「滝」の俳句~私の心に見えたもの

220728 佐々木博子(「滝」瀬音集・渓流集・瀑声集 推薦作品より)

裸婦像にジャズが流るる秋の街 山本峰子 「滝」12月号<滝集>

2015-12-21 04:28:38 | 日記
 仙台市で例年催される、ジャズフェステバルの景であろう。
ケヤキ並木も色づきはじめ、空は高く青く澄みわたっている。
ジャズは、独特の力強いリズムで、町のおちこちから流れ、
あふれている。その中に「裸婦像」を捉えた作者の目は確か
である。裸婦像と共に、秋の日のジャズフェステバルに浸っ
ている、作者の顔が見えてくる。(庄子紀子)

はんなりと素焼きの器秋深し 今野紀美子 「滝」12月号<滝集>

2015-12-20 04:43:24 | 日記
 陶芸がアマチュアの間でも大人気である。陶芸ブームとい
ってもよい。市や町の生涯学習などでも趣味の講座で行われ
ているところが多い。陶芸の工程は、通常粘土を練ることか
ら始まる、この練りも硬さの均一や空気を完全に抜かなけれ
ばならないので大変な力仕事である。成形、文様付け、乾燥、
素焼きと流れて行くのである。陶芸のフアンが工房を訪れる
とき。印象に残るのは、ある程度形となった素焼きの状態か、
完成品の作品である。鉄分を多く含んだ土を使うと、素焼き
後の色合いは鮮やかな色になるという。上五の「はんなりと」
が素焼きの状態を暗示している。季節は晩秋。「秋深し」に陶
芸の繊細さが伝わってくる。(鎌形清司)

鯔跳ねて晩鐘海に届きけり 成田清治 「滝」12月号<滝集>

2015-12-19 04:28:21 | 日記
 鯔は淡水、海水両域に生息する出世魚である。掲句は「晩
鐘海に」という中七から、湾での釣りの景を詠んだものか。
晩秋のよく晴れた釣り日和。港に出入りする大小の船を見た
り、抜けるように深い空を見上げたり。のんびりとした釣行
だ。あまり釣れない。山の方から夕の刻を知らせる鐘の音が
聞こえて来る。秋の日は釣瓶落としと言われるように、そろ
そろ引き上げなければならない。しかし、釣れないともう少
し、もう一匹釣れるまで。と我を忘れるのである。少し昏く
なってきた。急に寂しくなってきた。ゆったりとした静かな
湾が暮れて行く。視覚と聴覚、そして時の流れを詠んでいる。
さらに季節の移ろいまでが浮かび上がってくる佳句である。(鎌形清司)

ポケットの根付の鈴や流れ星 大友みつ子 「滝」12月号<滝集>

2015-12-18 04:02:54 | 日記
 根付。以前は和服の帯に財布などが落ちないためのものだ
そうだ。現在はおしゃれな装飾品として使われているように
思われる。
 掲句、ポケットに入れてある財布の根付が鈴だった。家族
や自分の幸せを祈って寺社に参拝した。賽銭を上げて拝む。
根付の鈴が鳴った。すがすがしい気持ちで帰りの途につく。
秋の澄んだ夜空を仰ぐ。満天の星だ。久しぶりに仰いだ夜空
の星に見とれていると、星が流れた。流れている間に願をか
ければ叶うという伝えがあるが、とても間に合わない。早く
家に帰って家人に話そう。そうだ帰りに土産を買って帰ろう。
財布を取り出すとき、また鈴が鳴った。爽やかな一齣の句で
ある。「ポケットの根付の鈴や」が素朴でいい。(鎌形清司)

大声で母呼んでゐる花野かな 浅野 稜 「滝」12月号<滝集>

2015-12-17 04:46:45 | 日記
 少年は夢を見ていた。美しい秋の草花が咲いている。母に
教えようと思って母を呼んだ。でも母は振り向いてくれない。
少年は一生懸命母を追いかけるが、距離はちじまらない。た
まらず大きな声で「おかあさーん」と呼んだ。しかし母は向
こうを向いたままだ。澄んだ空気の花野。空は抜けるように
青い。気が付いてみると、自分の発する声が声になっていな
い。少年は焦るがどうにもならない。少年はとうとう泣き出
した。そうしてもう一度大きな声で母を呼んだ。「おかあさ
ーん」。そこで少年は目が覚めた。母は永遠である。
(鎌形清司)