息をするように本を読む

初めて読んだ本も、読み返した本も、
ジャンルも著者もおかまいなしの私的読書記録
と、なんだかだらだら日常のことなども

白蓮れんれん

2012-10-18 10:13:17 | 著者名 は行
林真理子 著

昨日に引き続いて、林真理子の歴史もの。
歴史ものが決して得意とはいえない著者だが、これはいい。
女性の心の揺れや周囲の人々との関係などの描き方は
流石だなあと思う。

モデルとなった柳原白蓮は、華族出身の才媛で、福岡の炭鉱王に嫁ぎながら
大学生と駆け落ちをするという激動の人生を生きた人だ。
写真を見ると華奢でたおやかな美女。上品な雰囲気はとてもそんな
熱い情熱を秘めているようには見えない。

東京の文化の香りの中で生まれ育った彼女が、いくら金があるとはいえ、
九州に嫁いだ違和感は痛いほどわかる。
現代でさえも、とくに男性の考え方は東京と九州では大きく違う。
彼女の存在そのものが夫の自慢であったろうし、大切にはされただろうが、
それはきっと床の間の宝物としてであり、人格などないものとされただろう。

もちろん恋物語はおとぎばなしではないからそこで終わらない。
人生はその後も続いていく。
駆け落ちした相手とやがて再婚し家庭を築いた。
しかしそこには、何不自由ない暮らしを捨て、自ら家事をする苦労や、
せっかく産み育てた我が子を兵士として喪うという哀しみもあった。
そんな現実を踏まえても、やはり自ら選んだ人生は幸せだったと思う。
大騒ぎになった事件だが、もとにあるのは一人の女性が自分に正直であったこと。

惜しいのはもう少し時代背景や書簡など、事実が描かれていたらなあ。
テーマそのものがドラマティックでスキャンダラスなので、そっちに
引きずられて、やや下世話感が漂ってしまう。
文化の香り高い人物ばかりが登場するのに、あとひとつ品格が足りないような。
だから読みやすくて面白いともいえるが。