3月3日、大昔のインプラントの根っこに長年に渡り居座っていた膿の除去手術を受けた。
今から思えば、その日が大崩壊の始まりだった。
2月の末にオーケストラの、本番ギリギリまでゴタゴタしていたけどとりあえず無事に終わったコンサートがあり、その翌々日には新しく始めた自分のためのピアノレッスンがあり、相当に疲れていたのはわかっていた。
3日の手術は数時間かかり、麻酔が途中で切れたりして、思っていた以上に辛かったのだけど、それでもまあ、日本に行くまでには丸ひと月あるので、心配する必要はないだろうと思っていた。
膿は予想以上に骨に達していて、だからかなり削らなければならなかったので、傷ついた歯茎を縫い合わせた部分が結構大きかった。
術後は柔らかいもの、刺激のないものを食べなければならないけれど、ここ数年はそういう類の治療を何回も受けているから慣れたもので、お粥やふかし芋でお腹を満たしていた。
2週間経って、歯科医に診てもらうと、上顎に火傷の跡があって、予後もあまり良くないので、あと2週間、同じダイエットで過ごしてくださいと言われてしまった。
確かに、毎日拡大鏡で見ていたからわかるのだけど、縫い目の周りが赤く腫れていたり、歯の裏側を舌で押すと嫌な痛みがあった。
傷が真ん中にあるので、食べ物を片側だけで食べようとしても、ついつい傷口に当たってしまうし、せめて温かいスープを飲みたいと思ったのが悪かったのか、火傷までしてしまった。
それほど食い意地が強い方ではないはずだけど、1ヶ月も生ぬるいドロドロ状のものを食べなければならないのかと思うと一気に落ち込んでしまった。
そして咳が始まった。
最初はちょっと喉がシクっとするぐらいだった。
翌日の水曜日にはかなり痛みがはっきりしてきて、夫に喉の痛みと咳を止めるための漢方を処方してもらった。
木曜日になると、唾を飲み込むことができないくらいの痛みになった。
その夜は咳でほとんど眠れなくなった。
金曜日はリモートレッスンに切り替えた。
でも、それがいけなかったのか、翌日の土曜日には声が全く出なくなってしまった。
週末の2日間をしっかり休んだらなんとかなるだろう、という楽観的予想は月曜日に見事に破壊され、いよいよ日本に出発する日が近づいてきたのにどうしよう、と頭を抱えることになった。
なんとかして間に合わせることはできないだろうか。
こうなったら仕方がない、西洋医学の強力な薬で乱暴に抑え込むしかない。
それでかかりつけの医者に緊急で診てもらい、ステロイドと抗ヒスタミン剤と抗生物質を処方してもらった。
抗生物質は歯の治療後に飲まなければならないけれど、ステロイドや抗ヒスタミン剤のような類の薬は、もう何十年も口に入れていない。
だから怖かった。
怖かったけど、とにかく日本に行くと決めていたから飲んだ。
すると一気に脳がぼやけ始めた。
まるで軽い麻酔をかけられたみたいに、身体中がふわふわと浮き始めた。
その晩は、5日ぶりに、数時間続けて眠ることができた。
咳もあまり出なくなった。
けれども今度は生きている実感がなくなってしまった。
食欲も便意も失せて、ただ目を開けているだけの、そしていつだって横になったら眠ってしまう、ダンダラ人間になってしまった。
咳は止まったし痛みも感じないのだけど、働くこともできない。
ああ、これはもうだめだ、間に合わない。
とうとう諦めて飛行機の便を変更した。
もぬけの殻状態が恐ろし過ぎるので、抗ヒスタミン剤の摂取を中止した。
副作用である痺れたような感じはかなり抜けてきたけれど、今もまだ平常とは言えない。
右耳が詰まって、高音に歪みがかかって聞こえるようになった。
だからピアノの右手の音がすごく不快。
夫の漢方と鍼だけに戻し、今週の月曜日からは普通に教えている。
金曜日まで教えて、土曜日の朝に飛ぶ。
術後の抜糸も終え、今はなんでも食べられるようになった。
体調は万全とは言えないけれど、夜もちゃんと眠れているし、日に日に元の自分に近づいてきている。
あと3日、今度こそ間に合わせるぞ。
かあちゃん、どないしてしもたん?
わたしが朦朧としていたとき、空と海は外遊びもせず、こんな感じでじーっとしていた。
家の中にこもっている間に、外はすっかり春になっていた。
ポンちゃんも🌸
突然ですが、こんな嬉しいことも。
冬の間、部屋の中でずっと、たくさんの実をつけてくれてた金柑さん、ありがとう!
前歯が一本、スコーンと抜けたまま、土曜日に旅立ちます!