満面の笑みと共に…

「今日は、満面の笑みだったね。」と主人が言いました。
私も、そう思いました。
そして、とても嬉しい気持ちになっていたのです。

お散歩コースの道沿いにある、一軒の別荘の男性が、今日は『満面の笑み』でした。

その別荘は、今から６～７年ほど前に建てられました。
男性は、６０代後半かと思うのですが、いつもおひとりで来ておられます。

私達は、そのお家のすぐ横の道を毎日通りますので、
男性がお庭におられる時やデッキの椅子に座っておられる時など、
お見かけすることがありました。

最初の頃、お庭での作業の時も、デッキで景色を見ておられる時も、
私達が道を通り過ぎる気配に気付かれないのか、振り向かれることはありませんでした。

５年ほど前のある日、その別荘の隣の森の木が伐採される事になりました。
チェーンソーが森中に響き、大木が倒れるたびに、大きな音と共に地響きがしたのです。

その時ちょうど、私達が別荘の前を通りかかりました。
男性はデッキに出ておられ、私達に気付かれたようでした。

『おおきなおとがひびいてきます。』
男性の唇が大きく動き、そんな風に聞こえてきたような気がしました。

私は、その時にやっと気付いたのです。
耳が聞こえない人だったんだわ…。

その時以来、男性と私達は、どこか近づいたような気がしています。
会釈をしたり、手話ならぬ、身振り手振りで話すこともありますから…。

そんな今日、私達がお散歩で別荘の近くまで来たとき、
男性がデッキの椅子に座って、私達の方を見ておられるのがわかりました。
案の定、デッキの横を通るとき…、
その『満面の笑み』と共に…、手を振ってくださいました。
出会ってから、初めてのことでした。

とても幸せなことがあったのかもしれません。
素敵でしたよ、今日の微笑み…。


　人家から離れた場所ですが、オダマキがきれいに咲いていました。