白鷺だより

50年近く過ごした演劇界の思い出話をお聞かせします
     吉村正人

白鷺だより(262)役者の品格~森川信~

2017-09-13 15:21:48 | 人物
役者の品格~森川信~

うむ

森川信は誰にでもチンチンを自慢げに見せるのが趣味だった 江利チエミも清川虹子もしょっちゅう見せられたらしい 世界のマーロン・ブランドのチンチンも希代の遊び人伴淳三郎のチンチンも散々見て来た清川虹子が「立派な」一物と褒めるのだからそれは立派なものに違いない それに彼は何もしないでそれを勃起させる術を知っていて気が向いたら立てて舞台に出たこともあったらしい さすがは戦時中地方公演にいって(福岡)その町にあった某百貨店のデパート孃全員を何とか姉妹にさせたという伝説の持ち主だ

「女に金なんか使うな。女に金を使ってもらっての一流だ」


なんだ品格ではなくチン格の話かという方もいると思うがこれは前説である

ズーッっとコマで「サザエさん」を演ってきたチエミが売り出し中の花登筐と組んでの「昔の恋の物語・お染久松」「昔の恋の物語・八百屋お七」に次いでの第三弾「昔の恋の物語・じゃがたらお春」を昭和44年11月新宿コマに次いで翌45年梅田コマで再演した時のこと

舞台途中で森川信が「嫁が危篤だ」と無断で東京に帰ってしまう事件が起こる
共演者でゲストだった中村嘉葎雄は「ヤッパリ浅草出身の役者には品格がねえ」と怒ってしまい 落ち目とは言え「役者の道を志したからは例え親の死に目にも女房子供の死に目にも会えないのは当たり前」の梨園の御曹司に言われては仕方がない チエミは奥さんが亡くなっても泣き通し戻って来ようともしない森川を一座から「首」にする 「サザエさん」の「浪平」役からずーっと一緒だった森川をである 
以後浪平の代役は佐山俊二が務めることになる

この事件について清川虹子はその著作「みんな死んじゃった」でこう書いている

 奥さん危篤の電報を持って帰りかける森川に「もっちゃん 気持ちは判るけど明日の朝まで待って 代役を立てて帰れるようにするから」と説得したときは頷いて納得したんです ところが家に電話しながらワァワァ泣いていると思ったら 皆が止めるのも聞かずそのまま帰ってしまったのです ・・・森川さんは何日たっても帰ってきません 奥さんが亡くなってからも そのまま泣いてばかりで とうとう私たちの舞台には復帰しませんでした 戦前には大阪で森川信一座の座長として活躍していた人ですし 舞台に穴を空けることがどういうことなのか本人が一番知ってるはずなのに帰ってこなかったのです
よっぽど奥さんの事を愛してたんでしょうね  でもそれからは二度とチエミとの共演はなくなりました
(中略)森川さんが突然血を吐いて倒れたのは大船の撮影所で「フーテンの寅さん」の撮影をしている最中です あの人は「寅さん」のおいちゃん役を演じていましたからね
自分では心臓が悪いと思っていたのに死因は消化管出血でした 倒れると同時に昏睡状態におちいり そのまま亡くなったんです 
寅さん一家に見送られながら
亡くなる前に私は病院に駆け付け「もっちゃん、もっちゃん!」と叫びました
そしたらその声にかすかに反応したようも見えました 私の声は大きいですからね
でもそれっきりでした あとで森川のお母さんも「もう一度チエミさんとださせたかった」と何度もおっしゃっていました 実はチエミも亡くなる一か月前くらいに「もういいよね
今度森川さんと一緒に仕事しようよ」そう言っていました その矢先の死でした 残念でなりません

 森川はそれ以降MR新コマの異名の如くチエミ公演は外れても46年2月恒例喜劇人まつり「ずっこけ悪党伝」で主役 8月「だましだまされ物語」で主役 12月年忘れ喜劇公演「旅姿・花の東海道」で主役を張りこれが新コマ最後の作品となった

一方チエミは45年花登筐「喜劇 恋と私と焼き芋と」46年「白虎の恋」47年「恋くるま」の公演を終え次の企画はかって森川が推薦した「春香伝」で森川復帰を考えていたが彼の死で果たせなかった

「昭和48年新宿コマで「春香伝」が上演された チエミさんの公演にはなくてはならなかった森川さんが生前勧めてくれた題材を彼の一周忌のあたる3月に稽古が始まった」 

森川は「男はつらいよ」フーテンの寅シリーズのおいちゃん役を1969年から亡くなる1972年3月まで計8本出演した

清川虹子曰く「とにかく情のある人で 人の芝居の邪魔をしない 自分の出るべき場所は心得ているほんとうにいい」役者さんでした  
 



 
  
 

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1 コメント

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Unknown (リンドウ)
2022-08-05 04:44:17
素晴らしい
ありがとうございます
名優気になりました
貴重なブログでありまする
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