
きのう畑から採ってきたアサツキだ。娘に送るために根を切り、根元の薄皮をむいて整えた。室内にアサツキの香りが満ちている。数年前までは、野山にアサツキを採りにいくのが春の行事だった。行きつけの床屋の主人から、雪のなかのアサツキ掘りを教わった。スコップと根を切るハサミを持参して、アサツキが毎年出る山へ行く。雪が消えかかった部分を掘ると、黄色いおいしそうなアサツキの新芽が顔を見せる。それを掘り出して根を切って、家に持参する。だが自生するアサツキは細く小さいので、家で土を落とし、食べられるようにするまでに大変は手数がかかった。
畑を借りてからは、アサツキの種を植え込んでおく。雪が消えると、畑では一番初めに顔を出す。根元が白く太いアサツキが、あまり手数をかけずに食べられる。
あさつきよ香をなつかしみ妹が里 紫 筍

朝の吸い物は、アサツキの卵とじである。だし汁を沸騰させ、溶いた卵とアサツキ、少し贅沢して、静岡からの到来もののサクラエビを加えて数分間煮る。香りも色目も鮮やかな吸い物である。茹でて、やはり茹でたイカの細切りとを酢味噌であえると、これも好物の酒の肴ができる。こんな旬の味が楽しめるのも、畑を借りているからだ。スーパーでは、これからアサツキも出回るが、朝取りの新鮮さは求められない。