白鷺だより

50年近く過ごした演劇界の思い出話をお聞かせします
     吉村正人

白鷺だより(376) その時は笑ってさよなら 役者 入川保則

2020-11-25 07:45:24 | 人物
  その時は笑ってさよなら 役者 入川保則



その著作「その時は笑ってさよなら」より抜粋

僕は今71歳ですが 役者としてのピークは65歳からの2、3年でした
これをいうと皆さん驚かれるのですが50年以上役者をやっていて65歳でようやく自分が納得して演技が出来たんです そしてその絶頂を味わうことを出来たのは2、3年程でした 65歳と言えば体力的にもパワーが落ちておらず、それでいて台本が良く見える 私はそれを「周りが見える」と言いますが要するに台本に込められたスジやカラミ、キャラクターが全部よくわかる 芝居の全体をよく理解した上で自分の役ドコロをきっちり押さえ思う存分その役を生きられるようになった それまでは自分の役を「演じて」いたが65歳からはこの役を「うまく生きられるかな」と感じられるようになったんです
中村勘三郎さんは役者に対して「あいつ、化けやがったな」と感想を漏らすことがありましたが 僕も65歳になってようやく「化ける」ことが出来たんです
本当は40代で化けなきゃいけなかったんですが20代は軟弱で、30代は酒色に走り
40代は女色に溺れ、50代は鳴かず飛ばず、60代になってようやく目覚めたんです
ところがそうなってみると袖で出番を待っている間 震えが止まらなくなった
今までは出番前までシレッと話ていてキッカケで出て行き演技が出来たのに
舞台の上でも客席が良く見え、また見る余裕もあったのに65歳からは見えなくなった 演技する苦しさ、恐怖感‥‥上手く表現出来なうがそんな物を感じるようになって袖で武者震いが止まらなくなっただと思います
しかし舞台に一歩踏み出せばそんなものはピタリと止まります ウケを取るべきトコロで受けようという気持ちも無くなった ウケようとウケまいと関係ない 良い悪いの評判もアタマから気にならなくなりました 
もちろん監督や演出家のツボは外しません、その上で「自分が役の中で生きている」と納得出来る演技が出来るようになったんです
この上ない爽快感と愉しさでした こんな境地があるなんて知らなかった
どんな芸でも「名人になればなる程震える」と言いますがひょっとしたら俺もその領域に達したのかな、なんてね
とにかくこんな2、3年を味わえたのだから何の心残りはありません
こんな僕が鳴かず飛ばずだった50代に戻り癌を宣告されていたらジタバタするでしょうね でも僕は精一杯な事をやって自分なりに達成感を味わえた
「どうぞ何時でもお召になって下さい」と本心から言えるのはこれがあったからです

僕はこの絶頂期に入川さんと共に芝居が出来たことを誇りに思う

僕個人的な思い出はある芝居で座敷から降りて来たヤクザ者二人が喋りながら旅草鞋を履き出て行くシーンの稽古で小道具を呼び草鞋を用意させ ずーっと草鞋を履きながらの稽古をし 本番では客に「なるほど草鞋ってあんなふうに履くのか」と納得させ、日によってその手際の良さで手が来る時もあった


入川保則
関学高等部より関学へ 僕の大先輩なのだ
昭和35年 大島渚のTVドラマ「青春の深き淵より」に主役に抜擢
その年の芸術祭大賞を受賞し注目される
関学中退して上京
その後 吉田喜重の「水で書かれた物語」で岡田茉莉子の息子役に抜擢
続いて篠田正浩の「沈黙」にもかくれキリシタンの重要な役で出演
以降 TVドラマ 映画で脇役として活躍 
三度の離婚歴があり 三度目の妻はホーンユキ

平成22年藤山直美の巡業中 沖縄にて鼠径ヘルニアの手術を受けた際 精密検査で
直腸がんが発見され、癌は既に全身に移転しており医師に「余命半年」を宣言されるが延命治療はしない事を決意 映画を一本主演で撮ることを目標にする

その新聞がこれだ



そして遺言書というべき「その時は笑ってさよなら」を発表



そして念願の主演映画「ビターコーヒーライフ」を撮り終え



個人的の映画試写会を終え
平成24年12月24日入院先の病院で死去



白鷺だより(375) 扇雀はんとコマ歌舞伎(3)

2020-11-20 16:03:55 | 演劇資料

   扇雀はんとコマ歌舞伎(3)



昭和41年  第21回コマ歌舞伎
(1) 作・演出 北条秀司 「白鷺屏風」
(2) 構成・鞍舞 藤間勘寿郎 「雪月花」
花柳喜章 春日野八千代 井伊友三郎 花柳武始 故里明美

昭和42億9月 第22回コマ歌舞伎
(1) 作・演出 舟橋聖一 演出 中村鴈治郎  「夕霧の恋」
(2) 構成・演出 山本紫野  「雪月花」
中村竹弥 沢村訥升 榎本美佐江 霧立のぼる 花柳武始

昭和43年11月 第23回コマ歌舞伎
(1) 原作 三上於菟吉 脚本・演出 衣笠貞之助
  「雪之丞変化」
(2) 構成・演出 山本紫朗 鞍舞 花柳芳次郎 「雪月花」
花柳小菊 東千代之介 石山健二郎 宮城まり子 高田美和

昭和44年4月 第24回コマ歌舞伎
(1) 原案 小国英雄 作・演出 磐谷慎一  「男の花道」
(2) 構成・演出 山本紫朗  「雪月花」
島田正吾 三浦布美子 東千代之介 川路龍子 北条きく子

昭和45年10月 第25回コマ歌舞伎
(1) 原作 山崎豊子 脚色 土井行夫 演出 松浦竹夫
   「ぼんち」
(2) 構成・演出 山本紫朗  「雪月花」
淀かおる 花柳武始 北上弥太郎 茶川一郎 中村芳子

昭和46年10月 第26回コマ歌舞伎
(1) 原作 菊池寛 脚本 野口達ニ 演出 松浦竹夫
   「藤十郎の恋」
(2) 構成・演出 山本紫朗  「雪月花」
岡田茉莉子 花柳武始 金田龍之介 北上弥太郎

昭和47年10月 第27回コマ歌舞伎
脚本 平岩弓枝 演出・振付 藤間勘十郎
 「西鶴一代男」
林美智子 加東大介 中尾ミエ 安田道代

昭和48年10月 第28回コマ歌舞伎
(1) 原作 村松梢風 脚本・演出 巌谷慎一 「残菊物語」
(2) 構成・演出 山本紫朗    「雪月花」
朝丘雪路 尾上菊次郎 花柳喜章 長谷川澄子 本郷秀雄

昭和49年11月 第29回コマ歌舞伎
(1) 作・演出 花登筺 「こぼんさん」
(2) 構成・演出 山本紫朗 「雪月花」
島田正吾 高田美和 衣通月子  花柳喜章 茶川一郎 北上弥太郎

昭和51年9月 第30回記念コマ歌舞伎
(1) 作・演出  花登筺  「淀屋橋物語」
(2) 構成・演出 山本紫朗  「雪月花」
島田正吾 天津乙女 星由里子 桂小金治 花柳喜章 仲真貴

前年梅田コマに契約社員として入った吉村は初めてコマ歌舞伎に触れた
しかしコマ歌舞伎はこの30回目を節目に中止となった
19年30回に渡ってこのコマ歌舞伎シリーズは続いて上演された
相手役には天津乙女、春日野八千代、神代錦らベテランをはじめ乙羽信子、有馬稲子
ら元宝塚のスターがズラリ
スタッフも劇作四天王の川口松太郎、中野実、北条秀司、菊田一夫ら当時の一流が並ぶ

坂田藤十郎のウィキペディアには松竹専属時代しかキャリアを載せていないが

これが扇雀全盛期の抜け落ちたキャリアである
僕もその一番最後とはいえスタッフの一人として参加出来たことが自慢です



平成2年三代目中村鴈治郎襲名
鴈治郎時代のエピソード
曽根崎心中1000回記念公演は平成7年1月16日 中座にて公演
翌日17日阪神大震災が起こるが前日より泊まりでの見物客が多かった為無理矢理開演、日航ホテル他近くのホテル組は歩いて楽屋入りが出来たが関西在の下座の役者は交通機関が壊滅していて歩きなど苦労しての楽屋入り 1時間押しで開けたが200人の入り 
当然関西の劇場で開演したのは中座だけであった

平成17年四代目坂田藤十郎襲名

令和2年11月12日老衰の為死去


白鷺だより(374) 扇雀はんとコマ歌舞伎(2)

2020-11-20 13:53:46 | 演劇資料

 扇雀はんとコマ歌舞伎(2)



昭和36年4月 第十一回コマ歌舞伎
(1) 作・演出 椎名龍治 「大阪野郎」
(2) 構成・振付 藤間良輔 脚本・演出 竹内伸光 「雪月花」
(3) 作・演出 北条秀司  「浮舟」
扇千景 花柳喜章 雪代敬子 中村芳子 鈴 真弓 伊吹友木子
扇千景は昭和32年5月をもって扇雀と結婚のため宝塚を退団

この年松本幸四郎親子が松竹を離脱、東宝専属となる

昭和36年7月 東宝劇団披露歌舞伎公演
(1) 作 千谷道雄 「鶴寿の顔見世」
(2) 作・演出 菊田一夫 「野薔薇の城壁」
松本幸四郎 市川中車 市川染五郎 中村萬之助 越路吹雪 浜木綿子 多々良純

昭和36年11月 第十二回コマ歌舞伎
(1) 作 大垣肇 演出 程島武夫 「帰らざる者」
(2) 構成・演出 長谷川一夫 「雪月花」
(3) 作 泉鏡花 脚本・演出 衣笠貞之助 「歌行灯」
花柳喜章 阪東鶴之助 市川小太夫 井伊友三郎 夏川静代 雪代敬子 中村芳子

昭和37年3月 第十三回コマ歌舞伎
(1) 原作 川口松太郎 脚本 大垣肇 演出 丈木清 「俺は藤吉郎」
(2) 構成・按舞 藤間勘寿郎 構成・演出 竹内伸光 「雪月花」
(3) 作 泉鏡花 脚本・演出 衣笠貞之助 「滝の白糸」
花柳喜章 阪東鶴之助 金田龍之助 梓真弓

昭和37年11月 第14回コマ歌舞伎
(1) 脚本・演出 竹内伸光 「千姫と秀頼」
(2) 原作 織田作之助 脚本 茂木草介 演出 中村鴈治郎 「夫婦善哉」
(3) 構成・振付 藤間良輔 振付 松原貞夫 「雪月花」
市川団子 北上弥太郎 市川段四郎 井伊友三郎 雪代敬子 万代峰子

昭和38年4月 第15回コマ歌舞伎
(1) 作・演出 北条秀司 「女将」
(2) 作 萩原雪夫 演出・振付 藤間勘寿郎 「雪月花」
(3) 作・演出 郷田悳  「島之内行燈」
山田五十鈴 市川中車 中村芳子 中村松若

昭和38年10月 第16回コマ歌舞伎

(1) 作 演出 高橋博 平中物語より「愛よりあらじ」
(2) 原作・脚本・演出 成沢昌茂 「浪花の恋の物語」
(3) 構成・演出 竹内伸光 振付 藤間勘寿郎 「雪月花」
有馬稲子 市川中車 中村芝鶴 花柳武治 中村芳子

昭和39年4月  第17回コマ歌舞伎
(1) 構成・演出 内海重典 「雪月花」
(2) 原作 近松門左衛門 脚本・演出 成沢昌茂 「浪花の恋の物語」
有馬稲子 井伊友三郎 中村芝鶴 渡辺粂子 万代峰子 花柳武治 夏川かおる

昭和39年11月 第18回コマ歌舞伎
(1) 作・演出 北条秀司  「物いわぬ雪」
(2) 作・演出 川口松太郎、演出 大江良太郎 「明治一代女」
(3) 構成・演出 竹内伸光 「雪月花」
高田浩吉 宮城まり子 大矢市次郎 花柳武治 

昭和40年3月 第19回コマ歌舞伎
(1) 構成・演出 西川鯉三郎  「雪月花」
(2) 作・演出 川口松太郎 演出 郷田悳 「小春治兵衛」
中村福助 中村芳子

昭和40年11月 第20回コマ歌舞伎
(1) 原作 川口松太郎 脚本・演出 郷田悳 「芸道一代男」
(2) 構成・演出 山本紫朗 「雪・月・花」
中村鴈治郎 中村玉緒 林又一郎 三益愛子 市丸 赤坂小梅
成駒屋一家全員集合

以下コマ歌舞伎(3)に続く


白鷺だより(373)扇雀はんとコマ歌舞伎(1)

2020-11-20 09:38:17 | 演劇資料

     扇雀はんとコマ歌舞伎(1)

四代目坂田藤十郎が老衰で死んだ 我々にとってはこの人は人間国宝坂田藤十郎でもなく鴈治郎はんでもない 扇雀はんだ もっと言えば我々にとっての鴈治郎はんは大映映画で活躍した「中村鴈治郎」はんだ
さてこれから書こうと思っているのは扇雀はんと梅田コマが蜜月時代に公演した「コマ歌舞伎」の公演記録だ 亡くなってから藤十郎のことをウィキペディアで調べたがこの名実ともに一番全盛期の「扇雀」時代の記録が一切ない 資料のほとんどは松竹サイドから出ていると思われるからである

若さといい役者として一番勢い時代の記録がない こんな残念なことはない 

書き始める前にその前史から
昭和16年道頓堀角座で「山姥」の金時役で二代目扇雀を襲名、初舞台を踏む
昭和24年武智鉄二率いる「武智歌舞伎」に参加
昭和28年復活上演「曽根崎心中」のお初が大絶賛 扇雀ブーム起きる
昭和30年 松竹を離脱 宝塚映画の専属俳優となる
昭和32年 東宝の専属となる

昭和31年梅田コマ劇場開場

コマ歌舞伎とは劇場を持たない人気役者とそれを新劇場の目玉にしようとしたコマ劇場がともに企画したシリーズである
それは扇雀が松竹に復帰する昭和38年以降も続いた



昭和32年3月 第一回コマ歌舞伎
(1) 作・演出 村上元三「恋の一代男」
(2) 構成 長谷川一夫 演出 山本紫朗 舞踊「春夏秋冬」
(3) 作・演出 菊田一夫 演出 高木史朗 「花の水滸伝」
越路吹雪 三木のり平 有島一郎 岩井半四郎

昭和32年9月 第二回コマ歌舞伎
(1) 作・演出 中野実 「摩天楼と花」
(2) 作 青江舜二郎 演出・振付 藤間勘十郎 「風雲島原戦記」
越路吹雪 伊志井寛 岩井半四郎 山内明

昭和33年1月 第3回コマ歌舞伎
(1) 作・演出 村上元三 「佐々木小次郎」
(2) 作 田中青磁 構成・演出 長谷川一夫 お夏清十郎「恋の笹舟」
(3) 作 陣出達朗 演出 伊藤寿郎 遠山の金さん一番手柄「明星小判」
実川延二郎 岩井半四郎 万代峰子 野上千鶴子

昭和33年6月 第4回コマ歌舞伎
(1) 作 陣出達朗 演出 伊藤寿郎
    遠山の金さん二番手柄「鉄火百萬石」
(2) 作・演出  白井鉄造 「花競四季絵巻」
実川延二郎 岩井半四郎 中村芳子 北川町子

昭和33年10月 第5回コマ歌舞伎
(1) 作 八住利雄 脚色・演出 菊田一夫 「伊那の勘太郎」
(2) 構成・演出 長谷川一夫 「雪月花」
(3) 原作 村松梢風 脚色・演出 磐谷慎一 「残菊物語」
岩井半四郎 乙羽信子 阪東箕助 北川町子

北川町子は東宝の女優 東宝俳優児玉清の妻 児玉が養子に入る

昭和34年1月 第6回コマ歌舞伎
(1) 原作 吉川英治 脚色・演出 菊田一夫 「新平家物語」
(2) 構成・演出 白井鉄造 「雪月花」
(3) 作・演出 川口松太郎 「蛇姫様」
古川ロッパ 阪東箕助 岩井半四郎 天津乙女 久慈あさみ 神代錦

昭和34年6月 第7回コマ歌舞伎
(1) 作・演出 長谷川幸延 「大瀬の半五郎」
(2) 構成・演出・振付 藤間良輔 「雪月花」
(3) 作・演出 郷田悳 演出 中村鴈治郎 「女殺し油地獄」
岩井半四郎 花柳喜章 南悠子 北川町子 嵐三右衛門

昭和34年11月 第八回コマ歌舞伎
(1) 作 長谷川伸 演出 谷屋充 「瞼の母」
(2) 構成・演出 長谷川一夫 「雪月花」
(3) 原作 泉鏡花 脚色・演出 川口松太郎 「滝の白糸」
乙羽信子 花柳喜章 井伊友三郎 中村芳子 北川町子

昭和35年6月 第九回コマ歌舞伎
(1) 作 長谷川伸 演出 谷屋充 「沓掛時次郎」
(2) 作・演出 北条秀司 舞踊劇「おらんだ狐」
(3) 原作 近松門左衛門 作・演出 長谷川幸延 「悲恋おんな坂」
八千草薫 市川小太夫 中村芳子 花柳喜章

昭和35年10月 第十回コマ歌舞伎
(1) 作 巌谷慎一 改作・演出 脇屋光伸  「いがみの権太」
(2) 構成・演出 長谷川一夫 「雪月花」
(3) 原作 舟橋聖一 脚本・演出 依田義賢 「田の助紅」
霧立のぼる 雪代敬子 花柳喜章 茶川一郎 阪東三津五郎 北川町子

以外コマ歌舞伎(2)に続く