桜咲く頃になると、大抵あいつらがやってくる。
「カラオケ行こうぜ」と誘われるのだ。
私はカラオケが好きではないのだが、新宿でいかがわしいコンサルタント業を営むオオクボと横浜で地味に行政書士事務所を営むシバタ(通称ハゲ)は、私が断ると、2人とも泣くのだ。
だから、人助けのために、年に1回は受けてやっている。
おおっぴらに言いますが、私はバラードが好きではない。
特に、思い入れたっぷりに歌う森山直太朗氏の「さくら」が苦手だ。
異論はございましょうが、とにかくダメ。
いい曲だと思ったことがない。
だが、カラオケに行くと、オオクボとハゲは、必ずこの曲を入れる。
しかも、かなり上手い。
ちゃんと仕事してるのかい?
しつこく言いますけどね、私はカラオケが好きではない。
特に、素人の過剰な感情移入のバラードが苦手だ。
その点、オオクボとハゲのバラードは過剰というほどではない。
昔は2人とも歌が上手いという印象はなかった。
きっと、凝り性で負けず嫌いのオオクボは、懸命に一人カラオケで練習したのだろう。そして、ハゲはカラオケ教室に通ってハゲんだに違いない。
しかし、バラード嫌いの私からしたら、その時間はとても苦痛だ。
ロードって長い歌だよね。時代? 地上の星? 乾杯? 時間よ止まれ? ツナミ? 純恋歌?
退屈なんですけど。
君たちは、本当に歌が上手い。尊敬するわ。そこまで正確に音程がとれるなんて、相当な才能だよね。
だけどね、俺はダメだな。「さくら」を歌われても、全然サクラの情景が浮かばないんだよね。もっと、アッサリ歌えないの?
たとえば、つじあやのさんの「桜の木の下で」みたいに、さらっと歌えないの?
俺は、この歌の方が、サクラが目の前に鮮やかに浮かぶんですけど。
感性の違いですよね。
あるいは、その歌が売れたか売れなかったか、で判断してるのか?
オオクボとハゲの歌うバラードは、上手いけど退屈だ。
そんな風に退屈なオオクボとハゲだが、必ず私が歌える曲を1曲入れてくれる。
それが、ありがたい。
「ウルトラソウル」だ。
そして、カラオケのメニューには、なかなかないのだが、サイモン&ガーファンクルの「冬の散歩道」も一緒に歌ってくれる。
a hazy shade of winter を「冬の散歩道」と訳してしまうセンスのなさは絶望的だが、この歌自体は素晴らしい。
私は、最高の詩人はジョン・レノン氏だと思っている。
ビートルズ時代から、簡単な英語のフレーズを使った詩を書かせたら、彼を超える人はいないと今も思っている。
そして、その才能に一番近い人がポール・サイモン氏だとも思っている。
彼も簡単な英語表現しか使わない詩人だ。
a hazy shade of winter は、2分少しの短い曲だ。
ヒップホップが主流になって、言葉をこねくり回す歌が増えた最近は一曲が長くなった。
それはそれで、きっと言葉を大事にしている結果なのだとおもう。
ジョン・レノン氏やポール・サイモン氏の歌は短いものが多い。
短い中で、凝縮した情景を歌っている。
サイモン&ガーファンクルをご存じない方には、なんじゃそりゃ、だろうが、この曲は、彼らにとっては珍しくロック色の強い歌だ。そのビートと歌詞が私の心にドンピシャに突き刺さった。
だから、今も私は歌っている。
時間、時、いま
たくさんの時が経ってしまって 木々も枯れてしまって
空から射す光は冬の霞んだ影を映し出している
夢は諦めちゃダメだよ
必ず春はやってくるんだ
草も育つ 作物も実をつける
木々も枯れてるけど 見渡せば ひとかけらの雪は残っているけど
僕らには 必ず春がやって来るんだ
私のセンスのない意訳では伝わらないかもしれないが、素晴らしい詩人だと思う。
サイモン氏がこの歌に込めた思いを考えるとき、私はいつも、言葉というのはすごいな、と思う。
簡単な英語の詩の裏に、表現していない言葉が想像できるのだ。
冬があるから、春がやってくる。その過程を、サイモン氏は「冬の霞んだ影」と表現した。
たった2分の短い歌だけど、この詩を見るだけで私は感動してしまうのですよ。
話は違うが、私は、昔の歌は良かったよね、という意見が好きではない。
そう断定する人は、おそらく今の歌を聴いていないと思う。
聴いていないで、単なる反発で、今の新しい歌を否定する人だと思っている。
オオクボやハゲも今の歌を聴かないと言っている。
「だって、響いてこねえんだもん」
ONE OK ROCK を聴かないのか。Maroon5 やBuruno Mars は聴くに値するアーティストだと思うけど。
こう言うと、若がっている、と多くの人は反発するのだが、聴かないで反発する方が、オレには格好悪く見えるよ。
聴きもしないで、響くも響かないもないだろう、と私などは思う。
「昔の歌は良かったよね」
カラオケ好きの人たちは、そんな感覚でカラオケを歌っている。
カラオケの中では、時が止まっているから、彼らはカラオケが好きなのかな?
まあ、それはいい。
話を戻すが、そんなオオクボとハゲでも、カラオケの最後には、a hazy shade of winter をアカペラでハモってくれるのだ。
この星には70億人以上の人が、生息している。
しかし、カラオケの最後に、サイモン&ガーファンクルの a hazy shade of winter を一緒に歌ってくれるやつは珍しいのではないか。
I look around
Leaves are brown
There’s a patch of snow on the ground
この曲で、最後一緒に盛り上がるのが、私の幸せ。
その現実に触れるたびに、オレは友だちに恵まれたんだな、と思う。
本当に、そう思う。
(ところで、『ウルトラソウル』も『a hazy shade of winter』も古い歌だよね。あんたも結局、古い歌が好きなんだろ、という抗議に対しては、チョットなに言ってるかわからない。私だって、ONE OK ROCK やBuruno Mars が歌えたら歌ってますよ。歌が下手なんだもん!)
ありがとうございます。
super beaverは知りませんでした。
調べると武道館公演を即日ソールドアウトした実力だそうですね。
今度聴いてみようかと思います。