■シルミド(実尾島)事件についてのドキュメンタリーをNHK総合とBSで放送したばかりで、特殊工作員の苛烈な運命と最後の悲劇に目が釘付けになりました。韓国映画でも話題とったし関連の書籍が何種類か出版されましたが、観たり読んだりする機会が無かったので、生き残っている関係者達の証言は衝撃的なものが多かったと思います。日本が高度成長をひた走っていた頃に、朝鮮戦争の硝煙の臭いが消えていなかった朝鮮半島では、緊張が高まり互いの元首を標的にする謀略が展開されたという史実を検証した番組でした。しかし、それは決して終わってしまった昔話などではなく、玄界灘の向こう側で起こっている他人事とも言っていられないのだと、やっと日本人も気付きました。
■どうやら日本人の拉致事件が起き始めたのは、1977年9月19日の久米裕さんが消えた「宇出津(うしつ)事件」が最初ではなく、1970年8月8日に、北九州市八幡東区の路面電車の停留所で姿を消した加藤久美子さんの事件が最初かも知れないのだそうです。民間団体の「特定失踪者問題調査会」は252人のリストを作成しているそうですが、その内、34人は北朝鮮による拉致被害者である可能性が高いと言われていますが、今年の1月にも1987年に山口市で失跡した洋服店店員の西村京子さんが新たにリストに加えられたように、事件の全貌はまだ見えません。しかし、1970年に最初の拉致犯罪が行なわれたとすると、見事に話の辻褄が合いそうですぞ。
■1968年1月、北朝鮮のゲリラ31人が韓国の朴正熙大統領を暗殺しようと官邸に接近、1人が逃亡し、29人は射殺、1人逮捕。韓国政府は報復を決意して北のゲリラと同数の31人を特殊工作員として訓練を開始。68年4月に編成されたことから、684部隊と呼ばれた彼等は仁川沖の無人島シルミドで厳しい訓練を続けた。
しかし、ベトナム戦争が泥沼化し始めていた米国は、朝鮮半島での「第二次朝鮮戦争」の勃発は望んでおらず、韓国による報復を思い止まらせる。秘密裏に訓練された工作部隊は、危険な「秘密」として歴史の闇に葬られる運命を予感する。全員の抹殺の命令が出ていたのかどうかは不明な点が有るようですが、部隊は警備兵と教官を殺害して島を脱走する事件が起こったのが、1971年8月。隊員は船を奪って海を渡りバスを乗っ取って大統領に直訴するため青瓦台を目指したが、ソウル市内の永登浦で軍隊に包囲されて20人が死亡、4人が捕われ正規の軍人でもないのに軍法会議で死刑に処せられる。
■こうした報復テロ作戦が計画されているのを北朝鮮側が知っていたかどうかは、きっと現体制が崩壊するまで分からないでしょう。しかし、朴大統領の暗殺に失敗した後、ヴェトナム戦争の進み具合と米韓関係を見澄まして平和攻勢に出る一方で、しっかり「二の矢」を用意していた北朝鮮は、正面からの攻撃を諦めて「日本人によるテロ」作戦を始めていたのでしょう。そして、シルミド事件で肝を潰してから、本格的な「日本人テロ部隊」を創設しようとしたのではないでしょうか?よど号事件が起こったのが1970年の3月31日というのも、無気味なタイミングだった事になりますなあ。それにしても、それから30年、よくぞ日本のマスコミも政府も騙され続けたものです。
拉致被害者の地村保志さん(50)夫妻を拉致したとされる北朝鮮の元工作員、辛光洙(シンガンス)容疑者(76)=旅券法違反容疑で国際手配=が、招待所で地村さんに自ら拉致の実行を認めていたことが分かった。蓮池薫さん(48)夫妻を拉致したとされる朴(パク)を名乗る元工作員も招待所で蓮池さんらの監視役だったことも新たに判明。拉致が実行から被害者の教育や監視まで、限られた人数で組織的に行われていた実態が浮かんだ。
■日朝間の協議が再開される直前になって、ぽろぽろと新しい情報が発表されるというのは楽しくありませんが、少しでも真相が明らかになるのは喜ぶべきでしょう。
警察当局や関係者らに地村さんや蓮池さんが話した。それによると、地村さん夫妻は78年7月に拉致された直後、北朝鮮の招待所で、辛容疑者から「自分が拉致した。組織の指揮で動いた」などの説明を受けた。夫妻は、79年の結婚まで別々の招待所に入れられたが、富貴恵さん(50)はその間、辛容疑者から朝鮮語を学んだと話していることも判明している。一方、地村保志さんは、同時期に拉致された蓮池薫さんと同じ招待所に入れられた。その際、2人の監視役だったのが、蓮池さん夫妻を拉致したとされる「朴」だという。
■こうした具体的な情報を一切公言出来ずに、じっと耐えて来た被害者の皆さんは大変な心労だった事でしょう。外交の切り札や隠しダマにする情報操作なのでしょうが、折角、それを提供しても、下手くそな使い方しかして貰えないのは、実に悔しい思いだったでしょうなあ。
拉致被害者の原敕晁(ただあき)さん拉致に絡み手配されている辛容疑者は、横田めぐみさん拉致や、曽我ひとみさん(46)と横田さんの教育係だった疑いのあることも分かっている。また、「朴」は、拉致された疑いのある北海道出身の小住健蔵さんになりすまして旅券を取得するなどしたとして、警視庁が85年に旅券法違反容疑で手配した経緯がある。毎日新聞 - 2月3日
■こうして、間の無く再会される会議の目玉が「シン・ガンス」と「朴」らしい事が分かります。
北朝鮮による大阪の原敕晁さん=失跡当時(43)=拉致に絡み国際手配されている工作員辛光洙容疑者(76)が韓国捜査当局の調べに、「金正日(現総書記)から直接指示された」と供述していたことが3日、分かった。韓国の情報機関国家安全企画部(現国家情報院)の元捜査員が同日、取材に対し、事実関係を認めた。同部の当時の資料にも同様の内容が記載されていることが判明した。
時事通信 - 2月3日
■日本の菅直人さんや土井たか子さん等が、韓国で逮捕されて死刑判決を受けていたシンガンスのために、熱心な減刑助命運動をして下さったおかげで、無事に北朝鮮に帰った時には、大きな勲章を貰って英雄と讃えられていたはずです。しかし、恩赦との交換条件だったのか、単に拷問で音を上げただけなのか、こんな重大な証言をしていたとは、菅さんや土井さんは「もっと早く教えてくれたら、恥をかかずに済んだのに!」と怒っているでしょうなあ。まさかとは思いますが、日本・韓国・北朝鮮の間で、「シンガンス」の首一つで、全ての拉致問題に関する懸案事項はチャラにしようなどと話が付いているのではありますまいな!
米国のペース統合参謀本部副議長は、米韓の軍は北朝鮮軍を屈服させることができるとの見方を示した。現在韓国では、約30万人の駐留米軍が69万人の韓国軍と協力している。一方北朝鮮は、数百万人規模の軍を持ち、その大半が南北国境の非武装地帯付近に駐屯している。副議長は記者団に「われわれには完全に、北朝鮮からのあらゆる攻撃を阻止する能力があり、それを維持していく」と語った。また、潜在的な敵がどのように軍事力を行使しようとしているかに加え、軍の能力も注視していると述べた。ロイター - 2月3日
■横田めぐみさんのドキュメント映画が注目され、こうして後衛を固めてくれる発言が米国から出ているのも偶然ではないでしょう。早く国交正常化交渉を本格的に始めたくて仕方がないのは、決して日本側ではない、この一点だけは忘れてはなりませんぞ!
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■どうやら日本人の拉致事件が起き始めたのは、1977年9月19日の久米裕さんが消えた「宇出津(うしつ)事件」が最初ではなく、1970年8月8日に、北九州市八幡東区の路面電車の停留所で姿を消した加藤久美子さんの事件が最初かも知れないのだそうです。民間団体の「特定失踪者問題調査会」は252人のリストを作成しているそうですが、その内、34人は北朝鮮による拉致被害者である可能性が高いと言われていますが、今年の1月にも1987年に山口市で失跡した洋服店店員の西村京子さんが新たにリストに加えられたように、事件の全貌はまだ見えません。しかし、1970年に最初の拉致犯罪が行なわれたとすると、見事に話の辻褄が合いそうですぞ。
■1968年1月、北朝鮮のゲリラ31人が韓国の朴正熙大統領を暗殺しようと官邸に接近、1人が逃亡し、29人は射殺、1人逮捕。韓国政府は報復を決意して北のゲリラと同数の31人を特殊工作員として訓練を開始。68年4月に編成されたことから、684部隊と呼ばれた彼等は仁川沖の無人島シルミドで厳しい訓練を続けた。
しかし、ベトナム戦争が泥沼化し始めていた米国は、朝鮮半島での「第二次朝鮮戦争」の勃発は望んでおらず、韓国による報復を思い止まらせる。秘密裏に訓練された工作部隊は、危険な「秘密」として歴史の闇に葬られる運命を予感する。全員の抹殺の命令が出ていたのかどうかは不明な点が有るようですが、部隊は警備兵と教官を殺害して島を脱走する事件が起こったのが、1971年8月。隊員は船を奪って海を渡りバスを乗っ取って大統領に直訴するため青瓦台を目指したが、ソウル市内の永登浦で軍隊に包囲されて20人が死亡、4人が捕われ正規の軍人でもないのに軍法会議で死刑に処せられる。
■こうした報復テロ作戦が計画されているのを北朝鮮側が知っていたかどうかは、きっと現体制が崩壊するまで分からないでしょう。しかし、朴大統領の暗殺に失敗した後、ヴェトナム戦争の進み具合と米韓関係を見澄まして平和攻勢に出る一方で、しっかり「二の矢」を用意していた北朝鮮は、正面からの攻撃を諦めて「日本人によるテロ」作戦を始めていたのでしょう。そして、シルミド事件で肝を潰してから、本格的な「日本人テロ部隊」を創設しようとしたのではないでしょうか?よど号事件が起こったのが1970年の3月31日というのも、無気味なタイミングだった事になりますなあ。それにしても、それから30年、よくぞ日本のマスコミも政府も騙され続けたものです。
拉致被害者の地村保志さん(50)夫妻を拉致したとされる北朝鮮の元工作員、辛光洙(シンガンス)容疑者(76)=旅券法違反容疑で国際手配=が、招待所で地村さんに自ら拉致の実行を認めていたことが分かった。蓮池薫さん(48)夫妻を拉致したとされる朴(パク)を名乗る元工作員も招待所で蓮池さんらの監視役だったことも新たに判明。拉致が実行から被害者の教育や監視まで、限られた人数で組織的に行われていた実態が浮かんだ。
■日朝間の協議が再開される直前になって、ぽろぽろと新しい情報が発表されるというのは楽しくありませんが、少しでも真相が明らかになるのは喜ぶべきでしょう。
警察当局や関係者らに地村さんや蓮池さんが話した。それによると、地村さん夫妻は78年7月に拉致された直後、北朝鮮の招待所で、辛容疑者から「自分が拉致した。組織の指揮で動いた」などの説明を受けた。夫妻は、79年の結婚まで別々の招待所に入れられたが、富貴恵さん(50)はその間、辛容疑者から朝鮮語を学んだと話していることも判明している。一方、地村保志さんは、同時期に拉致された蓮池薫さんと同じ招待所に入れられた。その際、2人の監視役だったのが、蓮池さん夫妻を拉致したとされる「朴」だという。
■こうした具体的な情報を一切公言出来ずに、じっと耐えて来た被害者の皆さんは大変な心労だった事でしょう。外交の切り札や隠しダマにする情報操作なのでしょうが、折角、それを提供しても、下手くそな使い方しかして貰えないのは、実に悔しい思いだったでしょうなあ。
拉致被害者の原敕晁(ただあき)さん拉致に絡み手配されている辛容疑者は、横田めぐみさん拉致や、曽我ひとみさん(46)と横田さんの教育係だった疑いのあることも分かっている。また、「朴」は、拉致された疑いのある北海道出身の小住健蔵さんになりすまして旅券を取得するなどしたとして、警視庁が85年に旅券法違反容疑で手配した経緯がある。毎日新聞 - 2月3日
■こうして、間の無く再会される会議の目玉が「シン・ガンス」と「朴」らしい事が分かります。
北朝鮮による大阪の原敕晁さん=失跡当時(43)=拉致に絡み国際手配されている工作員辛光洙容疑者(76)が韓国捜査当局の調べに、「金正日(現総書記)から直接指示された」と供述していたことが3日、分かった。韓国の情報機関国家安全企画部(現国家情報院)の元捜査員が同日、取材に対し、事実関係を認めた。同部の当時の資料にも同様の内容が記載されていることが判明した。
時事通信 - 2月3日
■日本の菅直人さんや土井たか子さん等が、韓国で逮捕されて死刑判決を受けていたシンガンスのために、熱心な減刑助命運動をして下さったおかげで、無事に北朝鮮に帰った時には、大きな勲章を貰って英雄と讃えられていたはずです。しかし、恩赦との交換条件だったのか、単に拷問で音を上げただけなのか、こんな重大な証言をしていたとは、菅さんや土井さんは「もっと早く教えてくれたら、恥をかかずに済んだのに!」と怒っているでしょうなあ。まさかとは思いますが、日本・韓国・北朝鮮の間で、「シンガンス」の首一つで、全ての拉致問題に関する懸案事項はチャラにしようなどと話が付いているのではありますまいな!
米国のペース統合参謀本部副議長は、米韓の軍は北朝鮮軍を屈服させることができるとの見方を示した。現在韓国では、約30万人の駐留米軍が69万人の韓国軍と協力している。一方北朝鮮は、数百万人規模の軍を持ち、その大半が南北国境の非武装地帯付近に駐屯している。副議長は記者団に「われわれには完全に、北朝鮮からのあらゆる攻撃を阻止する能力があり、それを維持していく」と語った。また、潜在的な敵がどのように軍事力を行使しようとしているかに加え、軍の能力も注視していると述べた。ロイター - 2月3日
■横田めぐみさんのドキュメント映画が注目され、こうして後衛を固めてくれる発言が米国から出ているのも偶然ではないでしょう。早く国交正常化交渉を本格的に始めたくて仕方がないのは、決して日本側ではない、この一点だけは忘れてはなりませんぞ!
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