ウィンザー通信

アメリカ東海岸の小さな町で、米国人鍼灸師の夫&空ちゃん海ちゃんと暮らすピアノ弾き&教師の、日々の思いをつづります。

米国『ラディエーター悲話』事情

2014年09月14日 | 米国○○事情
5年前、毎晩少なくとも100件のデータを見比べては、週末に見学しに行く家を数件選ぶという、
大げさではなく、微熱が出るぐらいの大変な家選びが、一年近くも続いていた。
やっとの思いで決めた家が、調査の結果、劣化したオイルタンクが敷地内に埋め込まれているのがわかり、慌てて土壇場でキャンセルしたりして、
ほとほと嫌気が差してきた時に、今のこの家に出会った。

家の真向かえに、それはそれはほがらかに、青空の下で笑い咲きしてる桜の木があった。
家の中に入る前に、ほぼ決まったようなものだ。

玄関のドアを開けると、ずいぶん長く使われていなかった一階の床は、油染みと埃でねっとりとしていて、靴無しでは歩けないような状態だった。
けれども、築百年を超える古屋だが、これまでにたった二家族が暮らしただけという、どちらも長く平穏に生を活きた家の、なんともいえない温かさを感じた。
ここで暮らそう。

そう決めて、煩雑な手続きを終え、この際、床だけはちゃんと補修しようと決心して、業者に頼んだ。
床材はもちろん百年以上も前のものだけど、まだまだ大丈夫そうだし、貴重だし、研磨をしてワックスをかけることになった。
1階のモザイク模様が見事に復活し、2階のボロボロになったカーペットの下からは、これまた美しい床板が現れた。
超カオスな引っ越しを終え、いろいろと問題が山積みなままの家ではあったけれども、新しい暮らしが始まった。

洪水があって、地下室が浸水したり、3階の屋根の煙突カバーに穴が空いていて、そこから母リスが入りこみ、1階の台所のコンロの天井で出産準備に励んでいたり、
2階のお風呂の排水がほぼできなくなって、修理を頼んだら、2階と1階の合わせて4カ所に変な穴が開けられて、そこから水が染み落ちてきたり、
そんなこんなの、小さいけれどもけっこうショックな事件が時々起こった。

毎年、暖房用のボイラーとラディエーターの交換を、やろうかやらないでおこうかと悩んできた。
毎年のように高騰するオイル価格と、部屋によっては温かくならないラディエーターの修理に、かなりの費用がかかっているからだった。
そして去年、これほど寒かったことは今までには無かったと、どんなお年寄りも断言したほどに厳しい、そして長い冬が終わり、かかった暖房費を恐る恐る計算すると…とんでもない数字が現れた。
やっぱりガスに転向しようか。
ガスなら、地下の巨大タンクのオイル残量に、いちいちビクビクする必要もなくなるし、オイルよりは安いと聞いてるし。

ところが、オイルバーナーからガスバーナーに替えるのに、安くて60万はかかるという。
今のオイルバーナーは、見た目はかなりボロいのだけど、燃焼率が新品のものより3%低いだけの、まだまだ現役で大丈夫な物らしく、
(業者によっては、「ああこりゃもうダメだ」と言われたりした)
まだまだ使えるものを外して、新しいのに替える必要は無いんじゃないの、と思い直し、ならば故障しているラディエーターだけを修理してもらおうということになった。
数社に見積もりを出してもらい、最安値ではないけれども、良い評判を得ている業者に頼んだ。
跡取息子がやって来て、暖房方法について、あれこれ話し合った。

北米東海岸の冬は、かなり厳しい。
氷点下は当たり前で、2℃とかになると、コートを脱ぎたくなるような錯覚を覚えたりする。
けれども、家の中に入ると、セントラルヒーティングのおかげで、どこもほのかに暖かい。
地下のオイルバーナーで沸かされたお湯が、各部屋のラディエーターに循環して、そこからじわじわと放熱し、部屋をゆっくり温める。
この方法だと、空気が汚されることがないし、火事の心配もない。
ただ、使っていない部屋まで温めるのはいかがなものか?と、旦那とわたしは、ラディエーターの栓を開けたり締めたりしていた。
さらに、寝室は少し肌寒い方が好きな我々は、その部屋の栓も頻繁にいじっていた。

それが故障の元になったらしい。
元々壊れていた物も含めて、計4カ所の修理と、サーモスタットの取り付けが始まった。

わたしの寝室


旦那の寝室


旦那の治療室


3階のお客さま部屋


どこもかしこも、滅多に触らない場所らしく、堂々たる汚れ(や剥がれ)っぷり。
めちゃアンティークな栓抜きや、子どもたちが遊んだオモチャやカードまで、続々と出てきた。

早朝から始まった工事は、終了予定時刻をはるかに過ぎて、生徒がすでにやって来てもまだ続いていた。
ラディエーターの温水循環がうまくいっているかどうかをテストするために、ヒーティングのスイッチをオンにしなければならず、
その日はたまたま、予告も無しに、道路のガス管設置の大きな工事をやっていて、騒音が凄まじく、だから窓も開けられず、
ラディエータからの温熱と、仕方無しにつけたクーラーからの冷風と、工事人の二人が土足で歩き回る足音の中、レッスンを強行しなければならなかった。

なんともカオスな一日が終わり、さて、どうなったかなと、工事が終った部屋を見回った。

わたしの寝室のラディエータ前には、もともと敷いてあったラグが元に戻されていたのだけれども、
きっとまだ、埃なんかが残っているかもしれないからと、めくってみると、






なんとまあ、傷だらけなのだった…しかも、ハンダづけした際の汚れや、木を削った粉などが、一面に散らばっている…。
驚いて、残りの3部屋も見に行ってみると、1階ほどではないけれども、それぞれ傷が残されていた。

旦那とわたしが、ただひとつ、この家のためにできたこと、それが床の修復だった。
だから、床は、特にわたしにとっては、とても大事なものだった。
旦那は、そりゃ使ってるんだから、傷のひとつもふたつもついていくものだと、とっくの昔に悟っているのだけれども。
そんな彼でも、この傷の深さと量には、やはり驚かされたようで、「これはちょっと言わなあかんな」と言った。

翌日、同じ工事人がやって来て、こう言った。
最終点検をしたら、地下のパイプの部分に問題があることがわかった。
これを直しておかないといけないと思うが、費用は7万ほどかかる。

旦那はそれを聞いて、じゃあ、昨日やった修理は、結局必要が無かったことだったのか?と疑問を持った。
業者に電話をかけて、修理中についた傷のことを伝え、工事費を満額支払うか否かについて話し合った。
4つのラディエータの修理・調整と、サーモスタットの取り付けに、計23万円の請求書が来た。
そして新たに7万円という。

1時間以上も話し合った末、傷の代償として、請求額の23万円を17万円に下げてもらった。
そして、パイプの工事は、今はやらないでおくことにした。
わたしはなんとも気が済まなくて、「満額払ってもいいから、向こうに床の修理をきちんとしてもらいたい」と言うと、
旦那はやれやれと首をふり、
「それには賛成できない。1時間以上も掛け合って出した結論を、今さらひっくり返すのは大人気ない」と言った。
確かにそうかもしれない。

まあ、このまましばらく使って、様子を見ようではないか。
その上で、やはり問題があるようなら、修理を頼もうではないか。
サーモスタットで温度を調整できるようになったのだから、ラディエータの栓をいじくらずに済むのだし。
床は、またいつか、ゆっくりきれいにしていこうではないか。

夏らしい夏にならないまま、スルスルと秋が来て、朝晩はもう10℃スレスレにまで気温が下がる。
しっかり寒くなるまでの間は、ヒーターをつけてしまうか、もう少しつけないで頑張るか迷うので、よく風邪をひく。
うちの室温の設定は、高温で20℃、寝る前に16℃ぐらいに下げる。
高温にして、だから家の中では半袖で過ごすような、おバカなことはしない。
最近は、そんなことをしている人は、かなり減ってきているようだけれども…。

さて、次は2階のバスルーム。
全部すべて取り替えるにせよ、一度にひとりしか使えないようなちっぽけな部屋なのに、修復費用の見積もりが、我々にとっては仰天価格ばかりで、
今はとりあえず、呼吸を整えているところ。
言った時間に来てくれない、ドタキャンがある、予定の倍の時間がかかる、仕事が大雑把などなどの、アメリカンスタンダードを避けて通りたかったから、
予定の時間に来てくれる、ドタキャンもしない、予定より少し延びる程度で終ってくれる、しかも仕事は丁寧な会社に頼みたかったのだが…。
背に腹は代えられない、ということになる気配まんまんな、今日この頃。

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