旅限無(りょげむ)

歴史・外交・政治・書評・日記・映画

朝日新聞書評

2006-02-05 11:58:08 | 著書・講演会
■朝日新聞書評

チベット語になった『坊っちゃん』 [著]中村吉広
[掲載]2006年02月05日
[評者]多賀幹子

 著者はチベット仏教の研究を進めるうちに、中国・青海省のチャプチャにある青海民族師範高等専科学校に留学しチベット語を学んだ。やがて、逆にチベットの学生に日本語を教えることになる。

 日本から学校に寄贈されていた書籍の中より、夏目漱石の『坊っちゃん』を選んで翻訳させた。チベット語文法と日本語文法の共通点を利用した著者の教授法は、チベット語教育を高めることに通じると、漢族への同化を進める中国共産党サイドから警戒される。しかし著者は「チベット語が秘める可能性を広げ、生徒の能力を伸ばしたい」と孤軍奮闘を続けたのだった。

 漱石が日本語に埋め込んだウイットに、学生は翻訳の最中に大笑いし即興芝居まで演じる。生き生きとした授業の様子は、まるで奇跡を見るようで感動を呼ぶ。情熱にあふれた講師の姿勢と、それを見事に受け止めた生徒たちは、共に称賛に値するのではないか。

-------------------------------------------
■こちらのブログもよろしく
雲来末・風来末(うんらいまつふうらいまつ) テツガク的旅行記
五劫の切れ端(ごこうのきれはし)仏教の支流と源流のつまみ食い

『チベット語になった『坊っちゃん』』発売中!
------------------------------------------

世界の警官は大忙し 其の参

2006-02-05 00:41:55 | 外交・世界情勢全般
■米国が想定している「長い戦争」は、どうやら有事と平時の区別など無いようです。こういう場合、「憲法9条」はどんな意味を持つのでしょう?

また、中国が電子・サイバー攻撃など通常戦力とは異質の分野に力を入れていると指摘し、「伝統的な米軍の優位を帳消しにしかねない、混乱型の軍事技術」への強い危機感をのぞかせた。QDRの内容を記者説明したライアン・ヘンリー国防副次官は、「中国が持つべき軍事力は、純然たる国防に十分な能力」と述べ、東アジアや太平洋地域への影響力拡大をけん制した。事実上、中国を念頭に置いた対抗策として、次世代長距離爆撃機を約20年前倒しし、2018年に配備する計画を正式に盛り込んだ。空母については現在の12隻を11隻に削減する一方、太平洋については少なくとも現状の6隻を維持する。削減は大西洋に配備されている空母になる見通しで、太平洋への戦力シフトが明確に打ち出された。また、潜水艦の6割も太平洋に配備する。

■誰かが「空母を中心とした機動部隊は時代遅れだ!」と言ったとか言わないとか、日本は無駄遣いせずにシラバックレていた分、防衛費が節約できた、などという呑気な話も有ったようですが、実際に東アジアが有事となれば、航空母艦が決定力を持つ、と米軍は考えているのですなあ。日本は空母を持てても持たない、チャイナは持てないくせに持とうとする。何でも、航空母艦の使用と運用は、各部署の寸分違わぬ息の合ったパフォーマンスが必要とかで、何処かから中古の空母を買って来たから使えるような代物ではないでそうですなあ。でも、かつて太平洋の西半分とインド洋の東半分を暴れ回った連合艦隊の機動部隊が無くなってから、もう60年、密かに米軍の空母で練習でもさせてもらっていないと、急には空母を使えないでしょうなあ。


一方、対テロ戦争については、「長い戦争」(ロング・ウオー)と位置づけ、特殊部隊の15%増や無人機の飛行隊創設、工作員による情報収集活動の強化などを通じて、テロを事前に封じ込める機動性の高い軍への変革をうたった。また、外国の言語や文化に通じる必要性を強調し、特にアラビア語、ペルシャ語、中国語要員を育成する方針を打ち出した。読売新聞 - 2月4日

■旅限無としましては、最後の外国文化の理解のために「日本語」が含まれていないという一点に、非常なる違和感を持ちますぞ。既に海上自衛隊の幹部は英語の達人を多数抱えているそうですから、その内、日本も「米語圏」に入ると思っているのでしょうか?そろそろ、意味も分からず聞き取れもしない変なエイゴを混ぜた若者向け流行歌は廃止して見せた方が良いのではないでしょうか?

ロイター通信によると、米民主党のリード上院院内総務ら同党の有力上院議員4人は3日、北朝鮮が「12個の核兵器を保有している可能性がある」として、ブッシュ大統領に北朝鮮の核能力に関する情報を公開するよう求める書簡を送った。書簡は大統領が先月31日の一般教書演説で、北朝鮮の核問題に一切言及しなかったことを批判。「12個」の根拠には触れていないが、大統領が2002年の同演説で北朝鮮を「悪の枢軸」と非難した時よりも、米国への脅威は増大していると警鐘を鳴らした。さらに北朝鮮がミサイルに核弾頭を搭載する能力を獲得したとの専門家の見方を紹介。日本、韓国にも脅威を与えているとして、核問題の解決に真剣に取り組むよう求めている。
共同通信 - 2月4日

■食糧もエネルギーも圧倒的に不足していると言われながら、核弾頭を持つ大陸間弾道弾を完成させている!と噂が堪えない北朝鮮は、とても厄介な国です。不自然な湯気を上げてみたり、不恰好な人工衛星を打ち上げた!と自画自賛する国ですから、無さそうで有りそうな「核兵器」が最後の切り札となるでしょう。そんな季節はずれのお化けみたいな物が外交交渉のテーブルに載ってしまったら、生身の人間がさらわれた拉致問題は吹っ飛んでしまいますぞ。米国は日朝交渉を成功させたいとも思っていないし、大失敗にするには時間を稼いでおきたいだけなのではないでしょうか?


政権に影響力を持つロシアのシンクタンク「外交国防政策評議会」のセルゲイ・カラガノフ理事長は3日、自分を含め「大半の露専門家」が、イランの核兵器開発の意図を見抜いていると明言、注目を集めた。インターファクス通信が伝えた。カラガノフ氏は「大半の露専門家を含め、国際社会で、イランの核計画が純粋に平和目的だと信じる者など、ほとんどいない」と発言。その論拠として、ウラン濃縮をロシア領内で行うことを見込む露提案に関する交渉をイランが引き延ばしている点を挙げた。さらに、イランが核兵器開発を強行すれば、国際圧力に直面し、正常な経済発展は不可能になる、との見方を示した。この発言は、イランのアフマディネジャド大統領が同日、自国内でのウラン濃縮に固執する姿勢を表明したことを受けたもの。読売新聞 - 2月4日

■ソ連が崩壊しても、軍と諜報機関は維持しているロシアのことですから、イランに恩を売って自分の「柔らかい下腹」に丈夫な腹巻を付けたいのでしょうが、こんなにあけっぴろげに「原爆持つぞ!」という国が現われる事を国際連合は想定していなかったのですから、国連に期待していると、またまた大恥をかきますぞ!「有るのか無いのか」この灰色の混ぜ具合が難しいのでしょうが、イランと北朝鮮、さて、どちらの灰色が黒に近いのでしょう?

-------------------------------------------
■こちらのブログもよろしく
雲来末・風来末(うんらいまつふうらいまつ) テツガク的旅行記
五劫の切れ端(ごこうのきれはし)仏教の支流と源流のつまみ食い

『チベット語になった『坊っちゃん』』発売中!
------------------------------------------

世界の警官は大忙し 其の弐

2006-02-05 00:41:03 | 外交・世界情勢全般
■米軍が勝手に自分の軍隊を「再編成」するのは自由でしょうが、そこに日本が当たり前のように組み込まれるのは困りますぞ。

「米国は長期に及ぶであろう戦争の真っただ中にいる」とし、テロとの戦いが長期にわたるとの見通しを示した。さらに、「報告の実現は、同盟の維持と状況にあわせた変化を図ることによってのみ可能」としたうえで、北大西洋条約機構(NATO)、オーストラリア、日本、韓国が新たな脅威に対処してきたと指摘した。

■日本の選挙民は、こんな覚悟を固める機会を持ちませんでしたぞ!日本は「長期」に亘る戦争に何時から参加したんでしょう?武部さんだけかと思ったら、日本自体が「偉大なるイエスマン」になっていたようです。別に凶暴な「反米」闘争を再現する必要は認めませんが、民主国家であるはずの日本で、一度として「外交問題」が選挙の争点になった事など無かった!これは重大な事ですぞ。今も、「非戦闘地域」に自衛隊を派遣して、土木工事やら飛行機宅急便の仕事をさせられていますが、それは「長い戦い」の助っ人とは誰も思っていないじゃないですか!

今回の見直しは、米中枢同時テロがあった2001年9月直後の発表以来、4年半ぶり。在日米軍の再編だけでなく、今後の日本の安全保障論議にも影響を与えることになりそうだ。QDRは6日に議会に提出される。

■911同時多発テロが起こってから、犠牲者の国籍や人種、宗教の区別も無く、何が何やら分からないうちに「対テロ」戦争が始まってしまいました。犠牲者の悼み方も復讐の観念も、それぞれ違っている国からニューヨークに来ていた人達が、まとめて憎むべきテロの被害者とされて、問答無用の戦争に参加しなければならなくなったのは、少なくとも「日本には日本の死者に対する弔いと歴史的事件への対処法が有る」と言える為政者が居なかった事に大きな理由が有るでしょうなあ。米国がこれ幸いに発動した「新しい戦争」のプランはその全貌を表わしつつありますが、既に日本が参加している事になっているという点が解せません。


≪米国防計画見直し 日本の関連部分≫
 1、過去4年間、NATOや、米国とオーストラリア、日本、韓国などとの2国間同盟は、国際安全保障上の新たな脅威に直面する中で、その活力と意義を維持するため、適応してきた。これらの同盟は自由民主主義国家の戦略的団結を明確にするとともに、共有の価値を促進し、世界規模での軍事・安保上の負担分担を容易にする。
 1、太平洋地域では、日本、豪州、韓国などとの同盟が地域での2国間、多国間関与を促進し、安全保障上の共通の脅威に対処するための協調行動を促す。
 1、ミサイル防衛での国際協力拡大は成功を収めている。例えば、米国と日本は、先端海上配備型迎撃ミサイルSM3の共同開発を通じた協力に原則合意した。産経新聞 - 2月4日

■日本の迎撃ミサイル装備は、北朝鮮の変なミサイルを意識しているのか、グローバル・米国・スタンダードの下請けとして「対テロ戦争」の一部を担うために進めているのか?国会で、一度も議論が行なわれなかったのではないでしょうか?「平和ボケ」が議会に蔓延すると、戦争を予防する智慧が枯渇するのでしょうなあ。「憲法9条さえあれば…」などと言っていた政党が間も無く消滅するのは仕方が有りませんが、政権与党にしたところで、こんな重大事を公に議論しないで、歴代総理の中で最も「説明能力」に欠けている総理大臣が奇妙な人気を博している間に、どんどん進めてしまって良いのでしょうか?


…QDRは、急速な軍拡を続ける中国を、「米国にとって軍事的に最大の潜在的競争国」と位置づけ、「将来、(中国などの)新興国が敵対する道を取る危険に対し、米国と同盟国は防御措置をとらねばならない」と警鐘を鳴らしている。前回のQDRでは中国を脅威として名指しするのを避けており、米政府が中国の急速な台頭に警戒感を募らせていることを明確にした。今回のQDRは、米同時テロ直後の2001年10月に公表された前回報告に続くもので、イラクとアフガニスタンでの戦争を反映した初の見直しとなった。……米軍がかかえる四つの重点課題として、
〈1〉テロ・ネットワークの撃破
〈2〉本土防衛
〈3〉戦略的な岐路にある国への対処
〈4〉大量破壊兵器の取得・使用阻止――を挙げた。
〈3〉の岐路にある国のうちでも、「21世紀の国際安全保障環境を決定する国」として中国とインド、ロシアを挙げた。最大の紙数をさいた中国については、「軍備、ことに国境を越えて軍事力を行使する戦略兵器・能力に大きな投資を続けている」と断じた上で、「世界の国々は、中国の(軍拡の)動機や意思決定についてほとんど知らない」と、その「秘密体質」を批判した。

■こうした物騒な分析に対して、日本政府からも軍事研究家からも声が上がってはいないようです。「中国・インド・ロシア」とずばり並べられてしまったら、日本の外交はどうなるのでしょう?「皆と仲良く」などと寝ぼけていると、トンデモない事になりますぞ!実に奇妙な高支持率を維持している小泉総理の口から、一度も有意義な外交政策を聞いた覚えが無いものですから、こんな文書を渡されて、「はい、はい」と受け取った外務省が変な作文をしたら、誰が止めるのでしょう?(其の参に続きます)

世界の警官は大忙し 其の壱

2006-02-05 00:40:01 | 外交・世界情勢全般

■日朝協議が再開されましたが、ほとんどの日本人は「どうせ、何も決まらないだろう」と期待もせずにニュースを聞き流している事でしょう。拉致問題にも多少の同情を示すようになった米国ですが、あの大きな国に住む人々がこぞって日本の肩を持ってくれるなどと期待してはいけません。米国の世界戦略にとっては、北朝鮮と北京政府は一体として扱われていると思われます。妙に中国との仲良しぶりを演出するような動きが見えるワシントンですが、案外、北朝鮮を見棄てさせられるかどうか、「離間の計」を試しているかも知れません。何しろ、「今のアメリカは…」などと見て来たように尤もらしいことを書いたり喋ったりして商売しおている「親米派」の日本人でも、民主党と仲が良いのか、共和党と親密なのかによって言う事は違いますし、情報源が国防省なのか国務省なのかでまったく話が違って来るのですからなあ。

■相当に怪しい選挙結果によって大統領に就任したブッシュさんなのですから、本当は民主党のゴアさんが大統領だったんじゃないの?などと政治好きは言いますが、世界の「警察」を自認しない政権が出来る可能性は限りなくゼロなのですから、世界一の在留米軍を持っている日本は、軍の動きを注視しなければなりません。米軍の「再編成」というのは、在留軍が帰るという話とはまったく違います。素人目にも、米軍が占有してる土地は広過ぎて余っているのは明らかなのに、せっかく手に入れた利権ですから、ちょっとやそっとの嫌がらせ運動ぐらいで出ては行きません。実際に、「拉致」などという映画の題材にしても陳腐過ぎて手に負えないような間抜けな犯罪を許したばかりか、「相手が怒っているから」というユニークな解釈で被害者を30年も見棄てていた日本ですから、いざとなったら親分のアメリカに頼らねばなりません。

■巨大な駐留基地を抱え込んだままで、日本が朝鮮戦争で裏から協力し、その後は表だって経済侵略をした!と怒った米国でしたが、連合艦隊も機動部隊も新型零戦も持っていない日本でしたから、本気で怒りはしませんでした。ただ、大金を貯め込んだ事がバレた時にはバブルを仕掛けて始末を付けましたが、相手が北京政府となれば、最悪の軍事衝突を織り込んで外交政策を組み上げねばなりません。それは、民主党政権であろうと共和党政権であろうと違いは有りません。


米国防総省は3日、「4年ごとの国防計画見直し」(QDR)を発表。今後20年間、米軍が取り組むべき優先分野として、
(1)テロリスト・ネットワークの打倒
(2)本土防衛
(3)中国など戦略的分岐点にいる国への対処
(4)テロ組織などの大量破壊兵器取得の防止-を挙げた。

■落ち着いて良く読めば、こんな大それた事を米国が単独で実現出来るわけが有りません。この列挙された順番が実に興味深いですなあ。(4)がそもそもの頭痛のタネでしょう?「安くて環境に優しい」等とムチャな宣伝を復活させている原子力発電所のプラントほど、利幅の大きな「輸出品」は無いのですから、少々な物騒な国であろうと、「平和目的」の発電事業の援助という美名で金儲けは思うがままです。電力会社、大手建設会社、セメント会社、商社などの出身者が、尤もらしい顔してマスコミに登場する時には、ご用心、ご用心。


日本など同盟国との連携の重要性も指摘している。今回のQDRでは、中国に対し、アジア太平洋地域で建設的な役割を果たすことを求める一方で、「中国の軍事力強化の速度と規模は、すでに地域の軍事バランスを危険にさらしている」と、警戒感を示した。中国の海軍力増強を念頭に、太平洋地域に少なくとも6つの空母戦闘群と潜水艦の6割を配置する方針を打ち出し、同地域での戦力増強を鮮明にした。旧ソ連のような脅威から、テロなど予測しづらい事態に対応するシフトに転換、そのために特殊部隊の強化を図るとした。北朝鮮やイランなどの敵対国家やテロ組織が大量破壊兵器の獲得を目指している事態は、危険が多いとして、外交や経済的な手段だけでなく、軍事力行使の可能性も明記した。

■チェチェン問題で苦しむロシアも、ウイグル問題を抱える北京政府も、定義不能の「反テロ戦争」には大賛成です。カスピ海沿岸の利権は諦めてイラクの石油だけで満足しようと算盤を弾いた米国は、ロシアと仲良しになり、アフガニスタン包囲作戦に必要なチャイナの中華思想とも妥協しました。大海軍国の米国は、チャイナの人民解放軍を図体だけ大きな陸軍のままに留めて置きたいのでしょう。ちらちらと「太平洋」に色気を出す人民解放軍には苛立ちます。日本の海上自衛隊を自国の所属部隊と考えている米軍は、日本側の装備を計算に入れた「再編成」を進めているのでしょうなあ。
(其の弐に続きます)