息をするように本を読む

初めて読んだ本も、読み返した本も、
ジャンルも著者もおかまいなしの私的読書記録
と、なんだかだらだら日常のことなども

廃墟建築士

2012-10-05 10:33:08 | 三崎亜記
三崎亜記 著

著者の作品にはありえない世界が展開する。
それも矛盾せず、完成したかたちで。
作品を読めば読むほど、それらがひとつの揺るがない世界にあって、
どこかでつながっていることがわかってくる。
おとぎ話のような甘口ではない、ただ超然と存在する世界。
それなのにノスタルジックであたたかみがある世界。
本書はどっぷりその世界を楽しめる短編集だ。

私は廃墟が好きで、三崎亜記の不可思議な世界観が好きだ。
というわけで、とことん楽しめた。

期待していたのは表題作だったが、ほかの作品もまったく負けていない。
「七階闘争」なんて、えっと思うようなテーマなのに、人の心の
迷いやご都合主義、そして哀しみまでも取り込んだ深い話だ。

本好きとしては「図書館」も好き。夜になると活気づく本なんて
素晴らしいではないか。

もちろん表題作にはとりこになった。
仕事への情熱や矜持、弟子の成功と失墜、細やかに描かれる物語は
ビジネスの現場をうつし、人間関係を語る。
そして人生の夕暮れに迎えるあこがれの場所での仕事。
美しく時を経て崩れていく廃墟の魅力がこんなにも独創性のある
物語になるとは。

そして主人公がもともと専門にしていたのが「二回扉による分散型
都市モデル」というのもいい。これはあれですね『バスジャック』の
「二階扉をつけてください」のあれ。
というふうな発見も実に楽しい。