ウィンザー通信

アメリカ東海岸の小さな町で、米国人鍼灸師の夫&空ちゃん海ちゃんと暮らすピアノ弾き&教師の、日々の思いをつづります。

空の災難と感謝祭

2018年11月28日 | 家族とわたし
空(くう)の様子がおかしくなったのは、先々週の金曜日だった。
海(かい)にちょっかい出されても、フニャ〜とか言って逃げてばかりだった空。
さすがに深く噛まれて痛かったりした時は、フーッと威嚇することはあったけど、やんちゃな弟に手を焼く兄、という感じだった。 
その空が突如、海を追っかけ回し、それだけじゃなくて手(?)を出し始めた。
そんな空は初めてだったので、夫とわたしは唖然として見ていた。

空ちゃん、性格変わったんか?
それとも、もうこれからは我慢せえへん、ぼくのやりたいようにやらせてもらうってことか?

とにかく金曜日の朝から突然変異した空の態度に、海はかなりショックを受けたみたいだった。
それでなくても内弁慶で、ほんとは怖がりの海だから、これはこれで困ったなあと思っていた。

ところがその翌日の土曜日は、なぜか空の元気が失せて、外遊びもせずにずっと丸くなって寝ていた。
ただ寝ているだけではなくて、すごく落ち込んでいるような感じだったので、昨日の今日ということもあって、もしかしたら何かあったのかな?と心配になり始めた。

日曜日になると、今度は眠りはしないのだけど、少しびっこを引いて歩いていることがわかった。
調子が悪いのは左の後ろ足で、それが怪我なのか打撲なのか知りたかったけど、毛が邪魔をしてよく見えない。
とりあえず食欲はあるし、歩きづらいというほどではないので、様子を見ることにした。

翌月曜日、そして火曜日になると、びっこが目立つようになってきた。
さらに食欲も落ちてきた。
もうこれは放っておけない、獣医さんに診てもらわなければと思ったけど、新しく通うようになった動物病院はホリスティックなので、まだ一回も診てもらっていない空はまず、血液検査を受けなければならない。
以前、海が大怪我をした時に診てもらった時の支払いが、ものすごく大変だったのがまだ記憶に新しい夫は、なかなか連れて行こうと言わない。
もちろん少しでも早く連れて行くべきで、それは夫もそう思っているのだけど、先立つもののことを考えると踏み切れない。

そんなこんなでぐずぐずしている間に、悪化してしまったらどうしようと、考えるだけでゾッとすることを想像してしまったり、
そうかと思うと、普段からすごく健康なので、もしかしたら自己治癒が可能かもしれないと、勝手にいい方に考えてみたり。

でも、そうはならなかった。
水曜日の朝、空のびっこは相当酷くなり、傷んでいる部分がとても腫れてきていた。
急いで病院に電話をかけ、予約をした。
その時初めて、患部から血が流れ出してきて、どこに傷があるのかがわかった。

初治療にビビって、部屋の隅っこに隠れてる(つもりの)空。


この診療台に乗せることができるだろうか。


犬と猫と馬の鍼灸のツボの図。


漢方薬がずらりと並んでいる。


治療のために患部の毛を剃ると、傷の様子がはっきりと見えた。

「これは多分、野良猫かアライグマ、もしくはスカンクに噛まれた痕だと思う。猫だとまだいいんだけど、アライグマやスカンクだったら狂犬病にかかっている恐れがある」

体温がかなり高かったので、抗生物質の注射を打ってもらい、血液検査のための採血もしてもらった。
幹部の傷を徹底的に消毒してもらい、巻いただけで石膏みたいに固まる特殊な包帯を巻いてもらった。

「野生動物に噛まれている可能性もあるので、空は今日から7日間、誰とも接触しないよう隔離しなさい」
「野生動物管理局から連絡があると思うので、その際はきちんと答えるように」

えらいことになった。
でも、とにかく治療をしてもらえてよかった。
家に戻る道中、完全に隔離するなら二階の、普段は誰も使っていない治療室兼客部屋しかないな、と考えた。
怖がりの空が、二人の看護師に押さえつけられて治療を受け、採血され、気がつくと後ろ足に変なものが巻かれてしまっているのだから、パニックにならないはずがない。
ひとまずケージから出して、部屋の中に入れたのに、あっという間にわたしの足元をくぐり抜け、外に出てしまった。
そしてそのまま地下室に真っしぐら。

最悪だ…。

地下室は雑菌だらけだ。
そして暗くて寒い。
一人で家に居る時には、怖くて降りていけないようなところで、110年前から全く何も改装されないままの石壁と、積もり積もった砂ぼこりが、傷を負って熱がある空に良いわけがない。
しかも天気予報では、水曜日の夜からガタンと気温が下がり、零下10℃になると言っていた。
空は完全にわたしに怒っていて、わたしの声を聞いただけでサッと隠れるか、とんでもない所に移動する。
熱がまだあるだろうに、傷の包帯が外れてしまったらえらいことになるだろうに、ああどうしよう…。

実はわたしもフラフラだった。
空の様子がおかしくなり始めた先々週から、夜中に様子を見に行ったりして、まともに眠れない夜が続いていた。
今年のThanksgivingは、当初はマンハッタンにある夫の両親のアパートで、親族揃ってお祝いするはずだったのが、急きょ各自の家ですることになったのだけど、空の怪我騒動があったのでとても助かった。

長男くんに感謝祭ディナーの買い物と料理を、次男くんに餅つき器で餅作りをお願いして、わたしはただ粒あん作りをすればよいだけにしてもらった。
感謝祭ディナーというと七面鳥の丸焼きにクランベリーソース、マッシュポテトにグリーンサラダ、みたいなのが定番だけど、
今回はもう外れついでに好きなものを食べようということにして、しゃぶしゃぶ鍋をみんなでつつき、夫が作った芽キャベツ炒めをおかずにして、デザートはあんこ餅と夫が焼いてくれたパンプキンパイ(グルテン&乳製品フリーと普通のやつ)で〆る。
直前までフラフラだったのに、やっぱり家族揃っての食事パワーってすごい、食欲まで戻ってきた。

夫が作ってくれたパンプキンパイと芽キャベツ炒め。




次男くんがついてきてくれたできたてほやほやのお餅。


乾燥ナツメヤシを甘みに使って炊いた粒あん。



地下室で二日間過ごした空を、夫と二人でなんとか誤魔化しながら二階に誘導して、やっと隔離部屋に入らせることができた。
地下室ではとうとう一度も近づかせてくれなかった空だったけど、日頃からお気に入りだった椅子の上で、暖かな日差しを身体中に受けて気持ちがほぐれたのか、背中を撫でさせてくれた。
ありがたいことに、足の包帯も外れていなかった。
熱も下がっていた。
一緒に部屋の中で過ごしながら、空にいろんな話をした。
丸三日間、空はまるでこれまでずっとそうしてたかのように、不満を言うでもなく、脱出を試みるでもなく、運ばれてくる食事を食べ、ウンチをし、あとはひたすら眠るか、わたしや夫と遊んだ。

そして週明けの月曜日に、空はもう一度獣医の検診を受けに行った。
大雨が降り、なぜかどこの道もすごく混んでいて、しかも変な運転をする車が多い日だった。
待合室で45分も待たされて、さらに診察室に入ってさらに20分待った。

やっぱりここに隠れる空。


ありがたいことに熱は下がり、傷の治りがとても早かったので、もう元の生活に戻してもいいと言ってもらえた。
狂犬病予防の注射を打ってもらい、あとは4週間後に送られてくる血液検査の結果を待つばかり。
「確かに怪我をしたり命を落としたりするリスクは高くなるけど、猫生の質を考えると、外遊びができる猫は幸せだと思う」と、
これからはどうするの?と聞かれて、「危険を承知で、そして失うことの悲しみを覚悟して、やっぱり外にも出します」と答えたわたしに、獣医はそう言ってくれた。

このことについては一生かけても答えが出ない、本当に悩ましい問いかけだと思う。

さて、やっと自由の身になって戻ってきた空に、なんと海が威嚇した。


声を紹介できないのが残念だけど、これまでに聞いたことがないような音で威嚇しながら、空から離れた場所から睨んでいる。


一難去ってまた一難…。
どうした海?
空を忘れたか?
それともまさか…動物にしかわからない異変を感じてるのか?

いや、それはないと思う。
威嚇されてもなお、ただただ平常心を保ち、仲良くしようとじっと待っている空はいつもの空だ。


そして三日経った木曜日の今日、疲労と寝不足から始まった膀胱炎も、やっと今日あたりからかなり治ってきた感じがする。
海もやっと、変な音を出さなくなった。


野生動物管理局から電話がかかってきた。
「アライグマに噛まれた」ということですがと、当時の状況を詳しく聞かれた。
何に噛まれたかは、実際に見ていないのでわからないし、何日の何時頃というのもはっきりしない。
けれども、今日までの経過を見る限り、とりあえず狂犬病に罹患した可能性はかなり低いと思うし、獣医の所見も同様だと伝えた。
もしかしたらもう二度と外に出してはいけないと言われる可能性もあったので、すごくドキドキした。
とりあえずあと3週間様子を見て、また連絡して欲しいと言われた。

こんなふうな結末を迎えられたことが本当にありがたい。
今夜のお祈りには、特大の感謝の気持ちを込めようと思う。


ーおまけ写真ー

愛車のこととなるとなんでもやっちゃう長男くんは、今やそんじゃそこらの修理工さんより丁寧な仕事ができるのだそうだ。


修理はもちろんのこと、屋根を交換したり、幌を外したり、パーツや道具を注文してはコツコツやっている。




歩美さんが持ってきてくれた椎茸の木。今はカエデの爺さんにもたれて日向ぼっこ。