息をするように本を読む

初めて読んだ本も、読み返した本も、
ジャンルも著者もおかまいなしの私的読書記録
と、なんだかだらだら日常のことなども

虞美人草

2012-10-19 10:30:01 | 著者名 な行
夏目漱石 著

著者が朝日新聞社に入社して初めて書いた小説。
思い入れも大きかったようで一字一句丁寧に書かれたという。

自分の気持ちに正直に生きる女・藤尾と、彼女に翻弄される男たち。
文明開化はされても時代は明治。
藤尾の行動は周囲にさまざまな摩擦を引き起こす。

主人公・小野はインテリだがやや流されやすい。彼は学問の道を追求するため
藤尾の財力に魅力を感じる。しかし彼には小夜子という恩師の娘との約束がある。
藤尾には亡き父が決めていた許嫁・宗近がいたのだが、真面目な彼よりも
詩的世界を解する小野に魅力を感じている。

思いが錯綜する中に経済的問題が絡み合い、物語は進むのだが、
これはきっぱり勧善懲悪の話である。

藤尾は悪。それ以外のなんでもない。
というととても単純でつまらない感じがするが、そうでもない。
シンプルなストーリーを独自の世界観で描き出しているのはさすが。

脇役なんだが、糸子の家庭的ながら強いキャラクターは魅力的。

好き嫌いは分かれると思う。
私は読むたびになぜか秋の透明な空気を感じる。
別に虞美人草が秋に咲くわけではなく、物語が秋というわけでもないのにね。