白鷺だより

50年近く過ごした演劇界の思い出話をお聞かせします
     吉村正人

白鷺だより(450) 三代目猿之助の死と「新・水滸伝」

2023-09-16 16:21:53 | 観劇

三代目猿之助の死と「新・水滸伝」

 この9月13日、三代目猿之助が死んた 83歳だった

奇しくも彼が残した「新・水滸伝」を南座で観劇したばかりであったので驚いた 

猿之助をはじめて観たのは1980年梅田コマの植田紳爾作、演出「不死鳥よ 波濤を越えて」と戸部銀作構成「ザ・カブキ」の二本立てであった 初めての東宝系の劇場公演であったため連日キャパ2000の客席は埋め尽くされた ベルばらの植田紳爾と澤瀉屋 大ヒットだった 翌年もコマグランド歌舞伎と銘打っての公演を行なったが出し物が「十二時忠臣蔵」と「ザ・カブキパートⅡ」と地味で興行的に失敗、その翌年1981年も同じくコマグランドカブキと銘打っての榎本滋民作「頼光鬼退治」と「ザ・カブキパート3」の二本立てをうったが惨敗した 我々スタッフも扇雀のコマ歌舞伎は経験していても、あれは普通の芝居と変わらないし本格的な歌舞伎公演は全く手が出ず持ち込みのスタッフのいいなりだった苦い経験をした この猿之助公演はその3年の短命で終わる 

その時猿之助の側にいたのは藤間勘十郎と離婚調停中の藤間紫だった

それからしばらくして(1986)新橋演舞場で梅原猛作、スーパー歌舞伎「ヤマトタケル」が発表され大当り、コマの制作陣を悔しがらせた

1963年三代目猿之助襲名時に初代猿翁と父二代目段四郎を相次いて亡くし、後ろ盾を失くし「梨園の孤児」とまで言われた時代を経て 喜熨斗(た)サーカスと揶揄されても「ヤマトタケル」「オグリ」「新・三国志」などのスーパー歌舞伎、義経千本桜「四の切り」以降続けている宙のり5000回のギネス記録と数々の栄誉を得ている最中、突然2003年脳梗塞で倒れ 闘病生活、10年前の南座における「二代目猿翁襲名、四代目猿之助襲名、九代目中車襲名披露口上」が三代目の最後の舞台となった

さて今月の南座の「新・水滸伝」を観た 三代目が倒れて舞台に立つことが出来なくなったが自分が出なくても新作を作ろうと若い横内謙介を使って立ち上げた21世紀歌舞伎公演の一つで2003年テアトロ銀座が初演である 市川右近(現右團次)を主役に澤瀉屋若手中心の舞台で2011年中日劇場、2013年新歌舞伎座と再演され今年「あの事件」がなければ四代目猿之助主演、演出で歌舞伎座で上演予定の筈だった 逮捕された事で、結局主演は中村隼人で横内謙介作、演出 杉原邦夫 演出で上演となった 今回の南座はその再演である

不正と賄賂で汚れた世の中の汚れをなくそうと梁山泊に集まった悪党たち、当時の澤瀉屋のメンバーの人気者が女形に多く怪我の巧妙というか男女同権の今風になった

主役林冲は売れっ子中村隼人、今やってる立ち回りが出来ない「大富豪同心」とは大違いの見事な立ち回りを見せる

梁山泊に立て籠もった悪党どもの親分がやっと釈放された まさか今回の舞台の演出まで手を出したとはおもえないが……

三代目は後を託した筈の四代目が起こした事件の顛末を知ってか、知らずか静かになくなったが今後中車が團子の後見人となり、猿之助を継がすのか(香川照之の母親浜木綿子の悲願でもある) あるいは猿之助が( 猿翁がそうだったように)が表舞台には立たず 澤瀉屋の芝居の制作、演出を全部引き受けるのか? 

 

 


白鷺だより(449) ちんぷんかんぷん劇場旗揚げ公演

2023-09-11 09:43:49 | 観劇

ちんぷんかんぷん劇場旗揚げ公演

2023年9月9日 ちんぷんかんぷん劇場が初日を迎えた

歌子劇団のレギュラーでよく助けてくれたちんぷんかんぷん

普段は二人で「南京玉すだれ」をネタにコントをやっている「ちんぷんかんぷん」が待望の自分たちの劇団の公演の旗揚げだ これも僕が演出した日本香堂の芝居のゲスト主役で出てくれた加藤茶が彼らの公演に出演してくれたから実現出来たと言えよう 他に紅壱子(今回は監修も担当)、曽我迺家八十吉も巡業のレギュラー組から参加 演技面で協力してくれた

 彼らの力にしては少し大きい目の劇場(クオレ大阪中央観客1000名程) だったのであまりにもガラガラだったら寂しいなと思っていたが杞憂に過ぎなかった 30分程前に着いたにも関わらす大勢の人々が並んでいる 全席自由席だったので「いい席」を求めてみな早い目に集まったのだ

さてその出来栄えはどうか 演技力のあまりない二人だ どうなることかと心配したがこれも杞憂に終わった 萬ちゃん(紅壱子)に頼んで二人に「合格!」と言って貰ったように「観られる芝居」に出来上がっていた これには驚いた

ゲストの加藤茶をいれこんでの口上 二人が何者か知らない客が多い中、コント集団ちんぷんかんぷんを前面に出した方が良かった 

第一部は現代劇 見高光義 作「60秒の奇跡」

 新喜劇の森冬彦が狂言回しの浮浪者の青年、黄泉の世界から来た女に洋あおい ミュージカル仕立にしたのが正解で洋あおいが何でも演りたがりの性格というのが上手い、ハワイアンからOSKのショウまで「いっぺんこれがしたかった」の乗りで「南京玉すだれ」まで挑戦した(ちんぷんかんぷんがメロメロだったので思わす「何年演ってんねん」とつぶやく)のには驚いた 理不尽な死を迎えた人々は最後に1分だけ家族とお別れが出来るという その家族探しを仰せ使った青年は果たして皆んなにお別れをさせられるのだろうか ドンデン返しがうまく効いている 森がいつもの力の入った芝居ではなく肩のチカラを抜いた芝居で狂言回しを無難にこなした 最後のオチがもうひと工夫

第二部は時代劇 見高光義 脚色 「勘八身代わり仁義」 泣いて笑って殺陣まつり候(たてまつりそうろう)

 大衆演劇のネタらしい、よく見るとタイトルロールは勘八だ この役はどちらかというと芝居が苦手な国米の役だ 見高は熊五郎? 果たして

八十吉の大前田英五郎は苦手な殺陣も無難にこなし大親分の貫録充分

紅壱子は熊五郎の目が見えない母親 涙を誘う

ちんぷんかんぷんのもう一つの魅力「殺陣」 あまりにもカラミが多く「手」も多い、カラミを買い過ぎたか 見せ方の工夫が足りない

加藤茶は宿屋の使用人 見高、国米と三人でドリフ仕込のコントを披露する 最後はタブーの曲で「ちょっとだけよ〜」がオチ なるほどこれぞ鉄板ネタ、これぞホンモノ 少々合わせ稽古不足が気になる( 悲しいかな、ちんぷんかんぷんの未熟さが際立つ)  今までどれだけ「いい加減なコント」を演ってきたかモロに判る よく共演出来たものだ

折角加藤茶を呼んだのだったらこの三人だけじゃなく他のメンバーとのカラミがあっても良かった 

ともあれお客様には喜んで貰った 

合格です