
村上春樹の最新小説『色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年』がこのほど発売になったので書店で購入した。最初に購入しようとして書店に行ったときは、「品切れ、ご購入の方はご予約ください」との看板が出ていた。そのわずか2日後、書店の入り口正面の特設の棚に、堂々と2列に積みあげられてあった。4月15日が第1刷で、4月25日はすでに第5冊である。
新聞によると第1刷が50万部で、すでに75万部を印刷中とのことだが、殆どの小説が3万部も刷れば売れた小説の部類になるが、村上作品が発売前から、これほどの話題になり、70万もの買い手が存在するのは稀有のことである。この傾向は『ノルウェーの森』にすでに始まり、『1Q84』では発売前から定着を見せていた。
小説は主人公、多崎つくるが大学2年生の7月からその年明ける2月まで死ぬことだけを考えて過ごしていたことから書き始められている。その原因として、高校時代の4人の友人から絶交を言い渡されることがあげられている。4人は名前に色が入っていた。4人はアカ、アオ、シロ、クロと色のニックネームで呼び合い、色が入っていない多崎だけがツクルと呼ばれた。
村上春樹は色にこだわりを持つ作家である。最大のベストセラーとなった『ノルウェーの森』では、赤と緑を小説のテーマのシンボルとしている。即ち、血のような赤は生を現し、森の緑は女性の自殺した場所で、死のシンボルである。だが、そのシンボルは緑という名の女性が生命力にあふれる女性として描かれ、赤いホンダの車のなかで青年が自殺する場面が描かれ、時としてその役割が反転している。
『ノルウェーの森』上下巻の装丁は、上巻が赤に緑の文字で「ノルウェーの森」とはめ込まれている。下巻は緑に赤の文字となって、上下はみごとに反転している。このことは、死と生は、すぐ近くにあるいものであり、生の一部として存在し、時には死の一部へと反転することをシンボリックに表現している。
新しい小説では、すでにその題名に色彩が登場している。この小説で、村上は色彩にどのような意味を持たせようしているのか。全編を読み通して改めて感想を述べて見たい。