によると、永住帰国した残留孤児らの平均年齢は04年3月末で66歳。就労者の平均月収は18万円弱。生活保護を受けている人は58%に及んでいる。毎日新聞 - 2月16日

■40代50代で、中華思想と社会主義思想の国から帰って来た人達が、当時の日本でどんな暮らしを始めるのか?それを詳細にイメージしなかったのは迂闊でした。生活保護を受けて静かに祖国の土になる時を過ごすために帰って来た人は居ないはずですし、受け入れた日本政府もそんな計算はしていなかったでしょう。では、何が欠けていたのか?と反省する事も無いまま、農村の嫁不足を外国からの嫁取りで凌ごうとする所が増えて行き、それは地方都市にも広がっている実態が、今回の滋賀県の無残な事件が教えてくれました。

■それとは別の役所が所管する外国人労働者をどっさり入れようとする動きも有るようです。職業の専門性を保証する資格や日本語能力を条件にしたら良い、という考えも有るでしょうが、戦前から日本に(無理やりかどうかは議論が分かれますが)移り住んでいる移住者の子孫が、アイデンティティの問題で心が揺れるのに上手に対処出来なかった経験も含めて考えないと、欧米がイスラムとの付き合い方に苦悩している姿は、正に明日は我が身という事になるでしょう。国を開くには、それに相応しい覚悟と準備が無ければ、後になって、かつて欧州の帝国主義を見習って頑張った揚げ句に大失敗に終わってしまった二の舞を演じる可能性が有ります。

■問題は、抽象的な夢見がちの理想論や、時代錯誤の鎖国主義では対応できない、極めて具体的で日常的です。それを旗振り役の国が大雑把な法律論で無理に対処しようとする所に摩擦と障害が生まれます。何が同じで、何が違うのか、それは食べ物の味であり、冗談の仕来りであり、死生観です。それらを下支えしているのが、言語文化だと日本が気が付いても良い頃だと思います。確かに「言葉」は人類が発明した道具です。しかし、人間はその不思議な道具に振り回される存在でもあるのですなあ。まだまだ勉強不足です。

-------------------------------------------
■こちらのブログもよろしく
雲来末・風来末(うんらいまつふうらいまつ) テツガク的旅行記
五劫の切れ端(ごこうのきれはし)仏教の支流と源流のつまみ食い

『チベット語になった『坊っちゃん』』発売中!
------------------------------------------

まだまだ勉強不足 其の壱

2006-02-21 22:32:02 | 歴史
■「日中与党交流協議会」と銘打って、自民党の中川秀直政調会長を代表に与党訪中団が北京で初会合を開いたそうです。何とか靖国参拝問題を棚上げして中国共産党と手打ちをしようと誰かが思い立ったようですが、それはムチャというものでしょうなあ。「政治、経済、外交など幅広いテーマで意見交換」と大風呂敷を広げてはいますが、ごちゃごちゃ言わないで「商売」の話をしよう!と日本側は必死で水を向けているのは見え見えです。裏で背中を押している節操の無い財界の影が透けて見えますぞ。

■日本は、民主党の暴れん坊が変なメールのプリントアウトを振り回したばっかりに、蜂の巣をつついたような騒動ですから、中川さんが何を言って、北京政府側が何を言ったのかなど、誰も気にしちゃいません。そもそも、欲張りな歯医者達から1億円貰っても、誰も覚えていないのが自民党ですから、選挙直前に3000万円ぐらいのはした金?が何処に行ったのか突き止められるとは誰も思っていないでしょうに!「口座番号」が分かっていると連日騒いでいて、注文通りに口座が残っていて耳を揃えて3000万円の入金記録を残しておく間抜けだと思われているのなら、ホリエモンも武部さんも舐められたものです。万一、武部さんに金が流れて選挙の陣中見舞いにばら撒いた(それほどの金額ではありませんが…)としても、武部さん一人が「うっかり申告し忘れた」ということで、自民党は安泰でしょう。しかし、これがとんだ「ガセネタ」だったら民主党が半永久的に政権を奪取出来なくなりますなあ。

■そんな内輪の空騒ぎに国中の耳目を集めている場合ではないでしょう。滋賀県で起こった幼児惨殺事件は、日中関係に深く静かに影響を及ぼしているとは、北京に行った先生方は想像もしていないのでしょうが、業者が仲介する「国際結婚」と言葉の問題に事件報道は移っています。これこそ、草の根レベルの民間交流の核となるテーマですぞ!今回の事件に関して、犯人の国籍が今でも中華人民共和国である事など、北京での会合では誰も指摘しないようですなあ。波風立てない気遣いばかりしているような代表団を送り出しては行けません。選挙事務所に貼るポスターやら支援者に配る挨拶状に使う「写真」を撮影するのが目的ならば、税金(寄付金)の無駄遣いでしょう。

■日中間には、意地っ張りな総理大臣が退陣しても解決出来ない問題がいろいろと積み残されている事を、政府も自民党も公明党も、まったく知らん振りしているのが不思議ですなあ。


残留孤児ら中国帰国者が悩む医療の言葉の壁を減らそうと、財団法人「中国残留孤児援護基金」が21日までに、診察から入院までの会話や症状の細かい訴え方まで日中対訳で分かりやすく紹介した医療用語・表現集を刊行。教材として使った講座に帰国者の申し込みが殺到するなど反響を呼んでいる。永住帰国した残留孤児らは高齢化で医療のニーズが増える半面、言葉や習慣の違いから「誤診が怖い」「検査や薬の中身が分からない」と日本での治療に不安を募らせるケースが増えている。今回の本は、大阪市のボランティア斎藤裕子さんが地元日本語教室の帰国者らの悩みに応え、1993年に自費出版した医療用語集をもとに、埼玉県所沢市の「中国帰国者定着促進センター」の教員らが全面改訂した。共同通信 - 2月21日

■注意すべきは、「大阪市のボランティア」が、この命に直接関わる貴重な用語集を「自費出版」している点です。これが「定着促進センター」の仕事をボランティアが改訂に協力したというのならば、心温まる話になるかも知れません。しかし、帰国者の深刻な悩みに対応したのがボランティアであった事は記憶されねばなりませんなあ。こういう小さな、しかし重大な支援の実態が、帰国支援事業の本質的な問題を浮かび上がらせているように思えます。


第二次世界大戦後に中国に置き去りにされ、帰国後も苦しい生活を強いられたとして、東京都内の中国残留婦人と孤児計3人が1人当たり2000万円の国家賠償を求めた訴訟で、東京地裁(野山宏裁判長)は15日、「国の行為に違法性があったとまでは言えない」として請求を棄却した。一方で判決は「早期帰国と自立支援に対する政治的責務に怠慢があった」と述べ、国の政策が不十分だったと指摘した。原告側は控訴する方針。

■判決内容の順番は逆で、「怠慢だったが違法ではない」と解釈すべきでしょう。法律に則って対処したのだから文句を言うな、という事です。その裏には、貧乏な国から苦労して救い出したのだから有り難く思え、という傲慢さが隠れているような気がしますなあ。


訴えていたのは、東京都国立市の鈴木則子さん(77)と府中市の藤井武子さん(73)、西田瑠美子さん(72)。43~45年に旧満州に渡り、終戦後に中国人男性と結婚して78~88年に帰国した。国が早期に帰国させる義務と、帰国者の自立を支援する義務を怠ったか否かが争点となった。判決は、いずれについても法的義務を認めなかった。しかし、帰国政策について「極めて消極的な施策しか実施しておらず、原告らの永住帰国の時期が遅れ、国の政治的責務の懈怠(けたい)(怠慢)といえる」と指摘。支援についても「施策が十分であるとは言い難い」とした。

■冷戦時代のイデオロギー対立が障害となって満足な調査も出来なかったのは確かでしょうし、何よりも、残りたくて残ったのではなく、米国の原爆投下でヤルタ会談の密約が反故にされるのを怖れたスターリンが、中立条約を勝手に破り捨てて乱入して関東軍が敗走したから取り残されたのですから、旅客機を乗っ取って革命ごっこをやりに行ったような人ではありません。国を挙げて大キャンペーンを繰り広げ、新聞も囃し立てた満蒙開拓の後始末を誰も付けなかった歴史の犠牲者である事は否定しようがありません。

守るも攻めるも鉄(くろがね)の 其の弐

2006-02-21 11:34:18 | 外交・情勢(アジア)
■国民をスパイに仕立てて見棄てた大事件に関して、前掲の産経新聞が元公安調査庁の菅沼さんという人のコメントを掲載しています。

≪無責任、保護は大前提≫
 ▼菅沼光弘・元公安調査庁調査第二部長の話 本当の機密情報とは、非公開情報であり、それを集めることは、情報機関でない外務省ではできない。また、外交官はそのための訓練・教育を受けていない。その外交官が、この程度の民間人を使って取れる情報は大した価値はない。今回の証言が事実ならば、民間人に対し、「逮捕されたら助けるから」などと、できもしないことを言ってやらせたこと自体、無責任だ。
 
■単なる役立たずならば笑いのネタにしてもいられますが、馬のアケミボタンや人間のアケミちゃんばかりか、残留孤児二世にまで迷惑をかけるなんてトンデモない事ですぞ!でも、絶対に謝りませんからなあ、お役人は…。

  
さらに「国家のためだから」などと言って、結局助けられないと、協力者は国に裏切られたと思う。協力者を守ることは情報機関の命だ。情報機関をめぐる論議が盛んだが、公開情報を分析するだけなら情報機関はいらない。相手が知られたくない非公開の情報を取ってくるのが情報機関の仕事だ。同時に、カウンターインテリジェンスつまり防諜(ぼうちょう)も必要だ。上海総領事館の電信官が自殺した事件をみても、各国大使館で電信官の仕事をしているのは普通、外交官ではなく情報機関の人間だ。まして、電信官の立場の人間がひとりで中国のカラオケに出かけることなど、他国では考えられない。その意味で、外務省は、情報を集めるのも守るのも組織としてまったくできていない。外務省は完全に弱体化しており、その立て直しこそ、焦眉(しょうび)の急だ。
産経新聞 - 2月21日

■「素人だ!」ちばっさり切り捨てるコメントですが、本人達が自分達の事を「外交の専門家」だと信じ込んでいるのですから困ったものです。日本の外交官試験(今は上級国家公務員試験)に合格したて、外国の外務官僚と接触しているとうだけの事で、何の担保も無い裸同然の戦争放棄の憲法を実践しているだけの国の「外交」は、税金のばら撒きと贅沢なパーティを開催する事ぐらいしか仕事は無いのではないでしょうか?国民が拉致されても、なおざりに「返して下さい」と言いに行くだけの子供のお使いみたいな仕事しかせずに、後先考えないで相手のご機嫌取りばかり並べた『宣言文』なんぞはせっせと書くような人達ですからなあ。揚げ句の果てに、国民が臨んでもいない国連の常任理事国になりたいという省の悲願を成就しようと、とんだ赤っ恥を世界に晒しても「国益」を平然と口にしていられる神経は大したものですなあ。

■こんな外務省を見くびるな!と言う方が無理というものでしょう。特に赴任国の「国益」を自国の「国益」よりも優先するような友好親善に人生を懸けているような在外公館員が大きな顔をしていれば、国境など無いも同然なのも不思議ではありませんなあ。


東シナ海の「情報戦」が激化している。中国は自衛隊の活動監視などで東シナ海に航空機と監視船を頻繁に出動させたことを公表したが、防衛庁によると、日本の防空識別圏に侵入した中国機による電波収集活動はこの1年間、急増。中国側による公表は「偵察活動を既成事実化する戦略」(防衛庁幹部)とみられる。「情報戦」に有効な対抗措置が取れない日本の領空に近づく布石ともいえそうだ。

■いろいろ無理な注文にも応じて付き合っている米国にさえも裏切られそうな雲行きで、日米間に隙間風が吹き始めると、列島の西から熱風が吹き込んで隙間を押し広げようとするのは外交の常套手段です。日本の身から出たサビだと言われても仕方が有りませんが、外交交渉でさっさと処理できるはずの小さな小競り合いを、外務省の能力不足で大きな軍事衝突にされては堪りませんぞ!


中国国家海洋局は昨年の「中国海洋行政執法公報」を公表。その中で一昨年7月から昨年6月にかけ、海洋監視航空機を146回、監視船も18回、日本が排他的経済水域(EEZ)の境界線と主張する東シナ海の日中中間線周辺に出動させたと明らかにした。国家海洋局と中国空軍などの所属区分は明確ではないが、公報で挙げた海洋監視航空機には、本土防衛のため領空より広く設けられた日本の防空識別圏に侵入したとして、航空自衛隊の戦闘機が緊急発進(スクランブル)で対処したものが多数含まれるとみられる。防衛庁によると、中国機に対する空自のスクランブルは、平成14年度はゼロ、15年度は2回、16年度には13回だった。だが、今年度は上半期だけで30回と急増し、下半期も増加傾向は続いている。

■日本の政府は、在北京の日本大使館に抗議させているのでしょうか?抗議するように命じてもその任に堪えられない大使館ならば、大幅な人事異動は発令して日本が本気で怒っているというメッセージを伝えねばなりません。なあなあの茶飲み話で危険な国境問題を呑気に話していると、不測の事態に対応できなくなるかも知れませんからなあ。


中国の偵察機は東シナ海のガス田周辺を飛行し、自衛隊の航空機や基地が出すレーダーの周波数などの電子情報を収集している。この情報を分析し、戦闘機で攻撃する際、日本の防空レーダーを妨害電波で無力化する狙いがある。中国の偵察活動について、「自衛隊の対処を見極めながら、徐々に行動範囲を広げてくる」(制服組幹部)との分析がある。最も中国寄りに設定された日本の防空識別圏に入り、次に日中中間線を越えるという既成事実を積み重ねた上で、最後に日本領空に近づくというものだ。そのときには、自衛隊の電波はすっかり収集されている可能性も高く、「スクランブルだけでは偵察活動への抑止にならない」(政府筋)との危機感も強い。

■ソ連から払い下げられていたポンコツ兵器を大急ぎで最新型に交換中の人民解放軍は、「脅威だ!脅威だ!」と騒ぐほどの実力ではないようですが、持っている兵器がボロでも、それをフルに活用する智恵を働かせるなら、日本は警戒を怠るべきではありません。靖国問題を徹底的に利用する外交部と、情報収集活動を続けている人民解放軍とは足並み揃えて日本に対して陰に陽に圧力を加えていますなあ。昔のソ連軍相手のスクランブルが終わったら、今度は南の空が大忙し、航空自衛隊の皆さんには御苦労をお掛けいたします。どうか、ブッツケられたりしないように、ご注意なさって下さい。


今回の中国国家海洋局の公表も、日中両国が対立しているガス田での中国側の権益のために、航空機や船舶を出動させたという“正当性”を強調する意味合いが強い。日本側が黙認すれば、中国側はこの主張を盾に、偵察活動をさらに活発化させてくるとみられる。また、日本政府が試掘権を与えた帝国石油がガス田で実際に試掘を始めれば、中国が航空機や艦艇で妨害に出てくる恐れもある。「日本政府として経済権益をどう守るか対処方針を示すべきで、自衛隊がEEZで活動するための法整備も不可欠」(同)だ。米政府は「4年ごとの国防計画見直し」(QDR)の中で、中国の軍事力の近代化について、電波・電子情報を収集する電子戦を例示し、「大規模な投資を継続する可能性が高い」との警戒感を示している。
産経新聞 - 2月21日

■読売新聞の小さなベタ記事に、台風で非難していた韓国の老夫婦が竹島の「住居」に戻ったという話が載っていましたが、領土領海は常に広げる圧力を維持していないと、凹まされる事になりますから、犬や猫を見習ってコマメに「マーキング」行動を執っていなければなりません。軍隊は万一を考えて、準備万端整えておかねばなりませんから、実力情報収集は義務になります。これ事態が「脅威」にはなりませんが、日本が指を咥えて見ているだけだとしたら、こは「脅威」ですぞ!総理大臣は意地になって「選挙公約」の靖国参拝をしていれば良いというものではありません。ちゃんと、外務省と防衛庁のバランスを取った支持をてきぱきと出してもらわないと、あっちでぺこぺこ、こっちでびくびく、そんな繰り返しでは東アジアの緊張は高まるばかりですぞ!

-------------------------------------------
■こちらのブログもよろしく
雲来末・風来末(うんらいまつふうらいまつ) テツガク的旅行記
五劫の切れ端(ごこうのきれはし)仏教の支流と源流のつまみ食い

『チベット語になった『坊っちゃん』』発売中!
------------------------------------------

守るも攻めるも鉄(くろがね)の 其の壱

2006-02-21 11:33:25 | 外交・情勢(アジア)
■無能だの無駄だのと悪口を言われ放題の日本国外務省は、在外邦人の保護もしないと頼りにされず、妙なお手盛り手当てを発明する能力ばかりを磨いているのを叩かれていましたが、とうとう民間人の犠牲者が出たそうです。役に立たないばかりか、国民に害を及ぼすとは、何たることでしょう!

中国で国家機密を入手したとして、日本人男性が1996年に逮捕され、2003年まで約7年間、北京の刑務所で服役したことがわかった。男性は産経新聞の取材に、「日本の外務省職員から情報収集を依頼され、逮捕されたら外交ルートで助けると言われたが、実際は助けてもらえず、帰国後も外務省からは謝罪のひと言もない」などと話した。証言が事実なら、民間人を利用し機密情報を集めさせたこと自体、外交活動の範囲を逸脱している。邦人保護が行われなかったことに加え、先の上海総領事館員自殺事件同様、情報活動をめぐる外務省の対応のまずさが改めて問われそうだ。

■お役人様は外交特権と「天下り」で二重三重に保護されて、民間人は使い捨て、嗚呼、外務省!こんな国を誰が愛するのでしょう?陰に回ってこそこそと、莫大な裏ガネを集めたり高級ワインを買い貯めたり、どうでも良い国際会議や海外出張に税金を使って、在外邦人の保護など考えもしない。嗚呼、外務省。外務省に利用されて見棄てられた人は残留孤児の二世だと言います。残留孤児の問題は旧厚生省が担当していましたが、日中の国交が回復してからも随分と「調査」にもたついた印象が強い事業でしたなあ。受け容れ体制もお寒い限りで、言葉や就職の問題に関する支援も怠っていたツケが今でも解消されずに残っています。旧厚生省や旧文部省の担当分野だから自分達には責任は無い!と言い切って良い問題ではないでしょう。あまつさえ、碌な支援もしないくせに、密告監視国家での情報収集を命じるとは、何と言う人命軽視!まさか、チャイナ・スクールの官僚群は、相手国の防諜体制の厳しさを知らなかったはずは無いのですから、昔の赤紙徴兵と同じ感覚が外務省には残ってるのではないでしょうか?


服役していたのは、東京都内に住む会社経営、原博文氏(40)。原氏は91年に、残留孤児だった母親ら家族と日本に帰国。都内で情報紙を発行するなどしていた。産経新聞が入手した中国の裁判所の判決文によると、原氏は96年6月、中国の秘密情報を所持していた容疑で中国当局に逮捕され、翌年、国家秘密探知罪で懲役8年の実刑判決を受けた。彼の協力者とされた中国の公務員など数人も懲役5年から同7年の判決を受けた。

■帰国後に情報紙を発行していれば、その全ては東京の中国大使館に把握されていたでしょうし、顔も氏名もパスポート番号も知られていたと考えるべきでしょう。ちょっとした印刷物や写真でも、国家の秘密情報と認定されたら無事では済まない事も常識です。判定基準は完全に共産党の独占物ですから、容疑がかけられたら御仕舞いです。「怪しい者は全員有罪」で、常に最悪の場合を想定して裁判は進められる場合が多いようですから、拘束されたら大変です。ですから、調査を依頼した外務省がバック・アップするのなら、拘束される前でなければ意味は無いはずです。


判決文によると、原氏は国営新華社通信が内部で発行する秘密資料の「経済決策(方針)情報」や「内部参考」「国際内参」などの資料や「内部参考音像版」を複写したテープなどを得ていたという。原氏によると、最初に外務省国際情報局のキャリア官僚から連絡があったのは94年。当初は意見交換だけだったが、やがて情報提供を依頼された。仕事で中国に出張した機会などを利用し、中国国内で情報を集め、十数回、外務省職員に資料を渡し、謝礼として、毎回10万から20万円を受け取ったという。この間、原氏が中国当局による摘発を恐れ、外務省への協力をやめたいと申し入れたが、外務省職員からは、「国益のためです」「仮に中国に逮捕されれば、外交ルートで救出する」などと言われ、情報収集を続けるよう説得された。しかし、原氏が実際に逮捕され、刑務所に入った後は、北京大使館員が面会に来ただけだったという。

■北朝鮮に国民が拉致されても四半世紀も相手のトンデモ言い分を丸呑みしていた外務省ですから、国民の保護に努力しないと聞いても大して驚きませんが、「国益」だの「救出」などと平気で言えるキャリアが存在している事は大きな驚きを感じますなあ。自分達が「国益」をないがしろにしているくせに、国民には「国益」のために命を懸けさせるのか!?


原氏が刑期を終え、帰国した後、ようやく探しあてたかつての外務省の担当者からは、「終わったことだ」「生活が苦しいなら、生活保護を申請すればどうだ」などと言われたという。原氏は現在、再び情報紙を発行する会社を立ち上げ、中国ビジネスに関するコンサルタントを行っている。今回、帰国から3年がたって取材に応じた理由について、原氏は上海総領事館の電信官自殺事件を聞いたのがきっかけとしたうえで、「外交官は、私が逮捕されると厄介になり、簡単に切り捨てた。事なかれ主義の外務省によって隠されてしまった。上海の事件も、私の事件と本質は同じだと感じた」と話している。

■上海の恥ずかしい事件に関しては週刊文春vs外務省シリーズで書きましたが、マスコミに嗅ぎ付けられても外務省は逃げ回り、1ヶ月も経ってから新聞の小さなベタ記事になるような発表を小出しにして報道内容を全面的に認めました。それにしても「生活保護」を口にするとは、残留孤児の扱い方の非情さがどこから出て来たのかが良く分かる話ですなあ。役人でなければ人ではないのか?外務官僚は、自爆攻撃を命令した昔の司令官のような絶対の権力を持っているのか?


この件に関して、外務省は20日、産経新聞の取材に対し、「特定の個人に関する事柄については答えられない。外務省の情報収集活動の内容などについて、具体的に述べることは差し控えたい」と、文書で回答している。……産経新聞 - 2月21日

■毎度お馴染みの言い訳ですが、佐藤優さんや外務省を見限った元外交官の告発本で、「情報収集活動」の御粗末さは暴露されていますし、一番熱心に何をやっているのかについては、帰って来たムネオ議員からの質問書の連発に隠し切れなくなって自民党議員に泣きついている始末です。上海事件でも「遺族」をダシに使ってしどろもどろの誤魔化しコメントを並べて逃げ回り、結局は『週刊文春』が報じた通りのアホでマヌケな外交官の姿が炙り出されたのでしたなあ。今回は、「死人に口無し」というわけには行きませんぞ!
(其の弐に続きます)