旅限無(りょげむ)

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金曜日はイスラムの休日 其の弐

2006-02-18 10:57:48 | 外交・世界情勢全般
■ムハンマド諷刺画問題の発端を作ったデンマークは、絶対に謝らない!姿勢が揺るぎません。隣国からもEUの仲間からも、謝るようにとの助言も有りません。異なる意見がぶつかる時、どちらかが正しく、もう一方は間違っているに違いない、と考えるのが人間の悪い癖なので、断固としてデンマークが正しい!と主張していると、イスラムが間違っている!という結論が出るのは必然です。足して2で割って両者の痛み分けというわけには行きません。

…デンマーク外務省は17日、在パキスタンの同国大使館を一時閉鎖したと明らかにした。パキスタンで、イスラム教預言者ムハンマドの風刺漫画掲載への抗議デモの参加者が暴徒化したことを受けた措置。デンマークはイラン、インドネシア、シリアなどで相次いで大使館などを一時閉鎖している。共同通信 - 2月17日

■憲法で保障されている「表現の自由」を守る為なら、イスラム諸国との断交も止むを得ないと腹を括っているデンマークは、一歩の引かない構えです。EUに反対する人が多いデンマークですが、キリスト教の絆を頼りにEU内に立て籠もるつもりかも知れません。それに同調して支援を言い出す国が続出すれば、トルコのEU加盟話は吹き飛ぶし、イスラム教徒の追放にまで発展する可能性が出て来ます。国民の99%がイスラム教徒のトルコも「政教分離」政策を貫いているので、この一点でEU加盟の悲願を達成しようと必死ですが、明治日本を見習って「脱亜入欧」に成功するかどうかは、微妙になりつつありますなあ。東隣は強硬派のイランですぞ!その間にはクルド独立派が頑張っています。


イランのモッタキ外相は17日、訪問中のレバノンで記者団に対し「(イラク南部)バスラにおける英軍の存在は治安の不安定化につながった」と述べ、イラク南部に駐留する英軍の撤退を求めた。ロイター通信が伝えた。イランはこれまでもイラクに駐留する米軍などの撤退を要求。イラン南西部の産油地帯フゼスタン州アフワズで起きた1月の爆弾テロなどをめぐり、同州の独立を求めるアラブ系テロ組織を支援したとして英国批判を強めており、アフワズに近接するバスラの駐留英軍に特に言及したとみられる。
共同通信 - 2月17日

■007の国は裏で何をやっているのか分かったものでは有りませんが、一方のイランはアラビアのロレンスが大活躍してオスマン・トルコが崩壊した後で定規で引かれた現行の国境線など認めたくない国ですから、もうイラクの南半分は自分の影響下に納めたつもりなのでしょうなあ。その国境線を引いたのがイギリスとフランスなのですから、両方とも意地になっています。クウェートなどというオマケを付けたのもイギリスでしたから、現在駐留しているイラク南部を外国だとは思っていない節が有ります。先日公表された英国軍によるイラク青年に対するリンチ事件などは、こうした感覚を理解しないと単なる弱い者苛めにしか見えないでしょうが、大英帝国はまだ滅びてはいないのです。

■嘘くさい中東の国境線がぼろを出しつつあるのかも知れませんなあ。アラブの王様達は、元と質せば部族の酋長さん達がイギリスやフランスの手で王座に付けて貰った経緯が有りますから、その嘘くささも暴かれると大変な事になってしまいます。米国は、そういう連鎖的な自壊作用を期待してイラクを抑えているのでしょうが、皮肉なことに同じ現象が起こるのを待っているのはアルカーイダです。でも、ぐちゃぐちゃになった後の中東を仕切るのはワシントン主導の民主主義国家ではなく、中世のカリフ制度でなければならない点が徹底的に違います。イスラム帝国のカリフが誕生したら、それに対抗出来るのはローマ帝国皇帝だけですが、その役を米国が果たそうとすれば欧米が分裂してしまいますなあ。


イスラム教の預言者であるムハンマドの風刺画をめぐり、香港でも17日午後にイスラム教徒がデモを行った。デモは平和裏に行われたもようだが、参加者は「イスラム教を愚弄するな」などと抗議の声をあげながら、繁華街を行進したという。香港メディアが伝えた。
デモには、パキスタン、インド、インドネシア、スリランカ出身者などが参加。参加人数に関しては、情報源により2000-5000人の幅があるようだ。尖沙嘴(チムサーチョイ)にあるモスクで祈祷を行ったあと、繁華街を経由して、油麻地(ヤウマアテイ)にある国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)に赴き、請願書を提出した。また、19日にもビクトリアパークで集会が行われる予定だ。なお、警察当局から逮捕されるのを恐れて、今回のデモには参加をしなかったイスラム教徒の団体もあるという。サーチナ・中国情報局 2月17日

■アルカーイダの支部が有ったり、核の闇市場の支店が有ったり、何かときな臭いマレーシアからは参加者が居ないのは面白い事です。聖なる金曜日になると、どうしてもイスラムの情熱が盛り上がってしまうので、週末毎にイスラム教徒のニュースが報じ続けられるのでしょうなあ。でも、国連に押し掛けても何もしてくれませんぞ!それを見越しての嫌がらせとも考えられます。これまでも、中途半端な介入をしては、問題をややこしくして惨劇を大きくして来た「実績」が有る国連ですから、今回の世界規模もイスラム運動に対処などしない方が賢明です。所詮は貧乏国出身のお役人が集まっただけの国連が隠蔽している嘘くささも暴露されてしまうかも知れませんなあ。既に死に体のアナン事務総長も、苦しい時のワシントン頼みの醜態を晒してしまいましたから、イスラムの敵になってしまいました。歴代の事務総長の中でも最も無能だった人として歴史に刻まれる事になりそうです。可哀想ですが、一家でこそこそ不正蓄財などやっているのですから、自業自得と言われても仕方がないでしょうなあ。

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金曜日はイスラムの休日 其の壱

2006-02-18 10:56:48 | 外交・世界情勢全般
■日曜日はキリスト教の休日で、土曜日はユダヤ教徒の安息日、そして金曜日はイスラム教徒がモスクに集まる休日です。アブラハムの神が、世界を6日で創造した後、7日目に休息したと『聖書』に書かれているのが根拠になっています。日本はどの宗教とも無縁なのに明治の近代化政策の中で日曜日を採用したのでした。70年代末に世界が注目したキャンプデービッドでの重要な中東和平会議が有りましたが、当時の米国大統領のカーターさんは熱心なキリスト教徒で、イスラエル首相のベギンさんは敬虔なユダヤ教徒、エジプトのサダト大統領はオデコに礼拝胼胝(たこ)を持つほどの熱烈なイスラム教徒でしたから、週に3日間は聖なる休日となってぜんぜん会議が進まない、という椿事が起こりましたなあ。

17日のロシア通信によると、ロシア南部ボルゴグラードの地元紙がイエス・キリスト、モーゼ、ムハンマド、仏陀が登場する風刺漫画を掲載し、宗教団体などの反発を恐れた市当局は同紙の廃刊を決めた。地元の記者団は「言論の自由を脅かす」として廃刊に抗議している。この新聞はボルゴグラード市行政府機関紙のゴロツキエ・ベスチ。今週「人種差別主義者が権力に就いてはならない」と題した記事で、4人が宗派抗争を報じるテレビの前で、「こんなことを教えた覚えはない」と話す風刺画を併せて掲載した。 
時事通信 - 2月18日

■ボルゴグラードは、ボルガ川から名前を採った都市ですが、歴史好きの人にとっては「スターリングラード」と言った方が分かり易い場所でしょうなあ。カスピ海に注ぐボルガ川の「西岸」に在ります。もともとは、東から襲い掛かるタタール人を食い止める目的で、大河を自然の要害として利用するツァリーツィン要塞が置かれた場所です。1589年の事です。時は流れて、ソビエト連邦が成立するとロシア帝国時代の名残を徹底して排除するために、1925年からはナルシストの名前を採ってスターリングラードに名称変更されて、今度は西から襲い掛かって来たヒトラーのドイツ軍を食い止める要塞となりました。ナルシストの独裁者の名前が禍して、絶対に降伏してはならない!という厳命が下って壮絶な籠城戦を半年も続けた激戦地です。自分の名前が汚されると思ったヨシフ伯父さんは、人民の命よりも自分の名前を守る事を優先したのでしょうなあ。傍迷惑な話です。何本も映画化されましたが、寒い日や空腹時には観ない方が良い作品ばかりですから注意が必要です。

■大祖国防衛戦争が終わり、ヨシフ伯父さんも亡くなるとフルシチョフが内緒で悪口を言い出したので、コミンテルン帝国の中が大騒ぎになりました。ヨシフ伯父さんをお手本にしていた毛沢東や金日成などは自分の権威と面子と命を守る為にソ連と戦争しても良いと思ったのだそうです。実に傍迷惑な話です。その騒ぎの中で1961年に毒にも薬にもならない有名な川の名前から採ったボルゴグラードになったというお話です。今はロシア連邦の南部連邦管区に属する人口100万人を超える州都です。真南に500㌔も行けばチェチェンですから、分離独立運動に直結する諷刺画騒動が飛び火しないように予防線を張るのが問題の新聞記事の目的でしょうなあ。しかし、それが逆効果になる可能性の方が大きいと判断した当局が廃刊を決定したというわけです。面白いのは、チェチェンに行く途中が「カルムイキヤ・ハリムグタングチ共和国」というチベット仏教徒が多い場所なので、御釈迦様にも御登場願ったところですなあ。かつて、ダライ・ラマ14世の御訪問を大歓迎した人達ですが、独立闘争やテロを仕掛けるような騒動は起きていません。

■しかし、イエスもモーゼもイスラム教では「優れた預言者」に数えているので、ムハンマドの肖像画と同じ意味を持ちますから、考えようによっては、デンマークに発した諷刺画の3倍の破壊力を持つとも言えます。仏像や仏画が大好きな仏教徒にとっては理解不能の抗議運動が起こると、お呼びでないチェチェンの勇士達が大挙して押し掛けるかも知れないので、当局は苦渋の選択をしたのでしょうなあ。


AP通信によると、リビア北東部ベンガジで17日、イスラム教預言者ムハンマドの風刺漫画掲載に抗議する1000人以上のデモ隊が暴徒化し、イタリア領事館に放火した。領事館当局者によると、警官隊との衝突でデモ隊の9人が死亡した。リビアの治安当局者は死傷者は11人としている。イタリア外務省によると、領事館内のイタリア人にけが人はいないという。風刺漫画をめぐっては、4日にシリアでデモ隊がデンマーク、ノルウェーの大使館に放火。5日にはレバノンでデンマーク領事館が入居する建物が放火されている。
共同通信 - 2月18日

■小さな扱いのニュースですが、「社会主義人民リビア・アラブ・ジャマヒリア」は地中海を挟んだイタリアの対岸に在る大きな国ですぞ!ベンガジには空港まで有りますから、奇怪なオリンピックをやっているトリノに嫌がらせをしに行こうと思えば、トリポリ経由で毎日イタリアのローマにもミラノにもひとっ飛びですぞ。トリノでは、デンマークを筆頭に諷刺画を転載した国々の選手団が活躍中です。


移民排斥論者として知られるイタリアのカルデロリ制度改革相がイスラム教預言者ムハンマドの風刺漫画を印刷したTシャツを着てテレビ出演するなど、イスラム教徒らに挑戦的な言動を続けている。ローマ駐在のアラブ諸国大使が17日、フィーニ外相に面会を求めるなど波紋は拡大、ベルルスコーニ首相にとって頭の痛い案件になってきた。AVSA通信のインタビューでカルデロリ氏は14日「イスラムとの対話などというおとぎ話は捨てる時だ。今日からTシャツを着る。希望者にも分ける」と発言。翌日の国営テレビにはワイシャツの下に着て出演し、ちらりと漫画を見せた。
共同通信 - 2月18日

■平和の祭典を主催している国の閣僚としては無責任な行動でしょうなあ。陽気なイメージを売り物にしているイタリアですが、「ファシズム」の語源になったファシスト党の発祥の地ですし、何よりユダヤ人の隔離施設の代名詞「ゲットー」というのも、1516年にヴェネツィアに最初に作られたので、そこの地名が語源だとも言われていますし、1555年にはローマ教皇パウルス4世の命令でローマにも作られました。国際関係がややこしくなると、古い血潮が呼び覚まされる事が有るので、ご用心、ご用心。度重なる大戦争においても、最初に手を出す時にはヤケに威勢が良い割に、最期はこてんこてんに負けるパターンを繰り返すお国柄ですから、早めに誰かが自制を呼びかけないと、エライことになるかも知れませんなあ。