「猫の事務所」
【149ページ】
かま猫は当たりまえの猫になろうと何べん窓の外にねて見ましたが、どうしても夜中に寒くてくしゃみが出てたまらないので、やっぱり仕方なく竃(かまど)のなかに入るのでした。
なぜそんなに寒くなるかというのに皮がうすいためで、なぜ皮が薄いかというのに、それは土用に生まれたからです。やっぱり僕が悪いんだ、仕方ないなあと、かま猫は考えて、なみだをまん円(まる)な眼一杯にためました。
[ken] 宮沢賢治さんの作品には「風」と「猫」が多く登場しますが、猫好きであったかどうかは諸説あって本音としては猫が嫌いであったそうです。えてして「嫌いは好き」に通じますし、本書でも猫を観察して描写しているように、とにかく猫は気になる存在であったことはたしかですね。あたたかい「かまど」付近に寝ている姿は、私も子ども頃よく目にしました。また、隣の家で炭を焼いていたいので、わが家の猫もたびたび暖を取りに出かけていました。帰ってきた猫を抱くと、炭窯の灰や炭の粉が体毛についていたし、かまどと同じような香りがしました。また、私の田舎で「夏猫は弱い」と言われていたことを思い出しました。その理由は、「生まれた時が暖かくて、寒さへの備えができていないから風邪をひくと弱ってしまう」というものでした。本書では「皮がうすいためで、なぜ皮が薄いかというのに、それは土用に生まれたから」という理由を知り、「なるほど」と深く納得させられました。(つづく)
【149ページ】
かま猫は当たりまえの猫になろうと何べん窓の外にねて見ましたが、どうしても夜中に寒くてくしゃみが出てたまらないので、やっぱり仕方なく竃(かまど)のなかに入るのでした。
なぜそんなに寒くなるかというのに皮がうすいためで、なぜ皮が薄いかというのに、それは土用に生まれたからです。やっぱり僕が悪いんだ、仕方ないなあと、かま猫は考えて、なみだをまん円(まる)な眼一杯にためました。
[ken] 宮沢賢治さんの作品には「風」と「猫」が多く登場しますが、猫好きであったかどうかは諸説あって本音としては猫が嫌いであったそうです。えてして「嫌いは好き」に通じますし、本書でも猫を観察して描写しているように、とにかく猫は気になる存在であったことはたしかですね。あたたかい「かまど」付近に寝ている姿は、私も子ども頃よく目にしました。また、隣の家で炭を焼いていたいので、わが家の猫もたびたび暖を取りに出かけていました。帰ってきた猫を抱くと、炭窯の灰や炭の粉が体毛についていたし、かまどと同じような香りがしました。また、私の田舎で「夏猫は弱い」と言われていたことを思い出しました。その理由は、「生まれた時が暖かくて、寒さへの備えができていないから風邪をひくと弱ってしまう」というものでした。本書では「皮がうすいためで、なぜ皮が薄いかというのに、それは土用に生まれたから」という理由を知り、「なるほど」と深く納得させられました。(つづく)