白鷺だより

50年近く過ごした演劇界の思い出話をお聞かせします
     吉村正人

白鷺だより(189)「あすなろ物語」

2017-01-16 07:07:46 | 映画
  あすなろ物語

「相棒」の再放送を見ていたら懐かしい歌に出くわした 
見たのは相棒シーズン10及川光博演じる神戸尊最後のシーズンで「あすなろの唄」というタイトルだ
バイオ技術で石油を精製する研究にうちこんでいる研究所が舞台で被害者の教授がいつも口ずさんでいるのが「あすなろ」という歌だ 
こんな歌である

あすなろ あすなろ あすはなろう
おやまの だれにも まけぬほど
ふもとの やまでも みえるほど
おおきな ひのきに あすはなろう

あすなろ あすなろ あすはなろう
とうげを こえる ひとたちを
なつは こかげに なるように
おおきな ひのきに あすはなろう

あすなろ あすなろ あすはなろう
いろんな ことりが とんできて
たのしい うたの すをかける
おおきな ひのきに あすはなろう

あすなろ あすなろ あすはなろう
あめにも かぜにも まけないで
ぐんと そらまで とどくほど
おおきな ひのきに あすはなろう


この歌を愛唱歌にしていた被害者の教授も犯人の共同研究者も結局ひのきにはなれなかった

この曲は昭和37年NHKの「みんなの歌」で発表された「あすなろ」(翌檜)という歌である 
真理ヨシコとダークダックスが歌いました 作詞 坂口淳 作曲 渡辺今朝蔵

僕はこれより7年前に封切られた東宝映画「あすなろ物語」を見ている 
小学生の低学年の頃だ 1955年 昭和30年の時だ
この映画に中で主題歌といおうか預けられたお寺の娘(久我美子が歌ったのも「あすなろの唄」である
メロデイはシューベルトの菩提樹に乗せて

ひのきによく似た あすなろは
来る日も来る日も思い続ける
あすこそ あすこそ 檜になろう
あすなろ あすなろ あすはなろう
あすはなろう

遠い遠い 山の奥で
冷たい冷たい 雪の夜
檜になった 夢を見た
明日こそ 明日こそ 檜になろう
あすなろ あすなろ あすはなろう
あすはなろう

この映画は井上靖の原作を黒沢明が脚色して長らく彼の助監督をやっていた堀川弘通の初監督を祝った作品で 
主役の鮎太は12歳 久保賢、15歳 鹿島信哉 18歳 久保明
と成長していく 
この映画でデビューした久保賢はのちに久保明の実弟で後に山内賢として日活のスターとなる

エピソード1(鮎太12歳
訳あって祖母と二人でくらしてきた12歳の鮎太(おばあちゃん子であった僕はこれだけで感情移入出来た)、その家に祖母の妹の子である冴子(岡田茉莉子)がやって来る 冴子は中学生と映画に行って女学校を退学となり祖母の家に引き取られてきたのだ ある日冴子に頼まれて肺の病気の治療のためこの村のはずれで療養している大学生(木村功)に手紙を届けに行き 彼にあすなろの木のいわれを教えられる
ちゃんと勉強しなければダメだ 自分に勝たなきゃダメだとあすなろうの木を示し これは檜に似ているが檜ではなく 明日は檜になろうとしているあすなろ(翌檜)という木だ
この木は永久に檜にはなれないが君は勉強して檜になるんだと諭され勉強に精を出す
それからも冴子に頼まれ 何度も手紙のやり取りをやらされるが まもなく二人は雪の中で心中して果てる

エピソード2(鮎太15歳)
三年後祖母は亡くなり鮎太は寺の住職に世話になることになった 寺には気の強い娘雪枝(根岸明美)がいて勉強は出来ても気の弱いいじめられっ子の鮎太を励ましはっぱをかける 鉄棒が出来ない鮎太に猛練習をさせ 運動会で「大車輪」を成功させ上級生を打ち負かす(懸垂も出来なかった僕が鉄棒をやることのなったのはこの映画が原因だ)自信がついた鮎太は雪枝に言い寄る男と殴り合い撃退した 
鮎太が僕は「あすなろ」だという そんな鮎太に明日は檜になろうとする「あすなろ」が好きだと「あすなろの唄」を歌うのであった

エピソード3(鮎太18歳)
鮎太は東北の高等学校に入り未亡人が営んでいる下宿に入る そこには娘・玲子(久我美子)がいて下宿生たちは女王を扱うような取り巻きであった やがて挑発的で奔放な玲子の態度にすっかりのぼせ上ってしまう 間もなく玲子に家の苦境を助けるために金持ちの男に嫁ぐ話が持ち上がる そんなある日玲子の冗談を真に受けた鮎太は石垣の上から飛び降り倒れこむ 驚いた玲子は鮎太に接吻を浴びせた 翌日鮎太は玲子の計らいで引っ越すことになった 二人は明日は檜になろうと誓い合って別れるのであった

前二つのエピソードは幼い僕にもストレートにテーマが伝わってきて感動したものだ
三つめの話は原作にはなくツルゲーネフの「初恋」からのパクリであった

堀川監督は今までの黒沢式の撮影スタイルで演出したためフィルムの使い過ぎて大目玉をくらい成瀬巳喜男監督の助監督に落とされ経済的で無駄なく仕上げる勉強からさせられた